スラップスティック
どーも私です。
ふふふ、赤ちゃん……赤ちゃんですかぁ。
スヤスヤ眠ってますねぇ。良いことだと思いますよ?
赤ちゃんってのは寝るのが仕事らしいですからね!
うふふ、羨ましいですね。
実は私もチョー眠ぃ〜んですよ。
でも、もうちょっと頑張って起きてないといけないかなぁ〜。ほら、寝床探したりとか色々しなきゃいけないから。
だから赤ちゃんのように眠っちゃうワケにはいけませんねぇ〜。ふふふ、気にしないで良いですよ。必要なことですから。
でもね……
「寝ていいのは親がいる赤子だけなんだよ……」
「スゥ……スゥ……」
親はどーしたー!
いやスゥスゥじゃねぇんだよベイビー……親もいねぇのに寝てんじゃねぇよ!
お前の仕事は寝ることなのかもしれんけど、泣いて親を呼ぶのもお前の仕事だろうがぁ!
赤子の仕事放棄してんじゃねぇよ。職務怠慢だぞ。
「…………………………………………」
「スゥ……スゥ……」
「…………………………………………………………」
ジィィイィィ…………
私は見たくない現実に目を背けるようにバッグを閉じると、無表情で幼女ちゃんの座るベンチに帰還した……。
遠い目で遠くの夜空を見ている幼女ちゃんの隣に座ると、手を組んで神妙に地面に視線を落とす。
「………………」
「………………」
「…………みた?」
「見た…………」
「「………………ふぅ〜〜」」
お互いが意思疎通をとって、私達は揃って頭を抱えた……。
「おい……どーすんだよ。オメーなんてもん見つけてくれやがんだ」
「…………ごめん」
「……謝んじゃねぇよ……幼女ちゃんが謝ると事の深刻さに拍車が掛かるだろ」
「……どーしろと…………」
「………………どーしよぉねぇ」
「……」
そしてお互いため息をついて無言になる。
おい、ヤベェよ……なんで夜中のベンチの下に赤ちゃんがバッグにインしとんねん……。
チラリと向かいのベンチに視線をやるが、相も変わらずそこには現実を突きつけるようにバッグが置いてある。
もいっかい確認したら札束とかに変わってねぇかな?
ダメか……私ら中身確認しちゃったもんね。シュレディンガーの赤子は確定しちゃってんのよ。
「親は? なんで取りにこねぇの?」
「……あのバッグ……数時間おきっ放しだよ」
「ベンチの下に? バッグに赤ちゃん入れて?」
「……」
厄介ごとの範疇を超えてる……。
完全に訳アリだろ。
「……捨て子……かねぇ?」
「……わかんない。バッグに防寒の魔道具が仕込んであった」
……つまり、虐待の線はなさそう?
何か事情があって置いていったとみるべきか……。
「…………………………見なかったことにする?」
「…………」
私と幼女ちゃんはお互い顔を見合わせて、ニチャっと気持ち悪い引き攣った笑みを浮かべると、ベンチを立ち上がる。
そしてスタスタ歩き出した。
「う、うふふふ。仕方ない仕方ない。だってキャパオーバーだもの」
「……ぬ、ぬひひ。かんけいない……じぶんのことでせーいっぱい……」
赤子から目を背けるように、私たちは斜め下を見ながらベンチから立ち去る……。
「「…………」」
そして……不意に二人でピタッと停止すると、スタスタと引き返してベンチに座り…………頭を抱えた。
「「…………」」
「どーした幼女ちゃん……忘れ物か?」
「……オバケ姉ちゃんこそ……」
そうだね。罪悪感とか諸々落ちてたわ……。
後味悪すぎんだろ……。
「もうちょっと待ってたら……親がやってくるやもしれん……」
「……それを確認するまで……すわってる?」
私は無言で頷いた。
そうだよ。そのうち親が取りに来るかもしれんし……。
――――――――――――――――――――――――
「来ねぇな!!」
「……しってた」
あれから数時間待ってたけど誰もやってこねぇ!
完全に夜も更けて、人気も完全になくなった。
バッグに近寄ってくる人影はない……。
「「…………はぁ〜〜〜………………」」
私と幼女ちゃんは長い長いため息を吐いた後、ベンチから立ち上がるとバッグに近づいた。
そしてゆっくり抱えると、ベンチに乗せて開く。
やはりと言うかなんと言うか……やっぱりソコには赤ちゃんがスヤスヤ眠っていた。
「だぁ〜! 流石にもう親も取りに来る時間とかそんな場合じゃねぇわな!」
「……うん、さすがに待つだけムダ」
バッグを挟んで座ると、腕を組んで眉間に皺を寄せる。腹を括るしかねぇ!
