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輪廻の瑕疵  作者: 朔來 織
~灰鏡に咲く緋華~

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第九十八話 須藤家の女と鬼二人

湿った空気が肌へ纏わりつく。

遠くの景色は色ごと呑み込まれていた。


——ズズッ——


——ズズズッ——


何かを引き摺る音。


「……何かしら」


「さあ」


沙苗が答える。


——ズズッ——


沙苗と朱禰の二人は霧を見る。


——ズズズズッ——


朱禰が扇を開いた。


——パサッ——


「なんか気が抜けた音ね」


「奇遇ね」


沙苗も肩を落とす。


「あたしもそう思う」


直後——

聞きなれた声が響く。


——ガツッ——


『いたあっ!?もっと丁寧に運ばんかいっ!!』


「……」


沙苗が目を閉じた。


「やっぱり」


『こちとら怪我人なんやで!?』


『うるせえな』


軽妙な声が響く。


『怪我すんのが悪い』


「……」


朱禰が額を押さえる。


『引き摺ってくださってありがとうございます、だろうが』


『誰が言うかボケェッ!!』


——ズズズズズッ!!——


『引き摺られ過ぎて背中が地面と恋するぐらい熱いっ!!』


「來様!」


紅葉の顔が明るくなる。


——ザッ——


霧の向こうから近付く人影。


「おー」


口には煙草。


右手には——

足。


「何してんのよ」


「運んでる」


「それを?」


「これを」


來が右手を持ち上げ——


——ポイッ——


「ぬあっ!?」


蒐の身体が少し浮く。


——ベチャッ——


「痛ぁっ!!」


「怪我人」


「扱いの話しとんねん!!」


「ふーっ」


來が蒐を見下ろしながら煙を吐く。


——ヒクヒクッ——


蒐のこめかみに青筋が浮かぶ。


「……絶対泣かしたる」


「着いたぞ」


「ありがとうございますぅ!!」


來が沙苗に目を向けた。


「戻った」


「……」


蒐は泥にまみれ。傷だらけ。


來も服が裂け、血が滲んでいた。


「……」


沙苗の肩から。

力が抜けた。


「ほんっと——」


大きなため息をつく。


「バカばっか」


「あはははっ!」


朱禰が笑う。


「随分と派手に遊んできたみたいね」


——パチン——


扇を閉じて二人を見る。


「遊びちゃいますよ」


蒐が起き上がろうとする。


——グッ——


「……っ」


身体が言うことを聞かない。


「……」


——グッ——


「…………」


來は蒐を見る。


「弱いな」


「誰のせいやと思っとんねん!!」


——タタタッ——


「お帰りなさい!!」


紅葉が蒐の前まで走ってくる。


「紅葉も無事やったか」


「はい!」


しゃがむ紅葉。


泥だらけの蒐を——

覗き込む。


「……」


蒐が笑う。


「ただいまや」


「はい!」


紅葉も笑う。


「お怪我、大丈夫ですか?」


「まあな」


「痛いです?」


「そら痛——」


紅葉が首を傾げる。


「もしかして」


「……ん?」


「蒐様って」


——ニコッ——


「弱いのです?」


「…………」


來が煙草に目を向ける。

朱禰が扇で口元を隠す。

沙苗が顔を逸らした。


三人の肩が小刻みに震えている。


「……紅葉」


「はい」


「誰かが言ってたん?」


「誰も言ってないですよ?」


「……」


「見て思いました!」


「追い打ちぃ!!」


「あ、あの……違いました?」


「違う!!」


——バンバンッ!——


蒐が地面を叩く。


「ちゃうねん!!」


「え?」


「あのな!!」


來を指差す。


「こいつが!!」


「俺?」


「お前以外誰がおんねん!!」


「たくさんいるぞ」


「そういう話ちゃうわっ!!」


蒐が紅葉へ向き直る。


「ええか、紅葉」


「はい」


「あの脳筋が」


忌々し気に來を見る。


「意味分からんぐらい強いだけや」


「……」


紅葉が來を見る。


「では——蒐様は弱くない?」


「せや!」


「來様がすごく強い?」


「頭空っぽやけどな!!」


「分かりました!」


「分かってくれたか!」


「はい!」


満面の笑みでとどめを刺しにかかる。


「蒐様は普通なんですね!」


「言葉が鋭利ぃぃぃぃっ!!」


朱禰が吹き出した。


「あはははっ!」


「笑わんといてくださいよ!!」


沙苗も堪えきれない。


「あはははっ!!!」


「沙苗様!?」


「ごめ……」


口元を押さえる。


「普通……」


「言うなぁ!!」


「本当のことだろうが」


「よーし!帰ったら甘辛く煮込んだるっ!!」


「雑魚が」


「こんの脳筋がっ!!」


笑い声。

怒鳴り声。


「……」


沙苗が。

その光景を見る。


家族は傷つき泥だらけ。


どうしようもなく——

騒がしい温かさがあった。


「……ほんと」


小さく笑う。


「バカばっか」


灰色の世界。

死のない理。


須藤家の女たちと——

二人の鬼。


今日も確かに——

生きていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。

※本作は「カクヨム」にも重複投稿しています。


もし「沙苗と來のコンビが良いな」「先が気になる」と思ってくださったら、

評価、ブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります。


そして、もうひとつの物語——

『SOUL TR@DE』も毎日18:00更新中です。


和風怪異とはまったく異なる、

魂と市場を巡る近未来ダークファンタジー。


あわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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