表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/41

第32話 再現性

夢世界から、戻った後。


 俺は、しばらく、マットの上に、座っていた。


 疲労が、抜けない。


 夢の中で、戦った疲れが。


 現実の、身体に、残っている。


 北見は、何かを、ノートに、書き込んでいた。


 測定の、結果を、記録しているらしい。


 その、隣で。


 神影涼子が。


 俺を、見ていた。


 藍色の、ポニーテール。


 冷たい、目。


 しばらくして。


 神影が、口を、開いた。


「一つ、聞いていいか」


「……はい」


 俺は、身構えながら、答えた。


 平らな、顔を、保ったまま。



「お前は」


 神影は、言った。


「なぜ、頑なに、接近戦を、挑まない」


 俺は、その問いに。


 内心で、警戒を、強めた。


 戦術の、話を、しているようで。


 その実、神影は。


 俺という、人間を、探っている。


 そんな、気が、した。


「お前の、戦い方を、見ていた」


 神影は、続けた。


「自分の、周囲の、圧縮空気を、自由に、操れるなら。距離を、取れば、その、射程を、外れるかもしれない。だとすれば、距離を取るのは、悪手だろう。なぜ、間合いを、詰めて、戦わない」


 鋭い、指摘だった。


 たしかに、俺の、圧縮燃焼は。


 ある程度の、距離が、必要だ。


 離れすぎれば、届かない。


 なら、密着して、戦った方が。


 確実なはず。


 なのに、俺は。


 なるべく、距離を、保って、戦った。


 その、慎重さを。


 神影は、見抜いていた。



 俺は、慎重に、言葉を、選んだ。


「カウンターの、リスクの方を、優先して、抑えるべきだと、思ったからです」


「カウンター」


「はい」


 俺は、続けた。


「接近すれば、こちらの、攻撃は、当たりやすくなる。でも、同時に。相手の、攻撃も、当たりやすくなる。あの相手は、重さを、無視できる。瓦礫を、軽々と、振り回せる。間合いを、詰めれば、その、一撃で、こっちが、死にます」


「だから、距離を、取ったと」


「そうです」


 俺は、言った。


「敵が、反撃しない、前提の、戦略なんて。現実で、通用しないからですよ」


 神影の、眉が、わずかに、動いた。


「一回、うまく、いっても。相手が、反撃してくれば、終わり。そういう、戦い方は。再現性が、ない。再現性の、ない戦い方は、すべきじゃない」


 俺は、神影を、まっすぐ、見た。


「これ。神影さんが、言ったことですよ」


 神影の、表情が。


 初めて、変わった。


「食事会の、時。神影さん、言ったじゃないですか」


 俺は、続けた。


「もし、現実に。アリシアさんと、同等の敵が、現れたら。その時、また、あんな無茶な、戦いを、するのか、って」


 あの、自爆の、引き分けを。


 神影は、問題に、していた。


 現実で、通用しない、戦い方を。


「だから。今回は。現実でも、通用する、戦い方を、しました。再現性の、ある、戦い方を。間合いを、詰めて、一発、勝負に、賭けるんじゃなく。距離を、保って。リスクを、抑えて。確実に、勝てる、手を」


 神影は、しばらく、黙っていた。


 そして。


「……なるほど」


 短く、言った。


 その、声には。


 わずかな、感心が。


 混じっていた。


 だが。


 その、目は。


 別のことを、考えていた。


 俺の、戦術が、的確であること。


 俺の、学習が、速いこと。


 その、有能さに。


 むしろ。


 引っかかっている、ような。


 そんな、目だった。



 まずい。


 俺は、内心で、思った。


 神影は。


 俺が、自分の、指摘を。


 即座に、吸収して。


 戦い方を、最適化してきたことに。


 感心しながら。


 同時に。


 警戒している。


 動機が、薄いのに。


 戦術は、的確で。


 学習が、速い。


 こいつは、何者だ。


 神影の、頭の中で。


 そんな、疑問が。


 積み重なっている。


 話題を。


 逸らした方が、いい。


 俺は、探られる側から。


 聞く側に、回ることにした。


「っていうか」


 俺は、わざと、軽い口調で、言った。


「この、犯罪者。誰が、どうやって、捕まえたんですか」


 あの、鉄壁の、殺人鬼。


 夢の中で、戦って、苦戦した、相手。


 あれを、現実で、捕らえた者が、いる。


 誰なのか。


 それは。


 特殊生徒会の、戦力を、知る、情報でも、あった。



 その、問いに。


 答えたのは。


 アリシアだった。


「私です!」


 明るい、声で。


 あっさりと。


「え」


 俺は、思わず、聞き返した。


「私が、捕まえました!」


 アリシアは、胸を、張った。


「空間内の、斬撃を、自由に、配置できるので。あいつの、ガードできない、ところから。徐々に、切断して。ダメージを、与えて。数分の、持久戦で。血まみれの、状態に、して。捕らえました!」


