第百二十四話 答灯
紫灰の空はまだそこに在った。
色彩が揺れる。
水面に波紋が広がる。
誰かが指先で触れたかのように
世界が動き始める。
「……空が、呼吸し出した……」
沙苗の声が震える。
胸を刺す——
典膳と明里の感情。
道源は目を逸らさない。
朱禰も。
蒐も。
誰もが見つめる。
紫灰の渦。
その中心。
——ドクンッ——
緋色の灯火が脈打った。
來の瞳が細まる。
灯火が揺れる。
典膳と明里。
二人の軌跡が近づく。
重なる——
その直前。
離れる。
——ドクンッ——
灯火が脈打つ。
再び。
近づく。
離れる。
——ドクンッ——
(……これは……)
來の目が軌跡を追う。
繰り返しているんじゃない。
流れてもいない。
同じ場所。
同じ瞬間。
何度引き裂かれても——
そこへ戻される。
二人の軌跡。
その中心で緋色が灯る。
(観測してるんじゃない)
——ギシッ——
紫灰の空が軋む。
二つの軌跡を引き寄せる線。
鎖。
二人を拒むように——
空間が歪む。
「……違う」
來の声が響いた。
「え?」
沙苗が振り向く。
來は空を見ていない。
その奥。
紫灰の向こう側を見つめている。
「これは……輪廻じゃない」
——ドクンッ——
「……固定された歪み」
緋色の灯火が脈打つ。
揺れる。
そして——
止まった。
灯火が伸びる。
細い緋色。
紫灰を裂き——
一点を指す。
「……あれだ」
來の視線が重なる。
何もない。
誰の目にも何も見えない。
だが、來には見えていた。
——ピシッ——
紫灰の空に亀裂が走る。
僅かに——
開く。
「…………」
裂け目の奥。
誰かが——
息をしている。
——バサッ——
朱禰が扇を広げた。
道源が前へ出る。
來だけは動かない。
深淵を見つめる。
「……動かなくていい」
静かな声。
誰に向けたものでもない。
來は——
紫灰の向こうへ告げた。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
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和風怪異とはまったく異なる、
魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。
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