マルチプレイで差があると焦る
「シュタ! さぁ〜て、幼女ちゃんは何処かなぁ〜?」
箱庭シミュレーターの草原に降り立った私は、辺りをキョロキョロ見渡す。ふむ、見当たらないね。
私は草原を歩きながら拠点に設定した場所へ向かう。
「歩いてりゃ見つかるかな?」
ちょっと今回の箱庭シミュレーターの設定を説明しておこうか。
『私の領域』は時間が止まってるわけだけど、今はこの箱庭シミュレーターと繋げて時間感覚を共有させているんだ。
「だから私がゲームをしていた時間と、幼女ちゃんの時間感覚は同じはず……」
私の領域は24時間しか居られないんだけど、これは私がそう設定したからだね。制限の一種だよ。
それに比べて箱庭シミュレーターは少し違う。
ここは時間の圧縮に近くて、私の領域より長くいることを想定して作った。なぜなら『インダストリークラフト』が時間の掛かるゲームだからだよ。
箱庭シミュレーターで現実準拠にしたせいで、手間も増えているはずだからね。
『私の領域』と『箱庭シミュレーター』……大きな違いは、箱庭シミュレーターの方が現実に近いことだね。
私の領域と違って箱庭シミュレーターは、わりと自由に出入りが可能だよ。
「……あ、オバケ姉ちゃん」
「お、幼女ちゃん見〜け」
黄色いヘルメットを被って猫車を押している幼女ちゃんに遭遇。うむ、頑張ってるみたいだね。
「……これ入れてくるからちょっと待って」
そう言って彼女は、猫車を押しながら積んでるジオキューブを運んでいく。
ちなみに言うとこの空間、幼女ちゃんが出ようと思えば簡単に出られるようになっている。別に幼女ちゃんを閉じ込めたいワケじゃないからね。
「それに強制監禁はリソース食っちゃうし……」
ボスメイドは閉じ込めていただろって?
アレ実は結構無理してたんだよ。一から箱庭を作って、箱庭が頑丈だったから可能だったんだ。それでも足りない部分を貴重な領域エネルギーから補填して、ようやくボスメイドを一時的に監禁できたんだよ。
ところで……。
「その猫車なに?」
「……?」
猫車を傾けて、ザラザラと機械に導入している幼女ちゃんに話しかけると、彼女は不思議そうに首を傾ける。
猫車ってアレだよ。土木作業とかで土なんかを運ぶ一輪車。そんなんあるの?
「……クラフトした」
「そ、そーかぁ……クラフトしたかぁ」
「……ちょっと素材が重め……製法書と鉄が必要だった」
「せ、製法書?」
や、ヤバい……幼女ちゃんが何を言っているのか分からない! いやまぁ何となくは分かるんだけど、コイツ思ったよりこのゲームへの適応能力が高いぞ。
私がゲームをしている間に、少しだけジオキューブを集めてもらえれば助かるくらいの気持ちでいたんだけど、いつの間にか私の知らない知識を得てやがる!
っかしいなぁ……この子、このゲームのやり方チュートリアルを見てないはずなんだけど……。合流した時に一緒に覚えればいいやって思ってたんだ。
けどコイツ……感覚でゲームを進めてるっぽいね。
「だ、大丈夫、幼女ちゃん……疲れてない? ちゃんと休んでる?」
「……なに言ってるの……別れて数時間しかたってないでしょ」
そ、そうね。
時間感覚を共有させているから感覚は同じだもんね。
「……それに、疲れたらアソコで休んでる」
幼女ちゃんの指差す方を見てみれば、そこには粗末だけど小屋が立っていた。
中を覗くと、やはり粗末なベッドが置いてある。
「えぇ……なにこれ、ベッド使って寝てるの?」
「……ちがう、これは夜を飛ばすためだよ」
「ゴメン、お前何言ってんの?」
「……なんでオバケ姉ちゃんがしらないの」
呆れたような幼女ちゃんの顔に私の自尊心にビビが入った気がした……あんまりこのゲームのこと知らねぇんだって。
とりあえず箱庭シミュレーターと繋げただけだからさ。勝手にゲーム進めたのはお前だろ。
「……夜はモンスターが活発なんだよ。視界が悪いし」
「モンスターとかいんの? ん〜だからベッドで時間を飛ばすんだ」
「……うん、いま夕方だからベッド使える」
そう言って幼女ちゃんはベッドに横になる。
「……?」
「……あれ?」
でも幼女ちゃんはベッドで不思議そうに首を捻る。どうした? 時間飛んでねぇぞ。
「…………ん〜……あ、そうか」
そう言って幼女ちゃんはベッドから起き上がると、部屋の隅の作業台に手を伸ばす。
そして……。
「……はい、オバケ姉ちゃんも横になって」
ドンとベッドが目の前に現れた……。
ねぇ! お前本当に何やってるの? 私の知らないシステムを活用してんじゃねぇよ!
というかゲームの進行度で置いていかれてる気がして不安になるんだよ!
「……ベッドにいないプレイヤーがいるからダメっぽい」
「あ、私のことか」
そう言うことか……時間を飛ばす時にはプレイヤーが全員ベッドにいないと寝れないんだ。なるほどなぁ、今までは幼女ちゃんが一人だったから関係なかったんだろうね。
まぁそう言うことなら……。
私がベッドに横になると、外の草原が早回しのように明るくなる。
「……じゃあ続きいってくる」
そう言って明るくなった草原を猫車を押して歩いて行こうとする幼女ちゃん……。心なしか楽しそうだなお前。
「ちょっと待って幼女ちゃん。私も行くわ……」
よし……決めた! 今日はコッチを手伝います!
