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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~灰鏡に咲く緋華~

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第百十話 不一致な地平

一行の足が止まる。


「…………」


四辻。


いつもの見慣れた道。


「……ねえ」


沙苗が左を指差す。


「あんな細い路地」


「…………」


「前からあった?」


「何言ってる」


來が同じ場所を見る。


「左は呉服屋の蔵が並んでるだけだろ」


「……は?」


「それより」


來が右を見る。


「あの鳥居——」


「鳥居?」


「あんなもの、あったか?」


「……何言ってんの?」


路地。


鳥居。


同じ四辻。


同じ場所。


なのに——

同じものが見えていない。


「……紅葉」


柚が振り返る。


「あなたには何が見えるの?」


「…………」


紅葉は正面を見ている。


何もない。


ただの道。


「……ありません」


「え?」


「道なんて——」


紅葉の瞳が揺れる。


「ありません」


「じゃあ、何があるの?」


「壁です」


「壁?」


紅葉が手を伸ばす。


「泣いている人たちの——」


指先が震える。


「背中が壁になって」


「…………」


「街を塞いでいます」


「——っ」


沙苗が正面を見る。


何もない。


來も見る。


何もない。


「…………」


沙苗は路地へ。


來は鳥居へ。


紅葉は——

行き止まりへ。


同じ世界にいる。


そのはずなのに——

同じとは限らない。


「……父さん!」


沙苗が叫ぶ。


「どうなってるのこれ!」


「…………」


「説明してよっ!」


数歩先。


道源が立っている。


「…………」


沙苗には——

黒い朝日を背負う影。


來には——

淡い夕暮れへ溶ける老人。


「……道源さん?」


柚には——

透けているかのように。


「……理が死んだか」


道源が呟く。


「理が……?」


「世界と——」


「…………」


「お前たちを繋ぎ止めていた」


道源が空を見る。


「共通の約束事が」


「…………」


言葉が——

止まる。


「……いや」


道源が僅かに眉を寄せる。


「違うな」


「父さん?」


「死んだというのは——」


視線は前。


だが——

焦点が合っていない。


「正確ではないかもしれん」


「じゃあ何なのよ」


道源が四辻を見る。


「剥がれ落ちた」


「何が?」


「現実だ」


「——っ」


「もともと——」


道源の羽織が揺れる。


「一枚ではなかった」


「…………」


「現実の薄皮が——」


——ガシャン——


「——っ!」


一同が振り返る。


通りの中央。


一軒の露店。


「……飴屋?」


沙苗が看板を見る。


「何言ってる」


來が眉を顰める。


「薬屋だろ」


「……違う」


沙苗が來を見る。


「あれは飴屋よ」


「二人とも……」


柚が呟く。


「あれ——」


「…………」


「刃物屋じゃないの?」


「——っ」


「…………」


柚が——

歩き出す。


「柚?」


「…………」


ふらふらと。


露店へ近づく。


台の上。

飴。

薬。

刃物。


そのどれでもない——


「…………」


白い何か。


僅かに——

光っている。


「柚、触るな」


來の声。


——スッ——


柚の指が触れる。


——パチッ——


「——っ!」


火花。


感覚が走る。


全員の中を同時に。


「味が……」


柚が目を見開く。


「え?」


「味がする」


「何の?」


柚が振り返る。


「牛鍋の——」


「…………」


「匂いがした」


——スッ——


路地が消える。


鳥居が消える。


壁が消える。


「……え?」


すべてが——

同じになる。


平坦。

正常。


日常が重なる。


「今の……」


沙苗が辺りを見る。


「重なったの?」


柚を見る。


「戻ったの……?」


柚の顔は——

蒼白だった。


「違う」


「え?」


「まともになったんじゃない」


「じゃあ……」


柚が手元を見る。


白い欠片。


飴ではない。

薬でもない。

刃物でもない。


誰が見ても——

同じ。


「…………」


認識が違う。


世界が違う。


これだけが。


誰が見ても——

同じ。


「……誰かが」


紅葉が呟く。


「…………」


空を仰ぐ。


「泣いている気がする……」


——ズズッ——


景色が滲む。


揺らぐ。


さらに——

深く沈む。


「…………」


沙苗が空を見る。


「……何?」


「…………」


一つではない。


二つ。


三つ。


「……月?」


昼の空。


淡い光の中。


月が——

浮かんでいる。


幾つも——

幾つも。


「…………」


誰が見ても。


同じ月が——

重なる。


「父さん……」


沙苗が呟く。


「これも……私たちの見え方が違うだけなの?」


「…………」


道源は答えない。


幾重にも重なる月。


世界は分かれていた。


一人ずつ。


違う現実を——

見ていた。


今は違う。


全員が。


同じ異常を見ている。


世界が一致したのではない。


——ズズズッ——


不一致そのものが——

一つの現実になり始めていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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