それはツンデレとは言わねぇよ
「高けーんだよ!」
「……ぼってんじゃねぇぞ」
私と幼女ちゃんはショーケースに入っているベビーカーの値札を見てブチ切れた……。
その値段最低でも二万ネルス。
なんだ二万ネルスって! 二十万円だぞ!? 赤ちゃんの代わりに現金でも輸送しようってのかよ!
チッまぁいい、どちらにせよだね。このベビーカーってのは無理して買ったとして『使い物』にならねぇわ……。
「……オバケ姉ちゃん、いくよ」
「う〜い無駄だったね」
私と幼女ちゃんはベビーカーの陳列されているショーケースを、ちっとも名残惜しそうにもせず立ち去ることにした。
あーね、使い物にならないってのは決して不良品てワケじゃないよ。むしろ、よくできてると思う……。
赤ちゃんに優しい衝撃吸収や、頑丈さも申し分ないんだろうね。でも……
「子供が使うことを想定してない……」
いや子供ってのは赤ちゃんのことじゃなくてね、これを実際に押す事になるであろう私達のことだよ。
そりゃそーだって感じなんだけどねぇ。このベビーカーを押すのって親という名の『大人』なんだよ。
だからね、ハンドルの位置が高い……。
「アレ私達の身長じゃ届かないし押しづらいわ……」
「……いちおう高さ調節のあるタイプもあったけど、それでも届かない……」
まぁ無理すりゃ押せないこともないけど……無理してる時点で買おうとは思わんよね。
「さぁ〜て、どーすっかねぇ。しばらくこのボウヤは手で運ぶしかねぇッスけど……」
文句をいいながら、デパートのような複合型商業施設を出て立体歩道橋を歩く……。
「むぉぅ……むみみみぃ」
「そーかそーか、お腹減ったかぁ。ミルクの時間かな?」
「……そーなんじゃない? いちおうオムツもみとくか」
公園のベンチ辺りでミルクタイムに入ろう。
「やっぱベビーカーじゃないにしても、手軽に運べるモンは欲しいよねぇ」
「……うん。あのベビーカーはいらないけど代わりになる物……オバケ姉ちゃんお前ベビーカー出せ」
「キミは私を何だと思ってんのかな? 業者じゃねぇんだよ……」
「……意味わからんトロッコは出しただろ」
意味わからんて……お前、私の『ライド遊具の能力』になんて事言うんだよ。テメーの為に作った能力だぞ。
まぁ確かに幼女ちゃんからしたら大概意味わからんか……。
いや実際ちょっとは考えてんのよ。ゲームの能力で何とか出来ねぇかなってさ……。
でもねぇ、ちょっと保留中。
なんでかって……そりゃ何の能力を作ればいいか分かんないからだよ。確かに頭をひねりゃベビーカーモドキを作り出すことは出来るだろうよ。
けどね……事はそんなに簡単な話じゃない。何故なら……
「……オバケ姉ちゃん。コイツそろそろ、風呂とか入れないといけないよね?」
「そーいやそーだねぇ」
これだよ。
私達は……赤ん坊に何が必要なのかが分からない!
ベビーカーを作り出してハイ完璧! ってワケにも行かんだろう……。
私は幼女ちゃんに言われるまで赤ん坊の『入浴』の事なんて頭になかったよ。
じゃ入浴の能力を別で作り出すか? そんな不備が見つかる度に能力を付けてたら、私『言語理解の能力』すら外す事になっちまうだろ!
幼女ちゃんもそんなの困るよなぁ!?
会話の出来ねぇガキが一人増えるんだぞ!
だから保留中……安易にベビーカーを出すような能力なんて作ってる場合じゃねぇのよ。もっと赤子に幅広く対応できる能力じゃなければ意味がない。
現状、私たちには赤子に何が必要かの知識が足りないんだ。
だからと言って赤ちゃん用能力を作らないってワケじゃないよ……。ソレについては少し考えがあるから、検証してからゲームを探すことになるね。
ところで……
「幼女ちゃんや……キミ、歩き方へんじゃない?」
なんというか……一歩がデカいというか、まるで月面を歩いているみたいに、ふよぉ〜ん、ふよぉ〜んとなってる。
「……うん、コイツ今飛んでいこうとしたから制御してる」
「そんで、そんなんなってんの?」
「……いや、歩くには楽だから」
ちょっと楽しそうじゃねぇか……。
完全に解くんじゃなくて、制御してそんな遊びを始めるとは。
「ん〜、飛ぶっていや、造船所の連中って飛ぶじゃん」
「……言いたいことわかるけど、ピンク野郎とかの『飛ぶ』とは別物だよこれ」
幼女ちゃんは、月面歩行をやめて腕の中で眠る青毛の赤ちゃんを難しそうに見る。
ほう、と言うと?
