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第30話 歓迎会

特殊生徒会の、歓迎会は、その日の、夜に開かれた。


 場所は、学園の、一室。


 元は、来客用の、応接室だったらしい。


 今は、新人を、迎えるための、会場になっていた。


 俺は、その部屋に、入った瞬間。


 目を、疑った。


 長い、テーブルの上に。


 料理が、並んでいた。


 それも、豪華な、料理が。


 肉。


 魚。


 米。


 新鮮な、野菜。


 保存食でも、配給でもない、ちゃんとした、食事。


 電気の、消えた、この世界で。


 配給所に、人が並び。


 東京の、外縁では、水が足りずに、人が死んでいる、この世界で。


 特殊生徒会の、新人にだけ。


 こんな、食事が、出される。


 俺は、その意味を、考えた。


 国と、学園が。


 特殊生徒会に、どれだけ、期待しているか。


 その、表れだった。


 食事は、言葉より、雄弁だった。


 強い、神力を持つ者を、つなぎとめるためなら。


 これだけの、ものを、出す。


 それだけ、特殊生徒会は、重要視されている。


 そして、俺は。


 その、中枢に。


 電気を、隠したまま、潜り込んだ。



「すごいですよね、この食事!」


 隣の、新人が、興奮した様子で、言った。


「今どき、こんなの、食べられるの、ここくらいですよ!」


「……ああ」


 俺は、短く、答えた。


 他の、新人たちも、目を、輝かせて、料理に、手を伸ばしていた。


 無理も、ない。


 この世界で、これだけの、食事は、贅沢だ。


 だが、俺は。


 あまり、食が、進まなかった。


 豪華な、料理が。


 喉を、通らなかった。


 この食事は。


 俺が、これから、裏切る組織からの。


 歓待だった。


 味方として、迎えられ。


 豪華な、食事で、もてなされ。


 そして、俺は、その中の、一人を、殺す。


 歓待されれば、されるほど。


 裏切りの、重さが。


 増していく、気がした。


 肉を、口に運んでも。


 味が、しなかった。



 部屋の、奥に。


 特殊生徒会の、面々が、いた。


 会長、神月華。


 神影涼子。


 アリシア・アンダーソン。


 そして、北見千里。


 会長の、神月華は。


 椅子に、座っていた。


 料理には、ほとんど、手を、つけていない。


 ただ、静かに、新人たちを、見ている。


 その、表情は。


 相変わらず、読めなかった。


 歓迎会、なのに。


 まるで、自分が、その場にいることに。


 意味を、見出していない、ような。


 そんな、座り方だった。


 俺は、ふと、気づいた。


 新人たちが。


 誰も、アリシアに、近づかない。


 アリシアは、部屋の、隅で。


 一人で、紅茶のような、ものを、飲んでいた。


 明るく、笑顔で。


 だが、誰も、その隣に、行かない。


 理由は、分かっていた。


 夢の中で。


 みんな、アリシアに。


 殺された。


 何度も。


 何度も。


 本物より、弱い、再現された、アリシアに。


 全身を、斬り裂かれ。


 死んで。


 生き返って。


 また、死んで。


 その、恐怖が。


 身体に、刻まれている。


 夢の、出来事だと、分かっていても。


 斬り殺された、記憶は。


 現実に、残っている。


 だから、新人たちは。


 本物の、アリシアを。


 恐れて、近づけない。


 夢の、模造品に、植え付けられた、恐怖で。


 本物を、避けている。


 皮肉な、話だった。



 俺は、その、アリシアの方へ。


 歩いて、いった。


 情報を、集めるため。


 そう、自分に、言い聞かせて。


 ただ、本当は。


 あまり、目立つべきでは、なかった。


 一人だけ、アリシアに、平然と、近づく新人。


 それは、神影の、目を、引くかもしれない。


 だが、俺は。


 近づいた。


 なぜか。


 自分でも、よく、分からなかった。


「アリシアさん」


「あ! 火と風の人!」


 アリシアが、嬉しそうに、振り向いた。


「みんな、私のこと、怖がっちゃって。寂しかったんですよ!」


「……まあ、夢で、殺されれば、そうなりますよ」


「ひどくないですか!? ちゃんと、加減したのに!」


 加減した、らしい。


 それで、あの、十連斬。


 本物が、本気を出したら、どうなるのか。


 考えたくも、なかった。



 その時だった。


 別の、声が、した。


「お前」


 神影涼子だった。


 いつの間にか、近くに、来ていた。


 藍色の、ポニーテール。


 冷たい、目。


「少し、いいか」


 俺は、身構えた。


 だが、表情には、出さなかった。


 平らに、保つ。


「お前は、凄かった」


 神影は、言った。


「犠牲を、無視すれば、だが。新人が、アリシアを、倒したのは、前代未聞だ」


「……どうも」


「それだけの、結果を、出した」


 神影は、そこで、言葉を、切った。


 そして、俺を、じっと、見た。


 あの、刺すような、視線で。


「だが」


