尻軽アバズレ覆面ネーチャン
どーも私です。
利用できる安全な大人を探して、アバズレそーなネーチャンに接触いたしました。
「アンタ達の目的はなに? 事と次第によっちゃ……」
でも『安全』という部分は、ちょっとばかり間違いだったかもしれませんね!
尻軽ネーチャンの、まるでリンゴを握りつぶすかのような手がビキリと音を立てたような気がした。
おっとっとぉ!
幼気な子供に向けていい顔じゃありませんよ尻軽さん!
幼女ちゃんの見立て通り、おそらくこのネーチャンは化け物クラスみたいな人外存在じゃねぇんだろうけど……それが危険人物じゃないかどうかは別物なのよねぇ……。
倒れる輩を嬉々として攻撃しつづけた尻軽ネーチャンだ。いくら起きてこられるのが困るからって明らかにやり過ぎ……。むしろ輩の目に恐怖が宿ることに対して快感を得ていた。
あの表情は生来のサディストと言うべきか……性格が捻じ曲がってんのが窺い知れるわ。
そんな尻軽ネーチャンは、冷たい目に警戒を滲ませながら、私たち幼女二人プラス赤子を見下ろす。
いや、お前なんでそんなに私たちに対して敵意剥き出しやねん……。
「いや〜目的もなにも、お姉さんがこのボロ雑巾に襲われそうになってたから助けに入ろうとしただけッスよぉ……でも必要なかったみたいですねぇ。お邪魔しました。ごゆっくり……」
揉み手でニコニコと笑顔を浮かべてみるが、尻軽は目を細めて『胡散臭いガキね……』と呟く。
「失礼ッスねぇ。悪しき者を浄化せしめるエンジェルスマイルでしょ?」
「はっ、その歳で騙す事しか考えてなさそうな顔ができるのは眩しい才能ね」
「悪しき者のお姉さんには、さぞ眩しかったようで……」
「……」
尻軽の手に持った角材がピクリと跳ねる。
……まじぃかな?
このネーチャン、一般的な腕力しかねーんだろうけど、何を仕出かすか分からない怖さがある……。
逃げるために後ろを振り向いた瞬間に、ノータイムで後頭部に角材を叩きつけそうなイメージ……。
言ってしまえば……性格が悪そう!
「言うじゃない……嫌いじゃないわよ? アンタがイケメンの男だったら許してたわ」
ぶっちゃけ私と幼女ちゃんだけなら逃げられるんだけど、問題は赤子連れなこと。
走って逃げる振動に赤子が耐えられるかどーか分からない。
この女は性格悪いだろうから、積極的に赤子を狙う可能性があるよね。
「随分男好きなんですねぇ……」
こうやって会話してんのも逃げる隙を探るのと、この女の情報を収集するためだ。
「そうね。イケメンは好きよ。特に金を持ってて刺激のある男がいいわね」
「ほどほどに……男遊びでヤケドしますよ?」
女は私の言葉にニヤリと笑う。
「あら、ありがとう。……でも、もうヤケド慣れしちゃったわ」
「……」
「……」
「……」
剣呑な視線を受けながら、無言の時間が路地裏に流れる……。
まぁ逃げるなら、水滅玉の目眩しが最適かな?
そんな事を考えていたとき……
「ーー! ーー! ーー!」
風船赤子が険悪な雰囲気を感じ取ったのか『泣き声』をあげ始めた……。
「……」
「……」
「ーー! ーー!」
路地裏に赤ん坊の泣き声だけがこだまする……。
赤ちゃんに『今忙しいから黙ってて!』はきかねぇよなぁ〜。
「……」
「…………はぁ」
やがて尻軽ネーチャンはため息を吐いて血の付いた角材を投げ捨てた。そして呆れたように顎をしゃくる。
「移動するわよ」
――――――――――――――――――――――――
「……ミルクがあと数回で切れそう」
哺乳瓶を咥える赤ちゃんを抱きながら、幼女ちゃんがボソリと呟く。
「後で買いに行かなくちゃねぇ……」
赤ん坊にミルクをあげる私達は、『公園のベンチ』に座っていた。
「結局アンタ達なんなワケ?」
その隣では尻軽女が頬杖をつきながら、面倒くさそうにその光景を見てくる。
「おや、急に態度が柔らかくなりましたね。もしかして赤ちゃん好きでした?」
尻軽女は『はっ……』とバカにするように鼻で笑うと肩を上げる。
「嫌いよ……赤ん坊の泣き声とかイライラするわ。私は金とイケメンが好きなの」
「そりゃ徹底してますね。それがなんで急に敵意を無くしたんです?」
「別に……仕事柄ストーカーには気をつけなきゃいけないからね。ホテルからずっと着いてきているヤツがいたら警戒するでしょ」
「へぇ〜、私らがストーカーに見えます?」
「…………見えないから警戒するのやめたのよ。赤ん坊連れた子供のストーカーなんていないでしょ」
「そりゃ確かに……」
このネーチャンの評価を少し修正しなきゃいけんな。
この尻軽女は『クソ女』に違いはない。
イケメンが大好きな『アバズレ』で、敵対した輩の顔面をブン殴り続けて……歪む顔に快感を得る『サディスト』なのも……その通り。
でも……一般常識が欠けているワケじゃないんだ。
だから常識人の面をかぶることも出来る。
むしろイケメンに良い顔をするために、他人の感情を推し量るのには長けている可能性もあるね。
私達に最初、敵対的な態度を見せたのもそーいった駆け引きだったんだろうね。
でも無駄だし面倒だと思ってやめたってところかな?