 俺は。


 言葉を、失った。


 空間内の、斬撃を、自由に、配置。


 二十八話で、見た。


 半径五十メートル、十連斬。


 あれだけ、では、なかった。


 斬撃を。


 相手の、防御の、隙間に。


 ガードできない、位置に。


 精密に、配置できる。


 あの、鉄壁の、盾を。


 守れない、角度から。


 削り続けて。


「単独で、ですか……?」


 俺は、確認するように、聞いた。


「はい。単独ですけど」


 アリシアは。


 それが、何か、おかしいですか。


 とでも、いうような、顔を、していた。


 本人にとっては。


 当たり前の、ことなのだろう。


 だが。


 俺は。


 驚いていた。


 いや。


 驚き、を、通り越して。


 絶望していた。



 俺が、苦戦した、殺人鬼を。


 アリシアは。


 単独で。


 しかも、持久戦で。


 確実に、捕らえた。


 格が。


 違いすぎた。


 俺は、内心で、思った。


 こんなやつ。


 どうやって、出し抜こう。


 もし、いつか。


 現実で。


 こいつと、敵対することに、なったら。


 神影が、俺を、見抜いて。


 アリシアに、共有して。


 あの、刀が。


 俺に、向けられたら。


 やっべー。


 勝てる気、しねえ……。


 二十七話で、想定した、最悪のライン。


 神影―アリシアの、連携。


 その、片方が。


 鉄壁の、殺人鬼を、単独で、捕らえるほど、強い。


 俺の、潜入が、バレた、瞬間。


 俺は。


 ほぼ、確実に。


 終わる。


 その、現実が。


 アリシアの、無邪気な、報告で。


 はっきりと。


 見えてしまった。



 俺の、内心など。


 知らずに。


 神影が、言った。


「お前は、接近戦が、苦手だと、分かった」


「……はい」


「だが、覚えておけ」


 神影の、声は、淡々と、していた。


「相手の、中には。お前が、接近を、苦手と、見れば。積極的に、接近戦を、挑んでくる、やつもいる」


 なるほど、と、俺は、思った。


 俺の、戦い方を、見れば。


 接近を、避けていることは。


 すぐに、分かる。


 なら、相手は。


 その、弱点を、突いてくる。


 間合いを、詰めて。


 俺が、一番、嫌がる、形に。


 持ち込んでくる。


「訓練くらいは。しておいた方が、いいぞ」


 神影は、言った。


 その、言葉は。


 表面上は。


 親切な、助言だった。


 弱点を、指摘して。


 補えと。


 先輩としての、指導。


 だが。


 俺には。


 別の、意味にも、聞こえた。


 接近戦の、訓練を、しろ。


 それは。


 俺が、接近戦で、どう動くかを。


 神影が。


 見たがっている、ということ、かもしれない。


 訓練の、場で。


 俺が、本当の、力を。


 隠している、何かを。


 うっかり、出してしまわないか。


 それを。


 観察する、機会を。


 作ろうとしている。


 善意なのか。


 罠なのか。


 判然と、しなかった。


 だが。


 どちらにせよ。


「……分かりました」


 俺は、応じるしか、なかった。


 断れば。


 それも、また。


 不審だ。


 従えば。


 神影の、観察下に、置かれる。


 どちらに、転んでも。


 神影の、手のひらの、上だった。



 俺は。


 その、状況に。


 息が、詰まる、思いだった。


 そして。


 ふと。


 口を、ついて、出た。


「……まさか。生徒会って。このレベルで、強い人ばかり、なんですか」


 苦戦した、殺人鬼を。


 単独で、捕らえる、アリシア。


 俺の、戦術を、即座に、見抜く、神影。


 そして。


 その、頂点に、立つ、会長。


 もし。


 全員が。


 この、レベルなら。


 俺の、潜入は。


 あまりにも。


 分が、悪い。


 その、問いに。


 神影が、答えた。


「まさか。そんなわけ、ないだろう」


 意外な、答えだった。


「戦闘力が、低い、私が、いる」


 神影は、淡々と、言った。


「私の、神力は。戦闘向きでは、ない。直接、戦えば、弱い。お前の方が、強いくらいだ」


 戦闘力が、低い。


 神影が、自分で、そう、言った。


 俺は。


 その、情報を。


 頭に、刻んだ。


 神影の、神力は。


 見抜く、力。


 情報系。


 戦闘では、ない。


 だから。


 神影、単体なら。