 彼女の、声が、低くなった。


「もし、現実に。アリシアと、同等の敵が、現れたら。その時、お前は、また、あんな無茶な戦いを、するつもりか?」


 俺は、その問いの、意図を、考えた。


 神影は。


 俺の、戦い方を、問題に、している。


 自分ごと、自爆する、戦い方。


 あれは、捨て身だ。


 壊れている。


 神影は、そこに、引っかかっている。


 いや。


 もっと、深いところを、見ている、気がした。


 俺は、慎重に、答えた。


「まさか。そんなわけ、ないですよ」


 俺は、軽く、笑ってみせた。


「俺の、戦い方は、他にも、いくらでも、あるので」


 嘘では、なかった。


 俺には、他の、戦い方がある。


 電気。


 それを、隠しているだけだ。


 だから、「他にもいくらでもある」は、真実。


 神影の、嘘発見にも、引っかからない。


 神影は。


 俺の、その言葉を。


 しばらく、見つめていた。


 そして。


「……そうか」


 それだけ、言った。


 だが、その、目は。


 納得して、いなかった。



 神影が、離れた後。


 俺は、内心で。


 冷たい、汗を、感じていた。


 神影は。


 俺の、能力の、強さに対して。


 動機が、薄いと、感じている。


 そんな、気がした。


 火と風で、自爆覚悟の、引き分け。


 それだけの、ことを、する人間。


 なのに。


 なぜ、特殊生徒会に、入ったのか。


 その、動機が。


 見えない。


 命懸けで、やるほどの、理由が。


 見えない。


 神影は、それを、嗅ぎ取っている。


 能力は、嘘なく、見せられる。


 戦い方も、見せた。


 だが、動機だけは。


 本物を、言えない。


 悪魔の王に、依頼された、暗殺。


 家族を、取り戻すため。


 それは、絶対に、言えない。


 だから、俺は。


 動機を、問われるたびに。


 嘘では、ないが、本当でも、ない、何かを。


 差し出し続ける、しかない。


 それが。


 一番、細い、綱だった。



 俺は、気を、取り直して。


 アリシアに、向き直った。


「アリシアさんは」


 俺は、聞いた。


「なんで、特殊生徒会に、入ったんですか?」


 情報を、集めるため。


 そう、思っていた。


 だが。


 本当は。


 違ったのかもしれない。


 俺は、ただ。


 知りたかったのかもしれない。


 二十七話で、俺に、覚悟を、半分くれた、この少女が。


 何のために、生きているのか。


 アリシアは、紅茶を、一口、飲んでから。


 言った。


「家族と、生きて、再会するため」


 その、声は。


 いつもより、少しだけ。


 静かだった。


「ただ、それだけの、理由です」


 俺は、息を、止めた。


「電気が、消えた時。私、日本に、いたんです。家族は、イギリス。連絡も、取れなくなって。飛行機も、飛ばないし」


 アリシアは、続けた。


 笑顔のまま。


 だが、その笑顔は。


 どこか、無理を、しているように、見えた。


「だから。せめて、生き延びて。いつか、家族と、再会したくて。そのために、強くならなきゃって。特殊生徒会に、入りました」


 彼女は、そこで。


 少しだけ、目を、伏せた。


「多分。無理だと、思いますけど」


 多分、無理。


 その、一言が。


 アリシアの、陽気さの、裏を。


 見せた。


 彼女は、ずっと。


 明るく、振る舞っていた。


 英国の、誇りを、語り。


 笑顔を、絶やさず。


 だが、その、奥に。


 家族には、もう、会えないかもしれない、という。


 諦めを。


 抱えていた。


 あの、過剰な、明るさは。


 その、絶望を。


 見せないための、仮面だったのかもしれない。



 俺は。


 その話を、聞いて。


 胸が、痛んだ。


 アリシアも。


 家族のため、だった。


 俺と、同じだ。


 家族のために、生きている。


 ただ。


 俺と、アリシアは。


 選んだ、道が、違った。


 俺は。


 家族のために。


 他人を、傷つける道を、選んだ。


 味方の、ふりをして。


 人を、殺す道を。


 アリシアは。


 家族のために。


 自分が、戦う道を、選んだ。


 他人を、守る側で、いる道を。


 二十七話で、俺が、聞いた、あの問い。


 家族のために、他人を傷つけるのと。


 他人のために、傷つくのと。


 どっちが、ましか。


 その、二つの、答えを。


 俺と、アリシアが。


 それぞれ、生きていた。


 アリシアは。


 俺が、選ばなかった方の、道を。


 生きていた。


 そして。


 俺は。


 そんな、アリシアの、仲間を。


 殺そうと、している。


 家族と、再会したい、アリシアが。


 守っている、組織を。


 俺は、家族のために、裏切る。


 胸が。


 締め付けられた。


 そして、俺は。


 ふと、思った。


 これから、敵に、回る奴相手に。


 俺は。


 何を、聞いてるんだろうな。


 情報収集の、ふりをして。


 本当は。


 こいつのことを、知りたくなっている。


 人として。


