リゾートへご招待!
「ほれ、アーン!」
「だぶぅ!」
私の差し出したスプーンに勢いよく喰らいつく赤ん坊……どーも私と赤ん坊です!
「お、イケる口じゃん! この子離乳食も食べれるわ」
「だぶ!?」
ゼリーのような半固形物を口にした赤ん坊は『知らん味!?』みたいな驚いた表情をしている。そーかそーか、興味あるようだね。ミルクばかりじゃ飽きるもんな!
「そらもいっちょ! アァーン!」
「だぶぅ!! むぐん……」
「アァーン!」
「だぶぅ!!」
なんか餅つきみてぇな食事介助になっちまってるけど、『赤ん坊はもっと寄越せ』とばかりにスプーンに喰らいつく。
「……それ食べさせ方あってる?」
「いやまぁ食ってるし……」
私達の餅つき食事介助に、幼女ちゃんが眉を寄せて語りかけてくる。いや、私だって最初はソッとスプーンを差し出したんだよ? そしたらコイツがピラニアみたいに喰らい付いてくるんだもんよぉ。
「あら、もうお腹いっぱいっぽいね」
そのうち赤ん坊は私の差し出すスプーンに興味をなくしたのか、ソッポを向いてしまった。分かりやすくてよろしい!
その後、幼女ちゃんが赤ん坊を受け取りミルクを飲ませると、スヤスヤ眠り始める。
「……オバケ姉ちゃん、『おくるみシャボン』おねがい」
「オッケー! そぉ〜れ良い子だ〜」
大人しく『おくるみシャボン』に包まれた赤ん坊をベッドに降ろす。おくるみシャボンも無限に使い続けられるワケじゃないからね。
完全に能力が完成するまでどれくらいの制限が必要になるかは分からないけど、赤ん坊の安全性に特化させた現状……制限時間とクールタイムはあるんだよ。
まぁシャボンに包まれた以上、蹴飛ばそうがビルから落ちようが赤ん坊が無事くらいには安全よ。
「ただいまー」
「あ、おかえりッス!」
「……ぬ、おかえり」
ガチャリと扉を開けて、尻軽女が部屋に帰ってきた。
尻軽女はお仕事でクタクタなのか、上着を脱いでベッドに放り投げる。
「お風呂沸いてますよぉ〜」
「悪いわね、助かるわ」
「いえいえ、アイドルのお仕事大変みたいッスね」
「ホントよもう! またダンスの振り付け私だけ増やされたのよ! 信じらんない! ここまで来ると他の子たちと違いすぎて違和感しかないわよ!」
怒りながらキャリーバッグからタオルを取り出すと、スタスタと浴室に向かっていく。そして
「クソッ! 何でコイツらいんのよぉっ!!」
思いっきりタオルを床に叩きつけた……。
「はい?」
「ニヤニヤ笑いながら『はい?』じゃねぇんだよ! ふざけんなよテメーらぁ! 昨日帰ったはずでしょ!」
「何言ってんスかぁ……ずっといたじゃないですか」
「いきなり居なくなったじゃない!? 普通に怪奇現象でビビったのよ!」
あっはっは、昨日の話ね。
帰ったワケじゃなくて、スキマに引っ込んで隠れてただけだから。帰るどころか部屋から出てすらいないよ。
「ちゃんと協力するって言ったでしょ! これ以上付き纏わないでよ!」
「まぁまぁまぁまぁ」
喚く尻軽女の叫びに、眠りについた赤ん坊がグズリ始める。あぁ、泣いちゃったじゃん。
「キィーー! 赤ん坊の泣き声やめてよ!」
まるで音波攻撃でもくらったかのように耳を塞いで蹲っちゃった……。仕方ないだろ、赤ん坊は泣くもんなんだから。
「……オバケ姉ちゃん、おくるみシャボンに追加する機能が決まった。『防音』」
「なるほどね、確かに配慮は必要だ。オケ、『防音工場』も建設に入れようか」
実際に問題が起きないと気づけないもんだねぇ。後から追加できるってのはココがでかい。
「……でも、わたし達には聞こえるようにしないと、今度は泣いている時にきづけない……」
「ん〜……特定の人間に聞こえるようにするのは、ちょっと条件が厳しくなっちゃうかな」
半径何メートル以外には響かないってのが現実的なところかな?
