表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/40

第31話 初仕事

特殊生徒会の、新人としての、最初の仕事。


 それは、夢世界に入り、データを取ることだった。


 説明をしたのは、北見千里だった。


 今日は、ポーズも、口上もなく。


 意外と、まともに、説明した。


「お前たち、新人の、最初の役目は、測定だ」


 北見は、言った。


「夢世界は、いわば、開発環境のようなものだ。現実では、危険すぎて、試せないことを、安全に、検証する。試験場だ」


 俺は、その言葉を、理解した。


 本番では、できないことを。


 隔離された、環境で、試す。


 プログラムの、開発と、同じだ。


「夢世界には、これまで、特殊生徒会が、捕らえた、犯罪者を、データとして、サンプリングしてある」


 北見は、続けた。


「そいつらを、夢の中に、設置する。お前たちの、訓練相手として。戦闘の、教材として」


 二十八話の、再現アリシア。


 あれも、同じ、仕組みだったのだろう。


 捕らえた者を、データ化し、夢の中で、何度でも、戦える教材にする。


「お前たちが、どこまで、戦えるか。現実で、どこまで、通用するか。それを、測る」



「ちなみに」


 俺は、ふと、疑問に思って、聞いた。


「データを、取った後、本物の、犯罪者は、どうなるんですか」


 北見は、少し、間を置いてから、答えた。


「罪に、応じて、処分される」


「処分」


「ああ。基本は、強制労働だ」


 北見の、声は、淡々としていた。


「神力を、封じる技術は、まだ、確立されていない。だから、能力者を、無力化できない。捕らえても、力は、残ったままだ。だから、働かせる。監視下で」


「強制労働、ですか」


「そうだ。だが」


 北見は、声を、低くした。


「度を越えた、殺人を、犯し。なおかつ、強すぎる能力を、犯罪に、複数回、使い。度を越えていると、判断された場合は」


 北見は、そこで、言葉を、切った。


「処分される。生かしては、おけない」


 俺は、その意味を、理解した。


 処分。


 つまり、殺処分だ。


 神力を、封じられない以上。


 危険すぎる、能力者は。


 生かしておけば、また、人を、殺す。


 封じる、手段がない。


 だから、殺すしかない。


 過酷だが。


 筋は、通っていた。


 電気が、消え。


 法も、司法も、機能しない、この世界で。


 特殊生徒会という、生徒の組織が。


 その、生殺与奪を。


 背負っている。



 俺は、その話を、聞きながら。


 ある、考えに、行き着いた。


 処分されるのは。


 度を越えた、殺人を犯し。


 強すぎる能力を、犯罪に使った者。


 つまり。


 強すぎる、能力は。


 封じられないから。


 殺すしかない。


 だとすれば。


 俺は。


 どうなる。


 俺の能力は、エネルギー変換。


 電気を、生み出せる。


 電気が、消えた、この世界で。


 電気を、生み出せる。


 それは。


 強すぎる、能力だ。


 もし、俺が、捕まったら。


 処分されるのか。


 いや。


 違う。


 俺は、内心で、結論を、出した。


 処分される、わけがない。


 電気を、生み出せる存在を。


 殺す、メリットなど、ない。


 強すぎる、殺人能力は、処分される。


 だが、俺の能力は。


 殺すための、力では、ない。


 電気を、生み出す力。


 世界を、復旧しうる、唯一の力。


 そんなものを。


 殺すはずが、ない。


 囲い込んで。


 利用する。


 永遠に。


 俺は、その考えに、行き着いて。


 ぞっとした。


 処分されない。


 それは。


 普通なら、安心の、はずだった。


 だが、俺にとっては。


 違った。


 処分されない、ということは。


 殺されない、ということは。


 永遠に、利用される、ということだった。


 強すぎる、殺人者は、殺される。


 俺は、殺されない。


 代わりに。


 二度と。


 解放されない。


 もし、正体が、バレたら。


 俺を、待つのは。


 死では、なく。


 永遠に、発電機として、使われる、生だった。


 死ぬことすら。


 許されない。


 それが。


 俺の、能力の、価値だった。


 最大の、武器が。


 最大の、檻だった。



「お前の、相手は、こいつだ」


 北見が、一枚の、資料を、差し出した。


 そこには、ある、犯罪者の、情報が、書かれていた。


 元、殺人鬼。


 神力は、触れた対象の、重さを、自分だけが、無視できる、というもの。


「こいつは、一度、捕らえられて、牢に、入れられた」


 北見は、説明した。


「だが、牢を、破って、脱獄した。そして、大量殺人を、実行した」


「牢を、破った」


