第百二十三話 問灯
音が消えていた。
瓦礫の軋みもない。
上空を覆う紫灰の空。
雲は動かない。
光の出処すら見えない。
空そのものに穿たれた——
裂け目。
廃墟の最深部。
息遣いさえ沈黙に呑まれていた。
境界の手前。
朱毛の獣が立ち止まっている。
牙は剥かない。
吠えもしない。
ただ、深淵を見つめていた。
その先にあるものを。
生ある者が踏み入れてはならない——
何かを。
「……ひどく、静かね」
沙苗の掠れた声。
沈黙が僅かに揺れる。
道源が顔を歪める。
朱禰が胸を押さえた。
流れ込んでくる。
典膳。
明里。
裏切り。
絶望。
交わる激情。
そして——
引き裂かれる。
何度も。
何度も。
胸を抉る痛みに耐えるだけ。
だが來だけは違った。
瞳が捉える。
痛みではない。
その奥。
深く静かに沈んだ記憶。
幾重にも重なる。
捩れる。
狂う。
それでも消えない。
典膳と明里。
二人の歩み。
近づく。
離れる。
また近づく。
そして——
引き裂かれる。
來の目が細まる。
(……いや、違う)
離れているんじゃない。
二人の軌跡が離れようとする。
——ギシッ——
空間が歪む。
軋む。
——ギギィ——
限界まで捩じ曲がる。
二つの軌跡を引き戻す。
繋ぎ止める。
無理やりに。
そこに——
何かがいる。
來の視線が止まった。
二つの軌跡の中心。
静かに明滅する緋色。
小さな灯火。
典膳ではない。
明里でもない。
二人のどちらにも属さない色。
願いの残骸か。
それとも——
輪廻を狂わせる何かか。
「來……?」
朱禰の声。
「何を見てるんだい……」
遠い何か。
紫灰の空が——
脈打つ。
その圧力が廃墟を満たしていく。
來の瞳だけがその揺らぎを追う。
戦うべきものではない。
目の前にあるのは——
問い。
その始まり。
絡まり続けた因果。
最初の一点。
(……これが……)
緋色の灯火が明滅する。
(輪廻の鎖の正体——)
來が口を開く。
——ドクンッ——
緋色の灯火が——
暴力的に揺らいだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。
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そして、もうひとつの物語——
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和風怪異とはまったく異なる、
魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。
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今後ともよろしくお願いいたします。




