第百二十六話 証拠
紫灰の裂け目が黒く沈む。
來は、その奥へ身体を滑り込ませた。
緋色の灯火が爆ぜる。
皮膚を焼く。
肉を灼く。
「……っ」
灯火が脈打つ。
來の鼓動と重なった。
(……光じゃない)
熱が身体を駆け抜ける。
視界が白く染まった。
現実が消える。
「——來っ!!」
沙苗の声が遠ざかる。
裂け目の前。
沙苗が足を止めていた。
道源。
蒐。
朱禰。
三人の視線も、來へ向いている。
來だけが——
別の何かを見ていた。
白い虚空。
そこに二本の鎖が浮かぶ。
一本。
もう一本。
互いへ伸びていく。
典膳。
明里。
二本の鎖が近づく。
絡み合う、その直前。
(……何だ)
白い虚空に何かが現れた。
手。
顔はない。
姿も見えない。
手が、二本の鎖の間へ入る。
來の目が見開かれた。
「…………」
指が鎖を掴む。
そして——
捻った。
——パチリ——
乾いた音。
二本の鎖が歪む。
離れる。
互いへ伸びる。
届かない。
さらに伸びる。
届かない。
何度繰り返しても交わらない。
來の胸で、緋色が爆ぜた。
(……そうか)
灯火が二本の鎖の間を走る。
離された鎖を繋ぐように。
何度引き裂かれても消えずに残る。
二人の間に残った願い。
事故ではない。
不運でもない。
あの手が——
二人の因果を捻じ曲げた。
白い虚空が崩れる。
紫灰。
黒い裂け目。
來の意識が現実へ戻った。
「來……?」
沙苗が呼ぶ。
來は裂け目の奥を見る。
何もいない。
何も見えない。
それでも見た。
「……お前が」
黒い深淵へ——
來の声が落ちる。
「——お前が、始めたのか」
裂け目は動かない。
紫灰の空も変わらない。
——ズゾッ——
裂け目の奥から——
何かが返った。
拒絶ではない。
これまでとは違う。
來の問いに——
応えた。
冷たい反応が、世界を揺らした。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。
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和風怪異とはまったく異なる、
魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。
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