「そうだ。重さを、無視できれば、鉄格子だろうが、壁だろうが、力業で、突破できる。重い扉も、瓦礫も、関係ない」


 俺は、その能力の、厄介さを、考えた。


 重さを、無視する。


 巨大な、ものを、軽々と、振り回せる。


 物理的な、障害を、突破できる。


 そして、おそらく。


 自分自身に、応用すれば。


 体重を、無視して。


 高速で、動ける。


「夢世界で、こいつと、戦ってもらう」


 北見は、言った。


「死んでも、生き返る。何度でも。制限時間内に、どこまで、戦えるか。それを、測る」



 夢世界に、入る、直前。


 アリシアが、近づいてきた。


「あんまり、気負わないで、いいですよ!」


 明るい、声。


「肩の力、抜いて、やっていいですからね! 私が、ついてますので!」


 私が、ついてる。


 その言葉は。


 本気で、俺を、案じている、響きだった。


 これから、敵に、回るかもしれない、俺を。


 そうとは、知らずに。


 本気で。


「大丈夫です」


 俺は、短く、答えた。


 内心では。


 別のことを、思っていた。


 これから、殺されるかもしれないって、時に。


 肩の力なんて、抜けるかよ。


 夢の中とはいえ。


 あの、重さを無視する、殺人鬼と、戦う。


 しかも、電気は、使えない。


 採点されている、から。


 火と、風だけで。


 あの、化け物を、相手にする。


 肩の力を、抜く余裕など。


 あるはずが、なかった。


 だが、それを、顔には、出さない。


 いつもの、平らな、顔で。


「大丈夫です」


 もう一度、言った。


 アリシアは、にっこりと、笑った。


「その、調子です!」


 俺は、マットの上に、横になり。


 目を、閉じた。


 北見の、神力が、働く。


 意識が、沈んでいく。



 目を、開けると。


 そこは、廃墟のような、空間だった。


 崩れた、ビル。


 瓦礫の、山。


 夢世界が、用意した、戦場。


 その、向こうに。


 一人の、男が、立っていた。


 目つきの、悪い、大男。


 手には、何も、持っていない。


 だが。


 その、足元の、瓦礫を。


 片手で。


 軽々と。


 持ち上げた。


 大人、数人分は、ありそうな、コンクリートの塊を。


 まるで、発泡スチロールのように。


 重さを、無視している。


 あれが、こいつの、能力。


 男は、その、瓦礫を。


 盾のように、構えた。


 俺は、理解した。


 あれは。


 動く、要塞だ。


 重さを、無視できるから。


 どんなに、巨大な、盾でも。


 軽々と、構え続けられる。


 あらゆる、攻撃を。


 その、盾で、防げる。



 戦闘が、始まった。


 俺は、まず、火を、放った。


 炎が、男に、向かう。


 だが。


 男は、瓦礫の盾で。


 あっさりと、防いだ。


 次に、風を、放つ。


 突風で、体勢を、崩そうとする。


 だが、男は。


 盾を、地面に、突き立て。


 びくとも、しなかった。


 重さを、無視できる、ということは。


 逆に、自分を、重くも、できるのかもしれない。


 いや。


 違う。


 盾が、重いまま、なのに。


 それを、軽々と、支えているから。


 突風程度では、動かない。


 俺は、炎と、風を、組み合わせて、攻めた。


 角度を、変えて。


 タイミングを、ずらして。


 だが。


 男は。


 その、すべてを。


 瓦礫の盾で、防ぎ続けた。


 決着が、つかない。


 俺の、攻撃は。


 すべて、防がれる。


 かといって。


 男も。


 俺に、決定打を、当てられない。


 俺は、距離を、保って、攻撃しているから。


 永遠に。


 終わらない。



 俺は、戦いながら、考えた。


 相性が、悪い。


 最悪に、近い。


 こいつは。


 あらゆる、状況で。


 攻撃を、防げる。


 鉄壁の、盾。


 一方、俺は。


 あらゆる、攻撃手段を、選べる。


 火、風、圧縮燃焼。


 本当は、電気も。


 矛と、盾。


 一見、手数の多い、俺が、有利に、見える。


 だが。


 盾が、物理的に、防ぎ続けられる、限り。


 俺の、手数は。


 意味を、なさない。


 いくら、攻撃手段が、あっても。


 すべて、防がれれば。


 ゼロと、同じだ。


 電気を、使えば。


 おそらく。


 盾ごと、貫けるか。


 別次元の、攻撃が、できる。


 だが。


 使えない。


 見られている。


 火と風しか、申告していない、俺が。


 電気を、出せば。


 すべて、終わる。


 だから。


 火と、風だけで。


 この、鉄壁を。


 破らなければ、ならない。


 考えろ。


 俺は、自分に、言い聞かせた。


 盾を。


 正面から、破るのは、無理だ。


 なら。


 盾が、成立する、前提を。


