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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~灰鏡に咲く緋華~

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第百十八話 長い影

昼下がり。


大通りを人が行き交う。


「瓦版だよー!」


荷車が軋む。

牛が鳴く。

子供が走る。


いつもの町。

いつもの景色。


「…………」


道源が足を止める。


人々の足元を見る。


「……長い」


影が伸びている。


太陽は頭上。


町人の影。

荷車の影。

軒先の影。


すべてが——

東へ伸びている。


「…………」


誰も気付かない。

人々は影を踏みながら歩いていく。


道源が空を見る。


太陽の位置を確かめる。


再び足元を見る。


——ズズッ——


長屋の影が伸びる。


僅かに。

ゆっくりと。


「まだ……」


懐の数珠を握る。


「終わっていないか」


雑踏が道源の声を呑み込む。


その足元。


道源自身の影も僅かに長かった。


町の北端。

寂れた社。


「どうだ、蒐」


「…………」


地面に落ちた影が揺れる。


——ズルッ——


黒い影から蒐が姿を現す。


「……増えてるわ」


來が眉を寄せる。


「どこまでだ」


「ここだけやない」


蒐が森の奥を見る。


「町ん中にも出とる」


二人が奥へ進む。


木々が陽を遮る。

薄暗い森。


——ガサッ——


「…………」


來の手が刀へ伸びる。


木陰。


灰色の獣がこちらを見ている。


「灰牙……」


蒐が身構える。


「…………」


獣は動かない。

唸らない。

牙も剥かない。


ただ——

二人を見ている。


「……なんだ?」


來が柄を握る。


「来ないのか」


「…………」


灰牙が一度だけ鼻を鳴らす。


——フッ——


輪郭が崩れる。


「……っ」


その身体が木陰へ溶けていく。


「待て!」


來が踏み込む。


そこには何もいない。


木の影だけが揺れている。


「……襲ってこんかった」


蒐が呟く。


「…………」


來が刀から手を離す。


「前とは違う」


「せやけど……」


蒐が影を見る。


「消えたわけやない」


木々の隙間。


灰色が僅かに揺れた。


夜。


——カチャッ——


沙苗が最後の皿を置く。


「ふぅ……」


濡れた手を拭く。


「…………」


窓の外を見る。

月が庭を照らしている。


「……?」


沙苗の手が止まる。


庭の中央。


何かがいる。


「…………」


犬。


月明かりの下。


一匹の犬が佇んでいる。


その毛は——

朱。


「……何、あの子」


沙苗が窓へ近付く。

見たことがない。


胸がざわつく。


「……知ってる」


朱毛の犬が沙苗を見る。


「…………」


「あたし……」


沙苗が窓へ手をつく。


「アンタを知ってる……?」


犬は動かない。

尾も振らない。


ただ静かに——

立っている。


やがて、ゆっくりと首を動かす。

その視線の先。


「…………」


紅葉が眠る部屋。


「……紅葉?」


犬は——

そこを見ている。


「…………」


朱毛の犬が目を細める。


——ザッ——


庭の影へ入る。


「待って!」


沙苗が戸を開ける。


「……え?」


誰もいない。


「……消えた?」


月明かりだけが——

庭に落ちている。


「…………」


沙苗が部屋へ戻る。


紅葉は眠っている。

穏やかな寝息。


「…………」


その枕元。

紅葉の影。


「……短くなってる」


伸びていた影が戻っている。


ほんの僅か。

それでも確かに。


「…………」


沙苗が窓を見る。


朱毛の犬はもういない。


——カチッ——


柱時計が鳴る。


「…………」


——カチッ——


夜が静かに進む。


その頃。


町の至る所で——

長い影が揺れていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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