「ーー! ーー!」
ミルクを飲んだ赤ん坊はやがてグズり始める。
「おっと、今度はどーした? オムツか?」
「……ちがうみたい。いみふめい……」
まぁ泣くのが赤ちゃんなんだろうから仕方ないんだろうけどね。でも尻軽ネーチャンがイライラしてんだよねぇ……。ごめんなさいねぇ。
赤ちゃんの泣き声に尻軽女が貧乏ゆすりをする。
そしてキッと睨むと口を開いた。
「眠いんじゃないの?」
「は? じゃ寝ろよ」
私の返答に尻軽ネーチャンは口を引き攣らせると、片手で顔を覆って空を見上げた。
「そういうモンなのよ。眠いから泣くの……」
「んなバカな……」
え? そうなの?
尻軽女は幼女ちゃんの手から赤ん坊を引ったくると、向かい合わせに縦抱きにする……。
すると赤ん坊はスヤスヤと眠り始めた。
そしてすぐに幼女ちゃんに突き返す。
「……随分と手慣れてるッスね」
「知らないの? 赤子は嫌いだけど『赤ちゃん好き』ってのは男受けいいのよ」
あ〜なるほど、分かりやすい。
「ちなみにさっき言ってたストーカーに遭いやすい職業ってなんですのん?」
私らをストーカーに間違うくらいなんだから、気になるわ。
私の質問に、尻軽女は痛いところを突かれたような顔をしてソッポを向く。
「……言いたくないわ」
「なんの業種だろうと笑いませんって」
つってもまぁ……飲み屋のネーチャンってところかな? そんなところだろ。
「はぁ、ガキに言ってもねぇ……ま、関係ないガキに不満をぶちまけるほうが健全かしら……」
仕事に不満があんのかな……。こっちの願いも聞いてほしいから、不満くらいは聞くよ。
幼女ちゃんもチラリと視線をやって見ている。
やがて尻軽女は……頬をわずかに染めて疲れたように呟いた……。
「…………『アイドル』よ」
「「ぎゃはははハハハ!!」」
ナイスジョーク!
「笑ってんじゃないの!?」
「ヒヒヒ、いや、シリアスな顔で急にギャグ挟むからでしょ!」
アンタがアイドルって……歌って踊るアイドルの事だろ? ふはは、尻軽女が笑わすな! どこの世界にアバズレ尻軽サディストのアイドルがいるんだよ。
「……」
「……え? マジで言ってる?」
「私だってアイドルなんてやりたくないわよ……」
尻軽女はそー言って、公園の向こうにある街頭ビジョンのモニターを指差す……。
そのモニターにはアイドルのグループが数人で踊って歌っている……。
「…………まさか、あのセンターにいるのがアバズレ尻軽女って言いませんよね?」
「不本意ながらリーダーよ……」
モニターに映るセンターで踊るアイドルは、確かにこの尻軽女の声で歌う……。
私はモニターを指さして、ドン引きした顔をした。
「アンタ……なんであんな事になってんスか?」
「……不本意だっつってんでしょ……」
キレキレのダンスで声援を受ける推定アバズレ女は普通ではなかった……。
なぜなら……顔に麻袋を被った『覆面』だったからだ。
「はっ、何が『覆面アイドル』よ……」
「ネタ枠じゃねぇか!」
しかもコイツ街頭モニターに映るほどの人気あるアイドルなんですけど……。
――――――――――――――――――――――――
「ふん、まぁいいわ。知らないガキに話して少しスッキリしたもの。それで……アンタ、私の質問に答えてないわよ」
一通り笑った後、尻軽覆面アバズレアイドルは睨みつけてくる。
「あぁ、私達の目的ですね。ここは幼女ちゃんから……」
私が促すと、幼女ちゃんは感情の分からない瞳で尻軽女を見る。その視線に尻軽女は少しビクリとした。
「……なにも難しいことは言わない。おまえは『児童保障制度』をわたし達の代わりに取ってこい……」
そういって幼女ちゃんは、腕に巻いてあるパイプ端末を投げ渡した。
「はぁ!? なんで私がそんな事しなきゃいけないのよ! そもそも、なんで私なのよ!」
「まぁ偶々目についたってのもあるんですがね……こっちにも色々と事情があっての選別で御座います。おめでとう! お姉さんは選ばれました!」