 戦闘では。


 怖くない。


 怖いのは。


 神影の、目と。


 アリシアの、刀が。


 連携した、時。


 その、役割分担が。


 神影の、自己申告で。


 はっきりと。


 見えた。


「私は、見る、専門だ。戦うのは、アリシアや、会長の、役目だ」


 神影は、続けた。


「アリシアが。おかしいだけだ」



「ひどい!?」


 アリシアが。


 声を、上げた。


「おかしいって、何ですか! 失礼じゃ、ないですか!」


「事実だろう」


 神影は、冷静に、言った。


「単独で、あの殺人鬼を、捕らえる、新人レベルの、人間が。どこに、いる」


「いや、私は、新人じゃないですけど!?」


「だから、おかしいと、言っている」


 神影と、アリシアの。


 やりとりを、聞きながら。


 俺は。


 少しだけ。


 肩の力が、抜けた。


 張り詰めていた、空気が。


 わずかに、緩む。


「だいたい!」


 アリシアが、頬を、膨らませた。


「特殊生徒会が、強くて。何が、悪いんですか!」


 彼女は、胸を、張った。


「弱いより。いいでしょう!?」


 その、言い方が。


 あまりにも。


 まっすぐで。


 俺は。


 思わず。


 苦笑、しそうに、なった。


 強くて、何が、悪い。


 弱いより、いい。


 卑下も、しない。


 拗ねも、しない。


 ただ、自分の、強さを。


 誇りに、思っている。


 英国の、誇り。


 あの、過剰な、明るさと。


 同じ、ものだった。



 だが。


 俺は。


 その、アリシアの、言葉に。


 ふと。


 三十話の、ことを。


 思い出した。


 家族と、生きて、再会するため。


 多分、無理だと、思いますけど。


 アリシアは。


 強さを、誇りながら。


 その、強さでもって。


 しても。


 家族には。


 もう、会えないかもしれないと。


 諦めていた。


 強く、あろうとする、理由が。


 家族なのに。


 その、強さが。


 家族との、再会を。


 保証しない。


 「強くて、何が、悪い」


 その、明るい、言葉の、裏に。


 うっすらと。


 切なさが。


 滲んでいる、気が、した。


 俺だけが。


 それに、気づいていた。


 いや。


 気づいて、しまった。


 関わるほど。


 こいつらの。


 見えなくて、いい部分まで。


 見えてしまう。



 その日の、夜。


 俺は、寮の、部屋で。


 今日のことを、整理していた。


 神影は。


 俺を、警戒している。


 いや。


 警戒と、興味の。


 中間、くらいの、目で。


 俺を、観察している。


 動機が、薄いのに。


 戦術は、的確で。


 学習が、速い。


 その、不自然さに。


 引っかかっている。


 そして。


 接近戦の、訓練を、しろ、と。


 俺を。


 観察できる、場に。


 引き込もうと、している。


 一方。


 アリシアは。


 鉄壁の、殺人鬼を。


 単独で、捕らえるほど、強い。


 もし。


 神影が、俺を、見抜き。


 アリシアに、共有すれば。


 俺は。


 終わる。


 神影の、目と。


 アリシアの、刀。


 その、二つが。


 繋がった、瞬間。


 俺の、潜入は。


 破綻する。


 俺は。


 その、二人の、間で。


 綱渡りを、している。


 神影の、嘘発見を、欺き。


 神影の、観察を、かわし。


 そして。


 いつか。


 会長に。


 毒を、盛る。


 味方の、ふりを、して。


 俺は。


 ポケットの、ハサミを。


 見た。


 澪奈と、繋がった、ハサミ。


 今日も。


 澪奈は。


 何も、知らずに。


 女子棟で。


 過ごしている。


 俺が。


 何を、しているのかも。


 知らずに。


 俺は。


 目を、閉じた。


 神影の、視線。


 アリシアの、強さ。


 会長の、無言。


 そして。


 覚悟の。


 決まらない、半分。


 すべてが。


 俺の、肩に。


 重く、のしかかっていた。


 明日も。


 俺は。


 味方の、ふりを、して。


 この、学園で。


 生きていく。


 殺すべき、相手の、近くで。


 笑わない、顔で。


 嘘を、つかずに。


 最も、大きな、嘘を。


 抱えたまま。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