 崩せ。



 盾とは、何だ。


 俺は、考えた。


 盾は。


 攻撃を、防ぐ、ものだ。


 だが。


 盾で、防ぐためには。


 攻撃が。


 どこから、来るのか。


 見えて、いなければ、ならない。


 見えない、攻撃は。


 盾を、向ける、方向が、分からない。


 防げない。


 つまり。


 こいつの、視界を、奪えば。


 盾は。


 機能しなく、なる。


 俺は。


 火を、操った。


 ただ、燃やすのでは、なく。


 一点に、圧縮する。


 強く。


 強く。


 高温に、なるほど。


 炎は。


 強い、光を、放つ。


 俺は、その、圧縮した炎を。


 男の、目の前で。


 一気に。


 弾けさせた。


 閃光。


 強烈な、光が。


 男の、視界を。


 白く、塗りつぶした。


「ぐっ!?」


 男が、目を、押さえた。


 見えて、いない。


 盾を、構えているが。


 どこを、守れば、いいのか。


 分からない。


 今だ。



 俺は、動いた。


 風で、自分の、身体を、加速させ。


 男との、距離を、一気に、詰める。


 いや。


 詰めながら。


 準備する。


 あの、切り札を。


 圧縮燃焼。


 二十八話で。


 使った、技。


 風で、空気を、圧縮し。


 密度の、高い、空気の、塊を、作る。


 そこに、火を、つければ。


 爆発的な、燃焼が、起きる。


 俺は、男の、いる、空間に。


 その、圧縮した、空気を。


 送り込んだ。


 男を、包むように。


 周囲ごと。


 そして。


 火を。


 放った。


 爆発。


 男の、いた、空間が。


 炎の、塊に、呑まれた。


 盾も。


 関係なかった。


 盾は、正面を、守るもの。


 だが、圧縮燃焼は。


 空間ごと。


 全方位から。


 焼く。


 盾の、内側まで。


 炎が、回り込む。


 男の、絶叫が。


 炎の、中に、消えた。



 炎が、収まった、後。


 そこには。


 崩れていく、男の、姿が、あった。


 夢世界の、データが。


 燃え尽きて、消滅していく。


 撃破。


 俺は、肩で、息を、していた。


 勝った。


 あの、鉄壁の、殺人鬼を。


 火と、風だけで。


 いや。


 光を、使った。


 火を、圧縮して、生じた、光。


 あれは。


 電気で、起こせる、現象だ。


 本当は。


 電気由来の、力。


 だが。


 表向きは。


 火を、圧縮したら。


 強い、光が、できた。


 そういう、ことにする。


 強い、燃焼は、閃光を、伴う。


 嘘では、ない。


 火能力の、延長として。


 処理できる。


 真実で。


 本当のことを。


 隠す。


 いつもの、やり方だった。



 そして。


 俺は。


 二十八話の、自爆とは。


 違う、戦い方を、した。


 今回は。


 自分を、巻き込まなかった。


 光で、視界を、奪い。


 距離を、詰めて。


 相手の、空間だけを。


 焼いた。


 自爆では、ない。


 現実でも。


 通用する、戦い方。


 再現性の、ある、戦い方。


 神影が、言った。


 現実で、通用しない、戦い方は、するな、と。


 その、言葉を。


 俺は。


 守った。


 夢の中で、しか、使えない、自爆では、なく。


 現実でも、使える、戦法で。


 鉄壁の、殺人鬼を、破った。


 成果は。


 出した。


 はずだった。



 視界が、白く、なる。


 夢世界が、終わる。


 意識が、浮上していく。


 目を、開けると。


 マットの上だった。


 現実に、戻っている。


 全身が、疲れていた。


 戦いの、疲労が。


 夢の、出来事なのに。


 身体に、残っている。


 周りを、見ると。


 北見が、こちらを、見ていた。


 いつもの、中二病の、態度は、なかった。


 ただ、静かに。


 何かを、記録するような、目で。


 その、隣に。


 神影涼子が。


 立っていた。


 藍色の、ポニーテール。


 あの、冷たい、目で。


 俺を、見ている。


 その、視線が。


 肌を、刺すようだった。


 俺は。


 内心で。


 身構えた。


 戦いは、終わった。


 だが。


 本当の、関門は。


 これから、かもしれない。


 火と風で、鉄壁を、破った、新人。


 その、戦いを。


 神影は、見ていた。


 そして。


 何かを。


 考えている。


 俺は。


 その、視線から。


 目を、逸らさずに。


 ただ。


 平らな、顔を、保った。


 いつものように。


 感情を。


 消して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