↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほし☆どき! ~東経135度の星時研究部~  作者: 明石竜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/24

第二十一話 東経135度の町で、わたしたちは何を見ているのか

 発表テーマが決まってからの部室は、これまでとは違う、前向きな空気に包まれていた。期末テストが終わってからは、授業も四時間目までだったため、午後の早い時間から発表準備に取りかかることができた。

 机の上には印刷した写真やグラフが広がり、壁際には発表用のパネルが立てかけられている。プリンターの動く音と、紙を切るはさみの音が、途切れることなく部屋に響いていた。

「じゃあ、構成を確認しましょう」

 秋月先生が、ホワイトボードに四人で話し合って決めた発表の流れを書き出した。

 

 導入:東経百三十五度と、明石という町について。

 かなめ:星と太陽の時間。

 こよみ:町と地図に残る時間。

 あかり:喫茶店と暮らしの時間。

 つむぎ:観測ノートと、四人が見つけた時間。

 結び:わたしたちが、この一学期で見つけたもの


「こうして見ると、ちゃんと、ひとつの流れになってますね」

 こよみが、感心したように言った。

「うん、それぞれの担当を活かしながら、全体として『時間』というテーマでまとまってる」

 かなめが頷く。

「よし、じゃあ、それぞれの発表原稿、詰めていこう」

 あかりが気合を入れるように両手を打ち合わせた。

 まず取りかかったのは、かなめの担当パートだった。これまでの経験を踏まえて、かなめは、専門用語を控えめにしながら、けれど核心は外さない説明を組み立てていった。

「星を見るのは、過去を見るのと同じ、っていう話から始めようと思う」

 かなめはホワイトボードに、簡単な図を描きながら説明した。

「星の光が、地球に届くまでには、時間がかかる。だから、わたしたちが夜空に見ている星の光は、実は何年も、何十年も前に、その星を出発した光。今この瞬間の星の姿じゃなくて、過去の星の姿を見ているっていうこと」

「それ、天文科学館で聞いたときも、すごく面白いと思いました」

 つむぎが頷く。

「うん。それから、太陽の南中と、恒星の南中の違い。時計の正午と、太陽の正午が違うこと。これは、あかりの店で気づいたことにもつながる」

「うちの店の話、ここでつなげるんや」

 あかりが嬉しそうに言った。

「うん。天文の話が、いきなり喫茶店の話に飛ぶんじゃなくて、『太陽の動き』っていう共通点でつなげられると思う」

 かなめの説明は、以前よりずっと聞きやすくなっていた。難しい専門用語を並べるのではなく、みんなが実際に体験したことを引用しながら、順序立てて話を進めていく。

「うまくなりましたね、説明」

 こよみが、素直な感想を口にした。

「まだまだ。姉さんほどじゃないけど……でも、前よりは、伝わる話し方ができてる気がする」

 かなめの表情には、以前のような焦りではなく、確かな手応えが見て取れた。

 練習の合間、あかりがふと思いついたように言った。

「なあ、発表のとき、緊張して噛んだらどうしよ」

「噛んだら、噛んだで、味わい深いと思います」

 こよみが、大真面目にそう言った。

「フォローになってる? それ」

「なってないかもしれません」

「素直か!」 

 あかりが思わず突っ込むと、かなめがこらえきれずに小さく笑った。

「本番前に、緊張ほぐす練習、しといたほうがいいかもね」

 かなめが提案した。

「練習って、どうやんの?」

「わたしも、よく知らないけど……深呼吸とか?」

「じゃあ、みんなで深呼吸、練習してみよ」

 あかりの提案で、四人は一斉に、大きく息を吸って、ゆっくり吐き出した。

「せーの」

「すー……はー……」

 真剣な顔で息を合わせているうちに、なぜだか妙におかしくなってきて、こよみが最初にぷっと吹き出した。

「深呼吸で、こんな真剣な顔する必要、あります?」

「あるやろ、緊張ほぐす練習やねんから」

「顔、ほぐれてないですよ、みなさん」

 その指摘に、四人はまた顔を見合わせて笑ってしまった。緊張の練習をしているはずが、いつの間にか、ただの笑いの練習になっている。

 続いて、こよみとあかりのパートを確認した。

 こよみは新旧の地図を並べ、道や海岸線の変化が一目でわかる見せ方を考えた。あかりは、カフェの床のラインが実際の経線からずれていることも、隠さず原稿に盛り込んだ。

 そして最後に、つむぎのパートを詰めることになった。

「わたしは、観測ノートと、みんなが見つけた時間について、話そうと思います」

 つむぎは、これまでの活動を通して書き溜めてきたノートを開いた。何ヶ月分もの記録が、細かい文字でびっしりと書き込まれている。

「星の時間、地層の時間、町の時間、喫茶店で気づいた時間――それぞれ違うスケールの時間を、四人で見つけてきました。そして、その締めくくりとして、部室の時計のずれについても、触れたいと思っています」

「あれ、どこまで発表に入れる?」

 あかりが心配そうに尋ねる。

「チックのことまで、話すん?」

 この点については、四人の間でも、少し意見が分かれていた。

「チックさんの存在は、うまく説明できないので、そのまま発表するのは難しいと思います」

 こよみが慎重に言うと、机の下からチックが顔を出した。

「わたし、秘密」

「本人が協力してくれるなら助かるけどな」

「話さない……たぶん」

「その『たぶん』が、一番不安やねん」

 あかりは苦笑いを浮かべる。

「でも」

 つむぎが考えながら言った。

「部室の壁時計が、日によって不規則にずれるという事実そのものは、観測データとして、ちゃんと発表できると思います。原因については、はっきりしたことは言えないけれど、『説明のつかない現象も、記録する価値がある』という結び方にできないでしょうか」

