第31話 初仕事
特殊生徒会の、新人としての、最初の仕事。
それは、夢世界に入り、データを取ることだった。
説明をしたのは、北見千里だった。
今日は、ポーズも、口上もなく。
意外と、まともに、説明した。
「お前たち、新人の、最初の役目は、測定だ」
北見は、言った。
「夢世界は、いわば、開発環境のようなものだ。現実では、危険すぎて、試せないことを、安全に、検証する。試験場だ」
俺は、その言葉を、理解した。
本番では、できないことを。
隔離された、環境で、試す。
プログラムの、開発と、同じだ。
「夢世界には、これまで、特殊生徒会が、捕らえた、犯罪者を、データとして、サンプリングしてある」
北見は、続けた。
「そいつらを、夢の中に、設置する。お前たちの、訓練相手として。戦闘の、教材として」
二十八話の、再現アリシア。
あれも、同じ、仕組みだったのだろう。
捕らえた者を、データ化し、夢の中で、何度でも、戦える教材にする。
「お前たちが、どこまで、戦えるか。現実で、どこまで、通用するか。それを、測る」
◇
「ちなみに」
俺は、ふと、疑問に思って、聞いた。
「データを、取った後、本物の、犯罪者は、どうなるんですか」
北見は、少し、間を置いてから、答えた。
「罪に、応じて、処分される」
「処分」
「ああ。基本は、強制労働だ」
北見の、声は、淡々としていた。
「神力を、封じる技術は、まだ、確立されていない。だから、能力者を、無力化できない。捕らえても、力は、残ったままだ。だから、働かせる。監視下で」
「強制労働、ですか」
「そうだ。だが」
北見は、声を、低くした。
「度を越えた、殺人を、犯し。なおかつ、強すぎる能力を、犯罪に、複数回、使い。度を越えていると、判断された場合は」
北見は、そこで、言葉を、切った。
「処分される。生かしては、おけない」
俺は、その意味を、理解した。
処分。
つまり、殺処分だ。
神力を、封じられない以上。
危険すぎる、能力者は。
生かしておけば、また、人を、殺す。
封じる、手段がない。
だから、殺すしかない。
過酷だが。
筋は、通っていた。
電気が、消え。
法も、司法も、機能しない、この世界で。
特殊生徒会という、生徒の組織が。
その、生殺与奪を。
背負っている。
◇
俺は、その話を、聞きながら。
ある、考えに、行き着いた。
処分されるのは。
度を越えた、殺人を犯し。
強すぎる能力を、犯罪に使った者。
つまり。
強すぎる、能力は。
封じられないから。
殺すしかない。
だとすれば。
俺は。
どうなる。
俺の能力は、エネルギー変換。
電気を、生み出せる。
電気が、消えた、この世界で。
電気を、生み出せる。
それは。
強すぎる、能力だ。
もし、俺が、捕まったら。
処分されるのか。
いや。
違う。
俺は、内心で、結論を、出した。
処分される、わけがない。
電気を、生み出せる存在を。
殺す、メリットなど、ない。
強すぎる、殺人能力は、処分される。
だが、俺の能力は。
殺すための、力では、ない。
電気を、生み出す力。
世界を、復旧しうる、唯一の力。
そんなものを。
殺すはずが、ない。
囲い込んで。
利用する。
永遠に。
俺は、その考えに、行き着いて。
ぞっとした。
処分されない。
それは。
普通なら、安心の、はずだった。
だが、俺にとっては。
違った。
処分されない、ということは。
殺されない、ということは。
永遠に、利用される、ということだった。
強すぎる、殺人者は、殺される。
俺は、殺されない。
代わりに。
二度と。
解放されない。
もし、正体が、バレたら。
俺を、待つのは。
死では、なく。
永遠に、発電機として、使われる、生だった。
死ぬことすら。
許されない。
それが。
俺の、能力の、価値だった。
最大の、武器が。
最大の、檻だった。
◇
「お前の、相手は、こいつだ」
北見が、一枚の、資料を、差し出した。
そこには、ある、犯罪者の、情報が、書かれていた。
元、殺人鬼。
神力は、触れた対象の、重さを、自分だけが、無視できる、というもの。
「こいつは、一度、捕らえられて、牢に、入れられた」