「さて、このガキどーするよ」
「……けーさつ?」
「普通に考えたらそうだね。でも私達は警察に厄介になるワケにゃいかんでしょ」
「……ソッと置いておくとか?」
なるほど、警察の近くに置いて回収されるのを待つワケだ……。
「ちと危険だが……有りだな」
「……とおくで観察しながらみてる」
私達がなんとか出来る範囲を超えてるからね!
私達はバッグの位置を警察の近くにズラすだけ! それが精一杯だ。
流石に放っておくのは後味が悪すぎるし……。
「…………げっ」
幼女ちゃんが引き攣った声を上げる……。
嫌な予感がして視線をやれば、バッグの中の赤ちゃんが目をパッチリと開いていた……。
ひぇ……。
「「…………」」
赤ちゃんが目を覚ます……それだけで私と幼女ちゃんは冷や汗をダラダラと掻く……。
なんとなく、引き返せなくなった気がして……。
赤ちゃんは、パッチリと開いた目で視線を彷徨わせると……私達をみてるのかしらないけど…………クシャっと顔を歪ませた。
ゾッと背筋が凍る……。
そして……サイレンのように泣き始めた……。
「「ひ、ひぃ〜〜!!」」
私と幼女ちゃんはアタフタとその場で立ったり座ったりして取り乱した。
いや、どーしろと!! 赤ちゃんのあやしかたとかしらないし!
泣きやめ! 泣くんじゃねぇ! お願い泣かないで下さい何でもしますから!
いや、力一杯泣くねキミ! 全力じゃん!
そんな小さな体からよくそんな声量がでるね。少し感心するわ!
それにしても赤ちゃんの泣き声って何でこんなに焦燥感を煽るのかね! 親を呼んでんのか?
「だったらさっさと取りにこんかい親ぁァァアア!」
…………来ねぇからこーなってのよね。
幼女ちゃんは、耳を塞いで目をギュッと瞑っていたが……唐突に自分の髪を両手でグシャグシャにし始めた。
分かる……分かるぞその気持ち!
そして幼女ちゃんは白髪をボサボサにして、血走った目で口を開く。
「……ッ! あーもぅ! オバケ姉ちゃん! すこしもたせて!」
そー言って幼女ちゃんは何処かに走っていった……。
お前私を一人にするんじゃねぇよ!
不安になるだろぅが! え? どーすんのコレ?
その間も赤ちゃんは何が不満なのか泣き続ける。
「だ〜! 泣き止んでくれ〜! こう言う時どーすりゃいいんだよ。ほら泣き止んでベイビー! ほぉ〜ら良い子だ泣きやめ! イナイイナイ居なくなりたい!」
あ、当たり前だけど泣き止まねぇ……。
私が赤ちゃんの周りで何とかあやそうとアタフタしていると、不意に赤ん坊が『オ?』と泣くのを止める。
そして……
「あだ! アダダダダ! 髪を引っ張るんじゃねぇよ」
「きゃきゃ」
私が赤ちゃんから髪を避難させようとすると、赤ん坊はクシャっとわずかに顔を歪ませようとする……。
き、キサマ脅す気か!?
「え、え〜い仕方がない! 能力付け替え! 【私の領域】」
付け替えてきた『髪の毛のような物を操る能力』でワシャワシャと赤子をくすぐる。
「きゃきゃ!」
こ、これだ! この能力は引っ張られても痛くねぇからな。それにどうやら髪の毛を引っ張るのが赤子のトレンドらしい。
「ほれ、高い高い!」
ごめんウソ。本当は高くない。
でも伸びた髪の毛で赤ちゃんを少しだけ浮かせると、赤子はご満悦の様子。
そうこうしているウチに、幼女ちゃんが大荷物を抱えて走ってきた。
「……うわ」
「うわ、じゃねぇよ! 私一人に押し付けて何処行ってた!」
「……絵づらがさいあく。赤子を捕食する髪のバケモノみたい……」
「いいから何とかしろ!」
どうやら幼女ちゃんは、赤ちゃん用品を買いに行ってたらしい……。近くに夜中でも開いてるコンビニでもあったのかな?
