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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~灰鏡に咲く緋華~

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第百二十二話 輪廻の導標

朱毛の獣が進む。


——ザッ——


夕陽はもう届かない。


影だけが濃くなっていく。


「…………」


朱禰が足を止める。


「今……」


崩れた泥壁。


——ユラッ——


景色が揺れる。


「……っ」


縁側。

古い屋敷。


そこに——

誰かが座っている。


「…………」


朽ちた壁。

何もない。


「何だったんだ……今の」

——サアァァァ——


砂埃が舞う。


「……っ」


沙苗が目を細める。


舞い上がる砂。


その一部が——

着物の裾になる。


「明里……さん?」


——サラッ——


消える。


「……う……ぁ……」


典膳の血に濡れた手。


何かを守るように——

立っている。


「…………」


道源が拳を握る。


——ギリッ——


血が滲む。


朱禰の視界。


一人で立つ——

男の背中。


その後ろ。

家族。


「……っ」


朱禰が目を細める。


明里。

腕の中。

小さな命。


「……明典」


明里が微笑む。


姿が緋色へ溶ける。


蒐の視界。

白い境界。


「…………」


明里が立っている。


何もない。

誰もいない。


それでも——

待っている。


「…………」


蒐が目を伏せる。


來は——

前を見ていた。


灰色の海。


一人の男が歩いている。


「…………」


その先。

女がいる。


「明里……」


來の瞳が見開かれる。


近い。

ほんの数歩。


典膳が歩く。


明里も——

歩く。


「…………」


互いを探している。


典膳が振り返る。


明里が通り過ぎる。


「……っ」


明里が振り返る。


典膳は——

もういない。


「違う……」


來が呟く。


二人が歩く。

近付く。

すれ違う。

離れる。


また——

近付く。


「…………」


手を伸ばす。


典膳。

明里。


指先。


あと——

僅か。


——ザアッ——


灰色が遮る。


「……違う」


來が拳を握る。


「会えなかったんじゃない」


「…………」


何度も——

そこまで来ていた。


來が二人を見る。


その間。


何かが——

揺れている。


「……?」


緋色。


小さな灯火。


「…………」


典膳が手を伸ばす。


その先に緋色。


明里が手を伸ばす。


その先にも同じ緋色。


「……あれは」


來が目を凝らす。


姿はない。

名前もない。


ただ——

燃えている。


二人の間。


消えそうになりながら。


それでも消えない。


「…………」


典膳。

明里。


そして——

緋色。


來の瞳に——

三つの影が映る。


「來……?」


「……っ」


沙苗の声。


景色が消える。


「大丈夫?」


「……ああ」


前を見る。


朱毛の獣が——

止まっている。


「……ここは」


道源が周囲を見る。


廃墟の最奥。


その先は何もない。


道も。

建物も。

光も。


「…………」


朱毛の獣が頭を上げる。

天を見る。


「……何だ」


朱禰の声が落ちる。


「これは……」


空が——

ない。


紫。

灰。


二つの色が混ざり合う。

巨大な渦。


——グニャッ——


世界が歪む。


「何よ……これ……」


沙苗が息を呑む。


まるで——

海の底。


遥か上。


水面のように——

境界が揺れている。


「……あそこに」


來が呟く。


「え?」


沙苗が見る。


來は紫灰の空を見ている。


「…………」


先ほどの緋色。


典膳。

明里。


伸ばされた——

二つの手。


「まだ……」


來が目を細める。


「繋がってる」


「……いるというのか」


道源が來を見る。


「……ああ」


來は空を見据える。


紫と灰。


その奥。


何かが——

揺れた。


「…………」


朱毛の獣も見ている。


誰も動かない。


紫灰の空だけが——

静かに渦を巻いていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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