北見は、説明した。
「だが、牢を、破って、脱獄した。そして、大量殺人を、実行した」
「牢を、破った」
「そうだ。重さを、無視できれば、鉄格子だろうが、壁だろうが、力業で、突破できる。重い扉も、瓦礫も、関係ない」
俺は、その能力の、厄介さを、考えた。
重さを、無視する。
巨大な、ものを、軽々と、振り回せる。
物理的な、障害を、突破できる。
そして、おそらく。
自分自身に、応用すれば。
体重を、無視して。
高速で、動ける。
「夢世界で、こいつと、戦ってもらう」
北見は、言った。
「死んでも、生き返る。何度でも。制限時間内に、どこまで、戦えるか。それを、測る」
◇
夢世界に、入る、直前。
アリシアが、近づいてきた。
「あんまり、気負わないで、いいですよ!」
明るい、声。
「肩の力、抜いて、やっていいですからね! 私が、ついてますので!」
私が、ついてる。
その言葉は。
本気で、俺を、案じている、響きだった。
これから、敵に、回るかもしれない、俺を。
そうとは、知らずに。
本気で。
「大丈夫です」
俺は、短く、答えた。
内心では。
別のことを、思っていた。
これから、殺されるかもしれないって、時に。
肩の力なんて、抜けるかよ。
夢の中とはいえ。
あの、重さを無視する、殺人鬼と、戦う。
しかも、電気は、使えない。
採点されている、から。
火と、風だけで。
あの、化け物を、相手にする。
肩の力を、抜く余裕など。
あるはずが、なかった。
だが、それを、顔には、出さない。
いつもの、平らな、顔で。
「大丈夫です」
もう一度、言った。
アリシアは、にっこりと、笑った。
「その、調子です!」
俺は、マットの上に、横になり。
目を、閉じた。
北見の、神力が、働く。
意識が、沈んでいく。
◇
目を、開けると。
そこは、廃墟のような、空間だった。
崩れた、ビル。
瓦礫の、山。
夢世界が、用意した、戦場。
その、向こうに。
一人の、男が、立っていた。
目つきの、悪い、大男。
手には、何も、持っていない。
だが。
その、足元の、瓦礫を。
片手で。
軽々と。
持ち上げた。
大人、数人分は、ありそうな、コンクリートの塊を。
まるで、発泡スチロールのように。
重さを、無視している。
あれが、こいつの、能力。
男は、その、瓦礫を。
盾のように、構えた。
俺は、理解した。
あれは。
動く、要塞だ。
重さを、無視できるから。
どんなに、巨大な、盾でも。
軽々と、構え続けられる。
あらゆる、攻撃を。
その、盾で、防げる。
◇
戦闘が、始まった。
俺は、まず、火を、放った。
炎が、男に、向かう。
だが。
男は、瓦礫の盾で。
あっさりと、防いだ。
次に、風を、放つ。
突風で、体勢を、崩そうとする。
だが、男は。
盾を、地面に、突き立て。
びくとも、しなかった。
重さを、無視できる、ということは。
逆に、自分を、重くも、できるのかもしれない。
いや。
違う。
盾が、重いまま、なのに。
それを、軽々と、支えているから。
突風程度では、動かない。
俺は、炎と、風を、組み合わせて、攻めた。
角度を、変えて。
タイミングを、ずらして。
だが。
男は。
その、すべてを。
瓦礫の盾で、防ぎ続けた。
決着が、つかない。
俺の、攻撃は。
すべて、防がれる。
かといって。
男も。
俺に、決定打を、当てられない。
俺は、距離を、保って、攻撃しているから。
永遠に。
終わらない。
◇
俺は、戦いながら、考えた。
相性が、悪い。
最悪に、近い。
こいつは。
あらゆる、状況で。
攻撃を、防げる。
鉄壁の、盾。
一方、俺は。
あらゆる、攻撃手段を、選べる。
火、風、圧縮燃焼。
本当は、電気も。
矛と、盾。
一見、手数の多い、俺が、有利に、見える。
だが。
盾が、物理的に、防ぎ続けられる、限り。
俺の、手数は。
意味を、なさない。
いくら、攻撃手段が、あっても。
すべて、防がれれば。
ゼロと、同じだ。
電気を、使えば。
おそらく。
盾ごと、貫けるか。
別次元の、攻撃が、できる。
だが。
使えない。
見られている。
火と風しか、申告していない、俺が。