「もう出ていってよ!」
髪をグシャグシャにして半狂乱になっている尻軽女は、扉を指差して出て行けと促してきた。
「まぁまぁ、ちょっと待ってくださいよぉ……。泣き声の方は対策しましょ。それより、損はさせないと言ったでしょ?」
揉み手で擦り寄る私に、尻軽は馬鹿にするような顔で目を血走らせる。
「はん! なによ、男でも紹介してくれんの!?」
「いやアンタ……ガキに男紹介しろって正気かよ……」
「だから出て行けって言ってんのよ!」
「ん〜、男と言われましてもねぇ……『人生に疲れた負け犬野郎』とか『目に傷のあるグラサンマフィア』とか『人を殺すことに快楽を覚える変態殺人鬼』辺りで良かったら紹介しましょうか?」
「地獄のようなラインナップね……」
まぁ連絡は取れないけど。
「まぁイケメンは紹介出来ませんけどね。お姉さんにも悪い話じゃないと思いますよぉ?」
「詐欺師みたいな顔で近づくな!」
ひっどぉ! 詐欺師はねぇだろ。
まぁ正直な話、この姉ちゃんには私達の有用性を認めて貰わにゃいかんからなぁ。造船所脱出の為にも。
だから、本当は見せたくないけど、多少コチラの手札を見せてでも利点をくれてやらなきゃいけんわな。
……オトコは紹介できんけどね。
「ひとつ、自然の豊かなリゾートにご招待いたします」
私は指を一つ立てて、静かに告げる。
そして、二つ目の指を立てる。
「ふたつ、そのリゾートでタップリとダンスの練習が出来ます」
私の言葉に尻軽アバズレ女は、鼻から馬鹿にしたような笑いを漏らして見下してくる。
「はん、そんなもんが用意できるなら是非欲しいわね。あんた馬鹿にしてんの……。それとも旅行券でもくれるのかしらぁ?」
「いいえ……それに旅行しているヒマがあったらダンスの練習したいんでしょ? ねぇアイドル姉さん……我々はアナタの望みを叶えられます……【行きますか?】」
「あーはいはい、そんな夢のような場所があるのなら幾らでも行ってやるわ」
「……うひひ…………りょぉ〜〜かぁいぃ…………」
意思の確認取れました! 大自然へご招待します!
尻軽の袖を軽く引いて、箱庭シミュレーターに引きずり込む。
「………………………………………………は?」
そして、あっという間に大草原です!
「うぃ〜ッス。じゃ幼女ちゃん。続きの作業の前に、アップデートを軽く確認してみようか」
「……ぬ、拠点以外の世界が変わったんだったね」
フリーズしている尻軽女を無視して、私達は頭にカポっと黄色いヘルメットを被る。
「あー……拠点内は変わりないようだけど、少し歩き回って確認してみよ」
「……むぃ」
スタスタと歩いて拠点を見て回る。うむ、幼女ちゃんの作った掘立て小屋も変わりはないね。
アイテムや素材を保管しているチェストの中身も変わりなさそう。
「おっと、幼女ちゃん。どーやらゲームに空腹ゲージが追加されたようだね」
「……あ、ほんとだ」
これは元々の【インダストリークラフト】にあった要素なのかな? それとも箱庭シミュレーターが独自に進化しちゃったのかもしれん。
あ、もともとあった要素ではあるみたいだね。
今まではチュートリアル的な感じで排除されてたんだ。
「……腹が減るとどうなるの?」
「んとねぇ……ゲージが無くなると、すげぇスピードでヒットポイントが減っていくみたいだね」
「……ぬ、なるべく空腹はさけたいね。ゲージがなくなると死ぬとおもったほうがいいかな」
「そうだね。死亡するとアイテムロストの危険があるし……」
一通り見て回ると、尻軽女がなんか発狂していた。
「いやーー! ここ何処よ! なんで草原にいるのよ!」
「あ、尻軽姉さん。戻ってきたみたいだね」
「あ、アンタたち! ココはどこよ! 私に何をしたのよ! 帰しなさいよ!!」
「ん? 帰りたいんスか? お望みのリゾートですよぉ。どーです? いい景色でしょう」
「ッ!!」
私がそう言うと、尻軽女の目に恐怖が宿る。
ふむ、どーやらイキナリのことに混乱しちゃってるみたいだね。
「…………あ、アンタ達……ナニ?」
「ん〜、ここは時間の流れが現実より遅くなってますので、姉さんお望みのダンスの練習が思う存分出来ると思いましてぇ」
「……そんなこと聞いてないわよ。お前……なんなの?」
あれ? もう少し説明が必要かな?