「……雪山でわたし達を吹き飛ばしたヤツや、ピンク野郎はどーやってるか分からないけど原理じたいは単純……『魔力を噴射』して飛んでるんだよ」
「なるほど」
確かにそんな感じはあるね。文字通りジェット機野郎はジェットみたいに飛んでたワケだ。
「……でもコイツはちがう。そもそも魔力じゃないし噴射もしてない。普通に浮いてるんだよ」
「ふぅ〜ん、変わった能力をお持ちだねぇ〜キミは」
寝ている赤子のホッペをプニプニしながら呟くと、幼女ちゃんは首を横に振る。
「……たぶんソレも違う。まえも言ったけど、コイツの能力じゃない気がする。赤子は異能を使えないし、エネルギーが異質すぎる。この意味不明さはどちらかと言うと……」
そう言って幼女ちゃんは、赤子を抱いている反対の手で『天然コア』を取り出した。
「…………『遺物』にちかい」
――――――――――――――――――――――――
ベンチに座る幼女ちゃんが、目を細めて向かいのビルの入り口に指をさす。
その先にはキャリーケースを押している、キツそうな顔のネーチャンがホテルに入って行くところが見えた。
「あのネーチャンかい?」
「……うん、いまのところ条件に合致する」
なるほど確かに!
はいどーも、今回の『大人を騙して使おう』のコーナーです。
目的は一つ!
使えそうな大人に『保証制度』を取らせる事です!
ほら、赤ちゃん用品が安くなる制度ですよぉお。
ベビーカーは要らんけど、流石に毎回バカ高いミルクやオムツを買ってらんねぇからね!
そこでバカなヤツを騙して保証制度を取って貰おうってワケですな。
なぁに、候補さえ見つかれば簡単よ。
どーやら審査自体は簡単みたいだからね。ソイツに幼女ちゃんのパイプ端末を渡して認証アプリを入れてもらうだけでいい。
そこでその保証制度を取ってもらう大人なんだけど、幾つか条件がある。
一つはこの『造船所の関係者』ではないこと……。
私ら造船所に目をつけられている可能性が高いからね! でも悲しいかな、ここって造船所のお膝元なワケでぇ……いくら街に見えても、そこら辺のヤツが造船所の関係者って場合がある。
だから慎重に選ばないといけないワケよ。
二つ目は……明らかに『ヤバい強者』でないこと。
ぶっちゃけそんな人外クラス、こっちが関わりたくねぇよ。ましてや騙そうとしてんだからな。
以上を踏まえて頼れる大人を探しておりました。
化け物クラスでないかは幼女ちゃんの目で判断。
確実ではないけど、隠してないなら幼女ちゃんの目である程度は判別できる。今までにもヤベェ存在を感知してきた実績があるからね。
まぁこれに関しては『そもそもそんなにいない』って感じなんだけどね。ポコポコ化け物クラスにかち合っていた今までが運がないだけだよ。
そしてようやく見つけたのがさっきキャリーケースを運んでいたネーチャンってわけだ。
「……確定じゃないけど、ホテルに泊まるなら外部の人間の可能性がたかい」
「そうかもね。あの荷物も旅行者って感じがするし」
「……それに適度にバカそう」
「キツそーなネーチャンだったけどね。気性が荒そうだったよね」
ホテルを張るのは間違いじゃないだろう。
少なくとも造船所の関係者じゃない可能性は高いはずだ。これで外れてたら知らん!
しばらくしたら件のネーチャンがホテルから出てきた。キャリーケースはホテルに置いてきたようだね。ハンドバッグを持って出てきた。
すぐに接触はしないで少し様子見だ……。
もうちょっと観察してみよう。
私達はキツめのネーチャンの後をコッソリと付けて行く。
やがてネーチャンは煌びやかな街にたどり着いた……。う、う〜ん、子供が赤子連れで歩くのは目立つかな?
まぁまだ日も明るいし、そーでもねぇか?
物陰に隠れてネーチャンを追っていると、ネーチャンは一軒の店に入る。この店は……
「ホストクラブっぽいね……」
「……見た目どおりで助かる」
まぁイケメンに酌をしてもらう店って感じでOK?
しばらく外で待ってると、ネーチャンはご機嫌で出てきた。どーやら楽しんだようですな。
イケメン好きかい?
さらにネーチャンの後を追う。
「……今のところ問題はなさそう」
「昼間っからホストクラブで飲んだくれてるネーチャンが問題ないのならそーかもね」
「……わたしらにとっては問題がない」
「それもそーか」
やがてネーチャンはフラフラと街を歩く。
道中近道をしようとしたのか、路地裏を通ろうとした。その後を、ニヤニヤと笑いながら二人の男が路地裏に入っていく。
「おっと、飲んだくれているネーチャンの後を追いかける人相の悪い男が二人……」
「……さらにそれを追いかけるわたし達」
ふむ、利用させてもらいましょうか。
明らかに地元の人間じゃないネーチャンに目をつけた悪者って感じでいいかな?