電気を、出せば。
すべて、終わる。
だから。
火と、風だけで。
この、鉄壁を。
破らなければ、ならない。
考えろ。
俺は、自分に、言い聞かせた。
盾を。
正面から、破るのは、無理だ。
なら。
盾が、成立する、前提を。
崩せ。
◇
盾とは、何だ。
俺は、考えた。
盾は。
攻撃を、防ぐ、ものだ。
だが。
盾で、防ぐためには。
攻撃が。
どこから、来るのか。
見えて、いなければ、ならない。
見えない、攻撃は。
盾を、向ける、方向が、分からない。
防げない。
つまり。
こいつの、視界を、奪えば。
盾は。
機能しなく、なる。
俺は。
火を、操った。
ただ、燃やすのでは、なく。
一点に、圧縮する。
強く。
強く。
高温に、なるほど。
炎は。
強い、光を、放つ。
俺は、その、圧縮した炎を。
男の、目の前で。
一気に。
弾けさせた。
閃光。
強烈な、光が。
男の、視界を。
白く、塗りつぶした。
「ぐっ!?」
男が、目を、押さえた。
見えて、いない。
盾を、構えているが。
どこを、守れば、いいのか。
分からない。
今だ。
◇
俺は、動いた。
風で、自分の、身体を、加速させ。
男との、距離を、一気に、詰める。
いや。
詰めながら。
準備する。
あの、切り札を。
圧縮燃焼。
二十八話で。
使った、技。
風で、空気を、圧縮し。
密度の、高い、空気の、塊を、作る。
そこに、火を、つければ。
爆発的な、燃焼が、起きる。
俺は、男の、いる、空間に。
その、圧縮した、空気を。
送り込んだ。
男を、包むように。
周囲ごと。
そして。
火を。
放った。
爆発。
男の、いた、空間が。
炎の、塊に、呑まれた。
盾も。
関係なかった。
盾は、正面を、守るもの。
だが、圧縮燃焼は。
空間ごと。
全方位から。
焼く。
盾の、内側まで。
炎が、回り込む。
男の、絶叫が。
炎の、中に、消えた。
◇
炎が、収まった、後。
そこには。
崩れていく、男の、姿が、あった。
夢世界の、データが。
燃え尽きて、消滅していく。
撃破。
俺は、肩で、息を、していた。
勝った。
あの、鉄壁の、殺人鬼を。
火と、風だけで。
いや。
光を、使った。
火を、圧縮して、生じた、光。
あれは。
電気で、起こせる、現象だ。
本当は。
電気由来の、力。
だが。
表向きは。
火を、圧縮したら。
強い、光が、できた。
そういう、ことにする。
強い、燃焼は、閃光を、伴う。
嘘では、ない。
火能力の、延長として。
処理できる。
真実で。
本当のことを。
隠す。
いつもの、やり方だった。
◇
そして。
俺は。
二十八話の、自爆とは。
違う、戦い方を、した。
今回は。
自分を、巻き込まなかった。
光で、視界を、奪い。
距離を、詰めて。
相手の、空間だけを。
焼いた。
自爆では、ない。
現実でも。
通用する、戦い方。
再現性の、ある、戦い方。
神影が、言った。
現実で、通用しない、戦い方は、するな、と。
その、言葉を。
俺は。
守った。
夢の中で、しか、使えない、自爆では、なく。
現実でも、使える、戦法で。
鉄壁の、殺人鬼を、破った。
成果は。
出した。
はずだった。
◇
視界が、白く、なる。
夢世界が、終わる。
意識が、浮上していく。
目を、開けると。
マットの上だった。
現実に、戻っている。
全身が、疲れていた。
戦いの、疲労が。
夢の、出来事なのに。
身体に、残っている。
周りを、見ると。
北見が、こちらを、見ていた。
いつもの、中二病の、態度は、なかった。
ただ、静かに。
何かを、記録するような、目で。
その、隣に。
神影涼子が。
立っていた。
藍色の、ポニーテール。
あの、冷たい、目で。
俺を、見ている。
その、視線が。
肌を、刺すようだった。
俺は。
内心で。
身構えた。
戦いは、終わった。
だが。
本当の、関門は。
これから、かもしれない。
火と風で、鉄壁を、破った、新人。
その、戦いを。
神影は、見ていた。
そして。
何かを。
考えている。
俺は。
その、視線から。
目を、逸らさずに。
ただ。
平らな、顔を、保った。
いつものように。
感情を。
消して。