「胡散臭い詐欺の広告みたいに言うな! 嫌よ! 他を当たりなさい!」
尻軽女は私達を見渡した後、顔を歪ませて拒否する。
はは、気づいたよね? そうだね。『訳アリ』だ。
代わりに保障制度を取らせるってのは、訳アリだからに相違ない。でもね、面倒クセェからもうお前でいい。
「……お姉さんにご迷惑はお掛けしませんよぉ?」
「イマ、正に迷惑なのよ! 私を何かに巻き込むな!」
いいね。お前はクズっぽいけど、危機管理できて私達に深く干渉しない。
最初はヤベェイカれ女だと思ったけど、お前はやっぱり好都合だ。
「じゃあね! もう着いてこないでよ!」
「お姉さんお姉さ〜ん。これ見てぇ〜……」
捲し立てて立ち去ろうとする尻軽女に、私は両手で人差し指を立てる。
「なによ!」
「んふふ……」
私の人差し指の間に、モニターが浮かび上がる。
『ガチャっとガーディアン』
【監視カメラを生成する能力】
『アハ! アハハハハ! ねぇ痛い? 痛いわよねぇ!? 不細工の分際で私をどーにかできると思ったの!? 今度からイケメンになって出直してきなさいよぉ!! こうやって殴ってやれば少しはイケメンになれるんじゃなぁい!?』
角材でめった打ちにしているアイドルの映像だ……。
「あ、アンタ……まさか撮ってたの?」
「現役覆面アイドルの素顔……声を聞けばファンには分かるんじゃないッスかね?」
「……脅す気?」
尻軽女が座った目をする……。
アンタ言ったね。本当はアイドルなんてやりたくないって……それでもアイドルやってるってことは理由があるんだよね?
ここは少し……誠実に対応するよ……。
「ええ、脅してます。私達はお姉さんを脅して保障制度を代わりに取らせようとしています」
私はニコリとも笑わず……視線も逸らさずにそう淡々と告げる。
「どーですかね? この映像をばら撒かれたくなかったら保障制度……代わりに取ってもらえません?」
「…………アンタ……タチ悪いわね」
尻軽女は舌打ちをして、幼女ちゃんの腕から寝ている赤子を引ったくると、パイプ端末をもって街中に消えていった……。
「悪いね……」
私はアンタを利用させてもらった。
明らかな訳アリの赤子連れ幼女……それが保障制度を取ってこいと言ったんだ。
なんとなく……分かったんじゃない?
切羽詰まってんだよ私達。
「だから私は……アンタの『僅かな良心』を利用した」
アンタさぁ……クソなんだろうけど一般的な感性があるんだよね。そしてたぶん……自分はクソだという自覚がありながらも、心の奥底でクソ女を隠すという葛藤がある。
そして、アンタは心の奥底で僅かにクソじゃなかったんだ……。
でも、自分を守るために厄介ごとに関わりたくもなかった。アンタはクソ女であることで、自分を守ってたんじゃないのか?
「だから私は言い訳を用意してやったんだ……」
脅されたから仕方ないよねって……。
それが分かったからアンタは私に『タチが悪い』って言ったんだ。
尻軽女は数分で帰ってきた。
そしてすぐにベンチに置いておいたハンドバッグから財布を取り出すと中身を数えだす。
「ふん、盗ってなかったようね」
「あら〜試されてました?」
あからさまに置いていったからね。
アンタからしたら、私らがお金を盗んでて反撃したかったのかな? あからさまなワナを仕掛けおってからに。
尻軽女は幼女ちゃんにパイプ端末を投げ渡すと『じゃあね! 二度と会わない事を祈ってるわ!』と怒りながら去っていった。
「……ちゃんとアプリ入ってる」
「よぉーし、目的は達成かな?」
「うん、あとアイツ……まだ使える」
そう言って幼女ちゃんはポケットから魔石を一つ取り出して呟く。
あ〜ね、私達は確かに尻軽ネーチャンのハンドバッグから物を盗まなかったよ。けど、一つ幼女ちゃんお手製の魔石を仕込んでおいた。
「次に探すときのために……」
発信機みたいなもんかな?
悪いねネーチャン……お前は使えるわ!
なんかあったら次も頼るから!