金目当てかしらんけど女一人ならカモにしやすいと踏んだか……。
逆にこー言う時、子供の私らは絡まれ辛いわな。だってこの街に子供は異様だもん。
「颯爽と助けて恩を売れば、言うこと何でも聞くんじゃね?」
「……もんだいは、わたし達に助ける力がない事だけどね……」
そんなもん倒さなくていいんだよ。要はネーチャンに恩を売ったという事実さえあればいいんだから。
妖球を投げ込んで煙幕みたいにしたら、ネーチャンの腕を引いて逃げ出せばいい。
私達は路地裏をソッと覗き込む……。
「な、なによアンタ達!」
焦った声でネーチャンが二人の男に声を上げる。
よしよし、思った通りの展開で嬉しいね。
「よっしゃ! ちょっと出てくる」
「……出るの?」
「そりゃ私達が助けましたよーっていうアピールは大事よ。大丈夫大丈夫、すぐに煙幕をはってネーチャンと脱出するから」
私は唇を舐めて、路地裏に躍り出る。
「待ちなッ!! そのアバズレそーな姉ちゃんを離せ!」
腰に手を当てて胸を張る。
はいどーも! アンタを助けたのは私です!
「「「…………」」」
男二人は、急に出てきた私に目を点にする……。
おっと、混乱してますか? ごめんねぇ、イケメンの兄ちゃんじゃなくてさぁ。
「…………」
このまま妖球を投げ込もうとしたら、その前にネーチャンが動いた。
思考停止している男の後ろで、近くの角材を拾うと……。
「ガッ!!」
…………後頭部にフルスイングよ……。
「て、てめッ!」
そして返す刀でもう一人の顔面をブン殴る。
「チッ不細工が! ナンパならもっとイケメンになって出直してこい!」
「……」
倒れる男達に口汚く罵ると、ネーチャンは唾を吐きかける。
「…………」
うーわっ……。
コイツ容赦ね〜。
しかもナンパ待ちしてたのか? このネーチャン……。んで男達が不細工だったから気に食わなかったと。
私はチラリと振り返って、ビルの角から顔だけ出してる幼女ちゃんに判断を仰ぐ。
幼女ちゃんは無言で首を横に振っていた。
あ、はいそーですね。
この尻軽ネーチャンはパスで。
「あ、どーやら問題なかったみたいですね。尻軽ネーさんはごゆっくり……」
「……待ちなさいよ」
手をシュタっと上げて立ち去ろうとする私に尻軽ネーチャンが待ったを掛ける……な、なんでしょ?
「アンタたち、ホテルから私のことつけてきてたでしょ……何者?」
おっとバレてた。
「気のせいじゃないんですかぁ〜? 尻軽姉さんの勘違いですよぉ」
「尻軽っていうな! コソコソ赤子連れの子供が付いてきてたのは分かってんのよ!」
揉み手でニヤニヤ笑ってみるが、尻軽ネーチャンの視線は絶対零度……。
「「…………」」
無言の重圧の中……倒れた男が目を覚ます。
「て、テメー……」
尻軽姉ちゃんはそれを見ると、ヤベって顔をして角材を振り上げた。そして……。
ゴッ……ゴッ……ゴッ……ゴッ……
と容赦なく叩きつける……。
ゴッ……ゴッ……ゴッ……ゴッ……
ゴッ……ゴッ……ゴッ……ゴッ……
ちょ……
ゴッ……ゴッ……ゴッ……ゴッ……
やり過ぎじゃない!? もう動かないって!
あ……コイツ……笑ってら。
「アハ! アハハハハ! ねぇ痛い? 痛いわよねぇ!? 不細工の分際で私をどーにかできると思ったの!? 今度からイケメンになって出直してきなさいよぉ!! こうやって殴ってやれば少しはイケメンになれるんじゃなぁい!?」
ゴッ……ゴッ……ゴッ……ゴッ……
ヤベェ姉ちゃんだ……。確かに悪いこと考えてそーな男達だったけど、ここまでする!?
「……おい、にげようぜ」
コソコソやってきた幼女ちゃんが話しかけてくる。流石の彼女も、笑いながら血の付いた角材を振り下ろすシーンにドン引きしていた……。
「アハッアハハハハ!! ……はっ」
やがてハイになってた尻軽姉ちゃんは、私たちのドン引き顔に我に帰ると角材を投げ捨てる。
尻軽姉ちゃんは腕を組んでフンッとそっぽを向いた。そして頬を赤く染めると、こんな事を宣った……。
「あっ! アンタ達の為にやったんじゃないんだからねっ!!」
「「…………」」
でしょうよ。
「どーみても自分の為やろ」
「……お前……さも『子供を助けた照れ隠し』みたいな態度やめろ」




