第百二十五話 接触
紫灰の空が裂けた。
叫び。
重さ。
亀裂がそこに在る。
裂け目の奥。
闇ではない。
何もない。
それなのに——
何かが在る。
來が目を細めた。
(……何かが、いる)
明里はいない。
典膳もいない。
だが残っている。
誰かがそこにいた。
その痕跡。
衣擦れ。
凍りついた涙。
声にならなかった何か。
すべてが——
裂け目の奥に沈んでいる。
「くっ……」
沙苗が胸を押さえる。
膝が落ちる。
「何……この、息苦しさ……」
典膳。
明里。
積み重なった——
数百年。
押し潰された感情が沙苗を呑む。
道源の足が止まった。
「これは……典膳の……」
拳を握る。
「お前は……ずっと一人で背負っていたのか……」
蒐も動かない。
ただ拳を握りしめる。
——ギリッ——
朱禰の扇が鳴った。
視線が周囲を走る。
世界の境界が——
変わり始めている。
その中を一人。
來が歩く。
「——止まるな」
——ザッ——
足音が響く。
悲しみはある。
恐怖もある。
來は進む。
見るべきものは感情ではない。
その奥。
感情をここへ縛りつけた因果。
——ドクンッ——
緋色の灯火が脈打つ。
——ドクンッ——
灯火が強くなる。
——ドクンッ——
來の鼓動。
灯火の脈動。
(……同調してる?)
緋色が波紋を描く。
耳の奥。
微かな響き。
声にもならない——
何か。
知っている。
この響きを。
聞いたことなど——
ないはずなのに。
「お前は——」
來が裂け目を見つめる。
「誰を待っている?」
——ドクンッ——
緋色が弾けた。
眩い光が——
繋がる。
意識が引かれる。
裂け目の奥へ。
さらに——
深く。
(…………)
來の目が見開かれた。
(待て)
典膳。
明里。
近づく。
離れる。
また近づく。
また——
離れる。
何度も。
何度も。
(……違う)
偶然じゃない。
來の視線が軌跡を追う。
離れても。
歪む。
近づいても。
ずれる。
すべてが噛み合わない。
(これは……)
運命の悪戯ではない。
会えなかったのではなく——
会わせなかった。
「……誰だ」
沙苗が顔を上げる。
「來……?」
來は裂け目から目を離さない。
「二人を……」
——ギシッ——
「会わせないように——」
空間が軋む。
「因果を、動かしたのは」
誰も声を出さない。
繰り返された——
すれ違い。
偶然ではない。
悲劇でもない。
最初から——
そうなるように置かれていた。
何故。
これほどの歪みが残っている。
何故。
世界は消さなかった。
生々しく開いた——
世界の瑕疵。
その奥。
何かが息をしている。
悲劇の跡じゃない。
終わらない悲劇を生み続ける——
原因そのもの。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
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魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。
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