本当は私の領域に戻ってゲームの続きやろうと思ってたけど、ちょっとコッチにするわ。
あと、私の領域との時間共有切っとこ! このままだと離される!
数時間の間に一体何があったんだよ!
私は幼女ちゃんの後ろを歩きながら、このゲームのチュートリアル……というか説明書を読み込む。
ズルじゃないからね! 得た情報は共有するから!
やがて紫色のジオ結晶のところまでやってくる。
よっしゃ! 私の勇姿を見ていろよ!
「フン! フン! フン! フン! フン!」
カンカンカンカンカン! ボリューン!
小気味いい音と共に、ジオ結晶が砕けて紫色のキューブになる。んふふ、砕ける音が癖になるね。
どーだ白髪! 私だって頑張ってジオキューブを集めてやるからな!
「……ぬん」
カン……ボリューン!
「……ぬん」
カン……ボリューン!
「……ぬん」
カン……ボリューン!
「私のと違う!!」
私が五回叩いて砕くジオ結晶をヤツは一回で砕いてやがる!
「お、おま! 卑怯だぞ! 何だそれ!」
「……ん? あぁ、これはオバケ姉ちゃんのツルハシより上等なやつ……クラフトした」
そーかぁ! クラフトしちゃったかぁ!
「……このツルハシじゃないと壊せない物もある」
「そ、そうなんだぁ」
…………コイツと無理に張り合うのやめとこ……。
完全にプレイ時間のアドバンテージが違うわ……。
「あ、リスだぁ……かわいいなぁ」
現実逃避するように遠い目で地面に座り込んだら、切り株の側に可愛らしいリスがやって来た。このリスは箱庭由来かな? それともゲーム由来の生物かな?
うふふ、カワイイなぁ……。私はリスに手を伸ばす。
「……ぬ“ぅん!!」
「ヒィ!!」
そしてリスは目の前で粉々に砕け散った……。
デカいハンマーを振り下ろした白髪幼女の手によって……。
「……ぺッ……害獣が……」
「…………」
おい、誰かコイツ叱れ。
子供がやっていい表情じゃねぇだろ……。
「……オバケ姉ちゃん、そのリス気をつけて……ジオキューブ盗むよ」
「え? マジで!」
ゲッ、こいつゲーム由来のモンスターかよ!
つかやっぱりこのゲーム、モンスターいるんだね。いやまぁサバイバルのジャンルも入ってたしそうかぁ。
箱庭シミュレーターで怪我はしないけど、攻撃されたらどーなるんだ?
ちょっと探ってみるか……ほうほう、モンスターに襲われて体力がなくなると、持ってるアイテムをドロップして拠点に戻されるのね。
……気をつけよ。
「というかそのハンマー、何処から出したん?」
「……インベントリ……あるでしょ?」
あ、ホントだあるわ。
そうか、ジオキューブはインベントリに入らないから猫車で運んでたのね。
その後、猫車が一杯になるまでジオキューブを集めて拠点に戻る。
「幼女ちゃん、そろそろ休もうか」
今日はもうお終いにしようぜ。
「……ベッド?」
「違う違う、今日は終わり……っていうかそうか、ここじゃ時間の感覚ねぇわな。休もうぜ」
私はゲーム内時間を止めて、幼女ちゃんのクラフトした掘立て小屋に入る。
「感覚的に今日は店じまい。少し寝るよ」
「……わかった」
おっと、少し不満そうだね。
キミ実はこのゲーム楽しんでるでしょ。
「ここはゲームの中で、実は現実での体力は関係ないんだけどね。今日は子守を忘れて寝ようぜ。精神のリフレッシュには最適な空間よ」
「……つくづく」
なんだよ、言いたいことあるならハッキリ言えや。
私と幼女ちゃんは、掘立て小屋のベッドで横になる。
「どーだい幼女ちゃん。このゲームは面白いかい?」
「……興味深し」
私の質問に幼女ちゃんは少し考えた後頷く。
「……わたしが思うに、このゲームは目的地に到達するまでに『回り道』をさせられるゲーム」
「ほう? 回り道とな?」
「……一つの物を作ろうとしたら、足りないパーツがある。だからソレを作らないといけない。けどソレを作るのも足りない。そして……ソレを作るパーツも足りないから作らないといけない」
「……ふむ」
サバイバルのゲームってのの楽しみ方なのかもね。
「……どんどん小さな物を作り上げ、それでようやく次の素材が獲得できる……たぶん、それが面白い」
「コツコツやる感じだね」
この子たぶん、こー言ったゲームの素養ありそうなんだよねぇ。
「……うん、どれくらいこの世界にいるの?」
「そーだねぇ、とりあえずは、三日かな? ゲーム内時間じゃなくて現実の感覚で」
あんまり長くしても効率が悪そうな感覚あるんだよね。
「たぶん、このゲーム……目的考えると、長くなりそうなんだよね」
実は工業化……インダストリー部分にすら、ちっとも届いてないからね。今はただのサバイバルクラフトって感じ。
だから、三日たったら現実に戻って、24時間後の私の領域と共にまたこのゲームを始めるって感覚だね。
「キミには頑張って貰う必要があるわ。たぶんこのゲーム、まだまだ先が長いからね」
「……問題ない」
そらよかった。
「……でも、これって本当に赤子の為になってんの?」
「も、もちろんさ!」
い、いや、なってるなってる……はず。
本体部分の能力はコメットデリバリーで完成するから!
こっちはまぁ、その為の補助なんだけどさぁ……。
ちょっと実験的な要素が強くてですねぇ……。
ぶっちゃけ……成功するか分からんのよね。
や、やめろ! 疑惑の目で見るな!
さっさと寝ろやガキぃ!