「それは、いい落としどころかもしれない」

 かなめが頷いた。

「チックの存在をそのまま話すんじゃなくて、『時計のずれという、まだ解明できていない現象がある』という事実だけを伝える」

「うん」

 つむぎが続けた。

「そして、それを、『時間には、まだわたしたちが知らないことがたくさんある』という、発表全体の結びにつなげたいと思っています」

 その方向性に、四人は納得し合った。

 こうして、四人はそれぞれのパートを、繰り返し練習していった。放課後、カフェ・メリディアンでリハーサルをすることも増えた。

        ☆

 七月十八日、発表会前日の放課後。

「もう一回、通しでやってみようや」

 あかりの提案で、四人は店の隅のテーブルを借り、最後の通し練習を始めた。

「まず、導入から」

 つむぎが、原稿を見ながら話し始める。

「明石では、時間まで少しだけ特別に見えます。この町には、東経百三十五度の線が通っていて、日本の時間の基準になっています。わたしたち星時研究部は、この一学期、この町で、様々な『時間』を観測してきました」

「次、わたしのパート」

 かなめが続き、星と太陽の話を、以前より格段にわかりやすく話していく。あかりとこよみが聞きながら、時折頷く様子を見て、かなめの表情も、少しずつ和らいでいった。

 その様子を、灯子さんがカウンターの奥から優しい目で見守っていた。

「みんな、本当にいい発表になりそうね」

「まだ、途中ですけど……」

 あかりが、少し照れくさそうに言う。

「じゅうぶんよ。あなたたちの、この一学期間の頑張りが、ちゃんと形になってる」

 リハーサルの後、四人は、店まで様子を見に来ていたすばると秋月先生にも、発表を見てもらうことになった。

「うん、いい流れだと思う」

 すばるが感心したように言った。

「導入の図をもう少し大きくすると、後ろの人にも伝わりやすいと思う」

「姉さんに、そう言ってもらえると、嬉しい」

 かなめの返事には、以前のような硬さが少しずつ薄れていくのが感じられた。

「あかりさんのお店の話も、正直に正確さのことまで話すのは、勇気がいったと思うわ」

 秋月先生が言った。

「うん、最初は、ちょっと怖かったです。でも、隠すより、ちゃんと話したほうがいいと思って」

「その姿勢、とても大事よ」

 こよみのパートについては、すばるが少し提案をくれた。

「地図の話、写真だけじゃなくて、実際の地図の画像をもう少し大きく見せると、聞いてる人にも伝わりやすいと思う」

「ありがとうございます、参考にします」

 最後に、つむぎのパートを聞いたあと、秋月先生が少し驚いたような表情を浮かべた。

「大久保さんの導入、よくまとまっているわ。これなら本番も大丈夫そうね」

「え、そうですか?」 

「最初のころは、自分の意見を言うのも遠慮がちだった。でも今は、全体をまとめる役割を、ちゃんと果たせてる」

 その言葉に、つむぎは少し照れくさそうに、けれど確かな喜びを感じながら微笑んだ。

「みんなが、それぞれ好きなことに真剣に取り組んでいたから、わたしも、それをちゃんと伝えたいと思えたんだと思います」


 リハーサルが一通り終わった後、四人は店の窓際の席に座り、少し疲れた様子で、けれど満足げな表情を浮かべていた。

「あとは、本番だけやな」

 あかりが、伸びをしながら言った。

「緊張、してきました」

 こよみが、珍しく少し不安そうな顔をする。

「大丈夫」

 かなめが、意外にも力強く言った。

「わたしたち、ちゃんと準備してきた。あとは、それを自分たちの言葉で伝えるだけ」

 その言葉に、つむぎはゆっくりと頷いた。

 帰り道、灯子さんが四人にこっそり小さな紙袋を手渡した。

「これ、本番の日の朝、みんなで食べて」

 中を覗くと、小さなクッキーが四枚、それぞれ星の形にかたどられている。

「お母さん、ありがとう!」

 あかりが目を輝かせる。

「験担ぎ、って言うと大げさだけど……いい発表になりますように」

 灯子さんのさりげない気遣いに、四人はそれぞれじんわりと温かい気持ちになった。

           ☆

 夕方、発表用の資料を置きに部室へ戻ると、チックがいつになく落ち着かない様子で、部屋の中をうろうろしていた。

「チック、どうしたの?」

 つむぎが尋ねると、チックは耳をせわしなく動かしながら言った。

「発表の日、近い……大きいほつれ、育ってる」

「やっぱり、来るんですね」 

 こよみが、緊張した面持ちで言った。

「柏木たちの発表が止まったのも、校内研究発表会の日……同じ流れ、来てる」

 チックのその言葉に、四人の間に改めて緊張が走った。

「わたしたち、絶対、最後まで、ちゃんと発表を成功させます」

 つむぎが冷静に、けれどはっきりとした声で言った。

「うん」

 あかりが頷く。

「柏木先輩たちの分まで、っていうのは、大げさかもしれんけど……うちら、絶対に、ちゃんとやりきろうな」

 チックは、しばらく黙って四人を見つめていたが、やがて、小さく頷いた。

「みんな、ちゃんと、準備してる……たぶん、大丈夫」

 その言葉には、確信というより、願いのようなものが込められているように、つむぎには感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。