幼女ちゃんは、頭を悩ませながらも赤ちゃんのオムツみたいなのを取り換える。ふむ、オムツがシュルリと動いてワンタッチで取り替えられたようだね。
さすが魔法がある上で発達した世界……こういうところ便利なもんが売ってんだね。
そして使い捨て哺乳瓶みたいなもんを赤子に飲ませると、赤ちゃんはまた眠りだした……。
「ふぅ〜〜……嵐のような時間だったぜ……」
全国のお母さん……お疲れ様です。尊敬しますわ……。
ベンチで幼女ちゃんとグッタリとする……。
「助かったよ幼女ちゃん」
「……オバケ姉ちゃんもおつかれ…………」
お互いの奮闘をたたえる。いや、ホント疲れたわ。
「さて、幼女ちゃん。どーする?」
「…………」
「…………幼女ちゃ………ん?」
これからのことを話し合おうと、幼女ちゃんに振り向けば…………。
「…………」
彼女は絶望したような……まるで倒したラスボスの後に裏ボスが現れたような顔で上を見上げていた。
…………私はゆっくりと視線を上にあげる……。
「おー…………赤ん坊や…………お前ベビーベッドはそこにねぇぞ」
赤ちゃんは……眠りながら淡い光を放ち…………
空中に浮かんでいた…………。
「おわーーー! お前何してんの? なんで浮いてんの! 何処行こうとしてんの!?」
そのままフヨフヨと飛んでいこうとする赤ちゃんを、私は髪の毛を伸ばして捕まえる。
「うわーー! 持ってかれる! 幼女ちゃん! 私浮いてんだけど! 何とかして!」
まさかの赤ちゃん浮力に力負けをした私は、足が地面から離れる。
早くなんとかしろー! こんな魔法みたいなのお前の専門分野だろうが! 早く解いて降ろさんかい!
「……ッ! これ……魔力じゃない……」
幼女ちゃんは目を赤く光らせて、浮かんでいる赤ちゃんを驚愕の目で見る。
魔力じゃない? そーなの!?
いや、あり得るか……この世界の不思議エネルギーって魔力だけじゃないのかも。
幼女ちゃんは私の髪を引っ張って赤子の高度を下げると、赤ちゃんに触れる。
そして懐から『天然コア』を取り出す。天然コアは空中に浮かんで回転し始めた。
光の文字が天然コアの周りを飛び交う。
そして幼女ちゃんの干渉を受けて、赤子はゆっくりとベンチまで降りてきた。
「ふぅ、ようやく降りてきたか……なんなのこの風船赤ちゃん……」
幼女ちゃんは、顎に手を当てて考え込んでいた。そして口を開く。
「……わからない」
分からない? こう言う不思議現象のことで幼女ちゃんがそう言うのは珍しいね……。
「……いちおう抑えたけど……これ、普通の現象じゃない……」
そして幼女ちゃんは、目を閉じる。
「……そもそも、赤ん坊は異能なんて使えない……これは普通じゃない」
「…………」
……思ったより私達……厄介なことに首をつっこんじゃった?
「……だからたぶん、コイツの異能じゃなくて……外部からの影響……」
「それってなに?」
「……ソレが分からない……かなり複雑で解析が追いつかなかった」
「……」
「……すくなくとも……このままほおっておけば……」
「お、おけば?」
「……また勝手に何処かへ飛んでいく……かも」
私は口を引き攣らせてベンチに座り込む……。
「それってさ……幼女ちゃんなら何とかなんの?」
「……わたしがその場にいれば抑えこめる」
私と幼女は、今日何度目かも分からない深いため息を吐いた。
勝手に飛んでいく赤子……
下手したらとんでもないことになるだろう。
少なくとも飛んだ状態で急に落ちたら、ただでは済まない……。
放っておく? 言ってんだろ。
さすがに後味悪いんだって……。
「キミ、浮く現象をなんとか出来ないの?」
「……いまのところなんとも……解析が進めば対処できるとおもうけど……時間がかかる」
……腹括るか……幼女ちゃん、キミも括りな。
「親を探すしかねぇか……」
「……見つかんなかったら?」
「キミがこの風船赤子の能力を解析して……」
「……」
今はキミしか対処できないだろう。けど、キミなら恒久的に抑えこめる方法を見つけられるかもしれない。
そしてその時は……。
「知らん奴に押し付ける!」




