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ほし☆どき! ~東経135度の星時研究部~  作者: 明石竜


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第十話 博物館の展示は、海辺へ続いている(後編)

 予定より少し長く遊んでしまい、こよみにスマホの時計を示されて、四人はようやくショッピングセンターを出た。

 そこから住宅地を抜け、南へ向かって歩いた。建物の間から海が見え始めると、風の中に潮の匂いが混じってくる。

 最初に到着したのは、明石原人の腰骨が発見された場所だった。

「ここ、なんですね」

 つむぎは、案内板と、その向こうに広がる海岸を見比べた。

 博物館の展示室では、明石の歴史を揺るがすほど大きな発見に思えた。けれど現地に立ってみると、波の音が聞こえる、ごく静かな海辺だった。

「もっと、特別な場所みたいになってると思ってました」

「あの腰骨が見つかるまでは、ここも普通の海岸だったはずです」

 こよみが答える。

「歴史的な発見というのは、最初から目立っている場所で起こるとは限りません。誰かが足元にあるものを見つけて、調べようと思ったところから始まるんです」

 つむぎは案内板の内容と位置をノートに書き、かなめは周辺の地形を写真に収めた。

 さらに、海岸沿いに延びる「浜の散歩道」を東へ歩くと、アカシゾウ化石発掘地を示す案内が見えてきた。目の前にあるのは海と崖の続く風景で、博物館で見上げた二頭の骨格はどこにもない。

「ここから、あのゾウにつながってるんやな」

 あかりが足元を見ながら言う。

「展示室にある骨だけ見てたら、発見された場所までは想像してませんでした」

 つむぎは、海岸から博物館までの道のりを思い浮かべた。土の中に埋まっていた化石が見つかり、調べられ、骨格として組み上げられ、今は多くの人に昔の明石を伝えている。

「博物館の展示って、そこで終わっているわけではないんですね」

「はい。その先には、必ず見つかった場所があります」

 こよみは海の方へ顔を向けた。

「展示と場所を結びつけて見ると、昔の出来事が、少しだけ近く感じられます」

 四人は最後に、二つの発見地の位置を地図へ書き込み、活動記録用の写真を撮った。

 そろそろ駅へ向かおうとしたところで、こよみが海岸沿いに続く道の先へ目を向けた。

「あの……もう一か所だけ、寄ってみたい場所があるんですけど」

「まだあるん?」

 あかりが驚いたように聞き返す。

「ここから『浜の散歩道』を東へ三キロ少し歩くと、赤石の碑があります。海中にある赤い石が、明石という地名の由来の一つになったと伝えられている場所です」

 こよみは申し訳なさそうに三人を見た。

「ただ、ここからだと少し歩きますので、今日はやめておいても……」

「その話、小学生のころに聞いたことがあります」

 つむぎは、海岸の先へ目を向けた。

「でも、実際に碑がある場所へ行ったことはありません。せっかくここまで来たんですから、行ってみたいです」

「わたしも賛成」

 かなめが頷く。

「発掘地から地名の由来まで、同じ海岸沿いで確かめられるのは面白いと思う」

「二人が行くなら、うちだけ帰るわけにもいかんな」

 あかりはそう言ってから、こよみへ笑いかけた。

「ほな、案内よろしく」

「はい」

 こよみの返事は、申し訳なさそうだった先ほどより、少しだけ弾んでいた。


 しばらく歩くと、海を望む休憩所のそばに、石碑が立っていた。表面には、大きさの違う二頭の鹿が寄り添うように刻まれている。

「これが、赤石ですか?」

 つむぎが碑を見上げると、こよみは首を振った。

「これは、赤石のいわれを伝えるための碑です。本物の赤石は、この海の沖に沈んでいるそうです」

「三キロ以上歩いてきたのに、肝心の石は見えへんの?」

 あかりが海へ目を凝らす。

「現在は海の中にあるから、ここから見るのは難しいと思います」

 こよみが申し訳なさそうに答えると、あかりはもう一度、碑に刻まれた二頭の鹿を見た。

「でも、見えへん石の名前が、今も町の名前に残っとるって、おもしろいな」

「この鹿にも、何か由来があるんですか?」

 つむぎが尋ねる。

「はい。海を渡った鹿と赤石にまつわる伝説が残っているんです。昔は『明石』ではなく、『赤い石』と書いて『赤石』と呼んだともいわれています」

「実際の石が先にあって、そこに伝説が重なり、さらに地名として残ったということですね」

 かなめが、海と碑を交互に見ながら言った。

「石そのものは見えなくても、名前と物語は残るんだ」

「小学生のころに話を聞いたときは、ただの地名の由来だと思っていました」

 つむぎはノートを開いた。

「でも、実際にここまで歩いてくると、本当にこの海から明石の名前が生まれたのかもしれないって、前より身近に感じます」

 こよみは三人の反応を見て、嬉しそうに微笑んだ。

「来てよかったです」

「うん。歩いた甲斐はあったわ」

 あかりはそう答えたあと、少し疲れたように足を伸ばした。


 赤石の碑を見たあと、四人は山陽電車の林崎松江海岸駅へ向かった。朝からいくつもの場所を歩き回ったせいで、駅へ着くころには、全員の足取りが少し重くなっていた。

「博物館と昼ごはんと買い物とゲームと海岸沿いで史跡巡り。今日、詰め込みすぎちゃう?」

 あかりがホームのベンチへ座りながら言う。

「ですが、全部楽しかったです」

 こよみがそう答えると、あかりは意外そうに隣を見た。

「こよみさんが誘ってくれたから、知っているだけだった場所にも、実際に足を運べました。また、こよみさんがよく行くところを教えてください」

 つむぎが言った。

「はい。まだ、いくつもあります」

 こよみの返事は、朝よりも少しだけ弾んでいた。

 かなめは、今日撮った海岸の写真を確認しながら口を開いた。

「次は、この辺りの石や地層も、ちゃんと調べてみたい」

「また海に来るん?」

「今日とは違う調査になると思う」

 電車がホームへ入ってくる音が近づいてきた。

 博物館で見た遠い昔の明石と、午後に歩いた現在の海岸。その二つが、四人の活動記録の中で、一つの道としてつながり始めていた。


         ☆


 週明けの月曜日、カモノハシのぬいぐるみのトックは、星時研究部の新しい仲間として部室に迎えられた。

 その日の朝、秋月先生にトックを預け、昼休みに四人で部室をのぞいてみると、天球儀の下で、チックがトックにもたれて気持ちよさそうに眠っていたのだった。

「もう、仲良くなったみたいやな」

 あかりが声を潜める。

 四人は顔を見合わせて笑い、チックとトックを起こさないよう、そっと部室の扉を閉めた。

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