 関わって、しまっている。


 潜入者なのに。


 対象に、情を、持っては、いけないのに。


 俺は。


 この、学園で。


 少しずつ。


 人と、関わり始めて、いた。


 殺すために、来た、場所で。


 皮肉な、ことだった。



 俺は。


 その、気持ちを。


 振り払うように。


 部屋の、奥へ、視線を、移した。


 会長の、神月華が、いた。


 相変わらず。


 一人で、静かに、座っている。


 あまり、喋るタイプでは、なさそうだった。


 歓迎会、なのに。


 誰とも、話していない。


 俺は。


 なぜか。


 その、神月華の、ところへ。


 歩いて、いった。


 殺す相手の、ところへ。


 自分から。


 近づいて、いった。


「会長」


 俺は、声を、かけた。


 神月華が。


 ゆっくりと。


 俺を、見上げた。


 感情の、ない、目。


 だが。


 拒絶も、していなかった。


 俺は。


 何を、話せば、いいのか、分からなくて。


 ただ。


 思いついた、ことを、口にした。


「会長は、普段。何して、遊んでるんですか?」


 あまりにも。


 日常的な、問いだった。


 殺す相手に、投げる問いとしては。


 あまりにも。


 平和な。


 神月華は。


 少し、考えてから。


 言った。


「仕事以外、あまりしていない」


 静かな、声。


「そもそも、電気がないから。娯楽がない」


 俺は。


 その答えに。


 内心で、頷いた。


 たしかに。


 そりゃ、そうだ。


 電気が、消えて。


 失われたのは。


 インフラだけ、ではない。


 娯楽。


 楽しみ。


 心の、余裕。


 会長の、ような、立場の人間ですら。


 遊ぶものが。


 ない。


 世界から。


 「楽しみ」が。


 消えていた。



「たしかに、そりゃ、そうですね」


 俺は、言った。


 そして。


 ふと。


 思いついたことを、口にした。


「でも。夢世界で、VRMMORPGみたいなことも。出来そうですけどね」


 北見の、夢能力を、使えば。


 夢の中では、大抵のことが、できる。


 娯楽が、消えた、この世界で。


 夢の中でなら。


 失われた、娯楽を。


 再現、できるかもしれない。


「北見の、負荷を、無視すれば、ですけど」


 その、言葉に。


 近くにいた、北見が。


 反応した。


「俺の、負荷だと!?」


 北見が、ローブを、翻して。


 ポーズを、決めた。


「バカを、言え! 俺に、不可能なんて、ない!」


 相変わらずの。


 中二病だった。


 俺は。


 神月華の方を、見て。


 肩を、すくめた。


「……らしいですよ」


 神月華は。


 その、やりとりを。


 じっと、見ていた。


 そして。


 ほんの、少しだけ。


 目を。


 細めた。


 それが。


 笑ったのか。


 どうかは。


 分からなかった。


 ただ。


 無言の、人形だと、思っていた、この少女に。


 ほんの、わずかな。


 人間味が。


 覗いた、気がした。


 俺は。


 その、わずかな、表情を、見て。


 また。


 胸が、痛んだ。


 関わるほど。


 殺しにくく、なる。


 分かっていた。


 潜入者として。


 対象に、近づくのは。


 必要なことだ。


 だが。


 近づくほど。


 この少女が。


 ただの、暗殺対象では、なくなっていく。


 一人の、人間に。


 なっていく。


 それが。


 怖かった。



 歓迎会は。


 その後も。


 しばらく、続いた。


 新人たちは。


 豪華な食事を、楽しみ。


 特殊生徒会の、面々と。


 少しずつ、打ち解けていった。


 俺だけが。


 その、輪の中で。


 一人。


 異質な、存在だった。


 味方の、ふりをして。


 歓待を、受け。


 情報を、集め。


 そして。


 毒を、盛る、機会を。


 探っている。


 誰も。


 それを、知らない。


 アリシアも。


 神月華も。


 そして。


 女子棟にいる、澪奈も。


 俺は。


 窓の外を。


 見た。


 電気の、消えた。


 東京の、夜。


 暗い、街。


 その、どこかに。


 俺の、家族が、いる。


 両親と。


 妹が。


 悪魔の王は、言った。


 依頼を、受ければ。


 家族を、全員、助けると。


 成功しても。


 失敗しても。


 だから。


 俺は。


 ここに、いる。


 この、歓待の、輪の中で。


 一人。


 裏切りを。


 抱えて。


 覚悟は。


 まだ、半分。


 残り半分は。


 この、学園で。


 人と、関わるほど。


 遠のいて、いく。


 俺は。


 窓に、映る。


 自分の、顔を、見た。


 いつもの。


 感情の、ない、顔。


 その、顔が。


 今は。


 ひどく。


 卑怯な、ものに。


 見えた。

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