第百十五話 残傷
第百十五話 残傷
世界はまだ歪んでいた。
遠くの街並みが揺れる。
——スゥッ——
色が抜ける。
白く透けまた戻る。
空には一つの月。
その輪郭は滲み。
夜の色も戻らない。
「……あ、つ……」
沙苗が腕を見る。
「…………」
真っ赤に腫れていた。
紅葉を抱きしめた両腕。
——ジリッ——
焼けるような痛みが走る。
「沙苗……大丈夫なの?」
柚が恐る恐る近付く。
「平気、平気……」
沙苗が袖を引く。
赤く腫れた腕を隠す。
「ちょっと、日焼けしただけよ」
「…………」
柚が眉を寄せる。
沙苗は笑っている。
その肩が小さく震えた。
——チカッ——
視界が緋色に染まる。
「……っ」
——カチッ——
耳の奥。
時計の音が鳴る。
——カチッ——
「…………」
道源が沙苗を見る。
その足元は崩れない。
世界が歪んでも——
そこだけは動かない。
「……理より優先される我、か」
「…………」
道源の声が落ちる。
來が黒刀から手を引く。
「……紅葉」
「…………」
「帰るぞ」
紅葉がゆっくりと振り返る。
灰色の瞳。
その奥に——
緋色が揺れていた。
「はい……」
紅葉が微笑む。
「帰りましょう」
いつもの笑顔。
穏やかで。
優しい。
——ユラッ——
指先の輪郭が揺れた。
沙苗がその手を見る。
「…………」
紅葉は戻った。
だが、世界はまだ彼女を受け入れていない。
——ザッ——
紅葉が一歩を踏み出す。
足元に影が落ちる。
「…………」
紅葉が止まる。
影だけが動いた。
——ユラッ——
別の方向へ伸びていく。
「……?」
紅葉が小首を傾げる。
自分の影を見る。
「……うん?」
影が止まる。
紅葉はしばらく見つめ——
いつものように微笑んだ。
その足元。
影だけが——
僅かに揺れていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。
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そして、もうひとつの物語——
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和風怪異とはまったく異なる、
魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。
あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。