そんな事を思っていたら、幼女ちゃんが尻軽女の前に立つ。尻軽女は一歩後ろに下がった。
「……きもちは分かる……でも、そーいう物だと思うしかない。少なくともお前に損がないのは確か。酷く現実的な『夢』とでも思えばいい……」
「…………………………帰して」
気に食わなかった!?
ん〜、一回帰ってもらった方がいいかな? というより、いつでも帰れると分からせた方がいいか。
「姉さん姉さん。ここは別に危険な世界じゃないんすけど、姉さんの意思で帰れますからね? 『ココから出る』って思ってみてよ」
「……」
尻軽女は無言で俯くと、目の前に空間が歪んだような靄が現れる。そこに入り込むと……元のホテルの部屋に戻っていた。
「…………戻ってる」
「言ったでしょ?」
「幻覚ってこと? アンタの異能ってことでいいの?」
「んー……まぁそーですね」
「現実としか思えなかったわ」
まぁ完全に幻覚とも言えないからねぇ。
しばらく無言で考え込んでいた尻軽女だったが、不意に部屋の時計を噛み付かんばかりに手に取るとボソリと呟く。
「……時間が……経ってない?」
「言ったじゃないッスか。あの世界と現実では時間の流れが違うって。だからダンスの練習に最適でしょ?」
尻軽女は目を見開いて、私達を怯えたような顔で見た後……ゴクリと唾を飲み込んだ。
――――――――――――――――――――――――
「はい! 再入場!」
私達三人は再び草原へと経っていた……。
全くもう! また入るなら帰るとか言わないでよね!
無駄な時間を過ごしちゃったでしょ!
「ちょっとアンタ達! こんな草原じゃダンスの練習できないでしょ! なんとかしなさい!」
お前ホント……変わり身はえーなぁ。
「はいはい……分かりましたよー」
ダンスの練習するなら、地面は平な方がいいか……。
幼女ちゃんと二人で地面を道具で整地していく。
あと屋根のある建物がいるかな? 資材を使って簡易的な建物を作る。こんくらいの広さがあればいいかな?
はいトンテンカンと……。まぁクラフトゲームにおける建物なんてデザインに凝らなければ直ぐにできらぁな!
「あ、内部が暗いね。光源として松明を……流石に松明は暑苦しいな」
松明は光源として悪くはないんだけどね。現実になったら圧迫感があるというか……。ダンスしている部屋に松明って儀式感あるよね!
「……オバケ姉ちゃん、ベルトライト鉱石で灯りがクラフト出来るから設置するね」
お、いい感じじゃん。
ものの数十分でダンスの練習場所完成!
あとは……。
「う〜ん、モンスターの襲撃で練習を邪魔されたらアバズレ怒るよなぁ」
「……アップデートで、拠点の襲撃が追加されたんでしょ?」
「そうなんだよね。仕方ない。少し箱庭の仕様を弄るか……。幼女ちゃん。木材で新しく柵の項目に出来たでしょ?」
「……この『システム外柵』ってやつ?」
「そうそれ! クラフトして!」
幼女ちゃんの作った柵で練習場の周りを囲む。
これで一応完成かな?
「……この柵なに?」
「これで囲ったところは、ゲームシステムの影響を受けないってことだよ。つまりモンスターが湧かないし、侵入もできない」
「……ならこれで拠点を囲めば……」
「あーそれは無理。ゲームシステム外だから、チェストは機能しないし、ベッドを置いても時間が飛ばせない」
モンスターとアクティブ状態だったら私達も侵入できないようになってる。本当にゲームとしてズルが出来ないようにしてるよ。
そういう仕様だから。成り立つシステムだよ。
「オッケー姉さん! 出来たッスよ!」
「良くやった! 私は早速練習に取り掛かるわ!」
「うぃー! なんかあったら呼んでねー!」
よしよし、アバズレも満足のようだね。私らはゲームを進めようか。工場も建てないといけないし……。
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「ちょっと! 壁を鏡張りに変えなさいよ!」
「か、鏡ッスか? 幼女ちゃんどう?」
「……い、今は鏡のコストがたかい」
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「ちょっと! シャワーないの!? シャワー!」
「えぇ……幼女ちゃん、シャワーって作れる?」
「……一応設計図あるよ」
「あるんだ……」
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「ベッドが硬い! もっといいのにしてよ! 休憩できないでしょ!」
「はぁ〜い、新しい素材でクラフトしますよぉ〜……」
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「舞台に『迫り』作ってよ! 迫り」
「迫りってなんだよ!」
うっせぇなアバズレが!
オメーいい加減にしろよ!
馴染んでんじゃねぇぞ!




