爆弾の方がまだマシ……
人工ダンジョン……
株玉という人工コアによって作られたダンジョンを運営する勢力。
「キシシ、ダメージを負ったダンジョン区画は、株玉からの自浄作用に任せるのが良さそうですね」
その人工ダンジョン勢力の一つ、ウルペースダンジョンの長を務める『キツネ顔』がモニターに映る地図を見てうなる。
「オホホ、他のダン長からの情報も欲しいですわね」
そしてベアリングダンジョンの長を務める『高飛車女』が難しそうに目頭を押さえた。
「「…………ふぅ」」
現在、二つダンジョンは先日の空帝候補『ブリガンド』の無理な侵略の影響で、後始末に追われていた……。
そのせいで二人とも少々お疲れである。
「……今日はこの辺でお開きにしましょう」
「そうですわね。幹部の皆様ご苦労様です。今日は現地解散にしますわ」
二人の班ダン長の解散の指示により、両名の幹部達はパラパラと帰宅の準備に取り掛かる。
二人のダン長も帰ろうとは思っているのだが、なかなかに腰が重い。
そんな二人の前にカップが置かれる……。
「……コーヒーです。帰る前にどうぞ」
幹部の一人であるクイック ウィンテッドこと……『若造』である。
氷の貴公子のような冷たい雰囲気から、行き届いた気配りを繰り出す若造だ。
「あぁ、助かるよクイック君」
「いただきますわ……ウィンテッドさん」
若造の淹れてくれたコーヒーに口をつけ、二人のダン長はホッと一息つく。
「そういえば……聞きましたか?」
「なんの事ですの?」
そのままキツネ顔と高飛車女のダン長ズは、世間話を始める。そんな和やかな雰囲気に、若造は薄く貴公子の口に笑みを浮かべた……。
ようやく、ダンジョンも落ち着いてきましたね。
色々とあったが、今では二つのダンジョンも統合して協力関係にある。
形式上は別々のダンジョンだが、実質一つのダンジョンと言っていいだろう。
もっとも二人のダン長は、落ち着いたら相手にダン長の座を押し付けようとしているようだが……。
それも実に平和なことだ……。
ある意味……あの『お二方』のお陰ですかね?
若造はクスっと笑いながら、自分用に淹れたコーヒーに口をつける。
「この間来ていた造船所のメガロ級飛行船……道中で墜落したらしいですね」
「あらそうですの? 大丈夫かしら?」
「ブッ!! ゲホゲホ!」
若造はダン長達の会話を聞いて、コーヒーを鼻から噴き出す。
「ど、どうしましたクイック君!」
「は、ハンカチですわ!」
「ゲホゲホ! だ、大丈夫です! それより墜落とは何事ですか!?」
「え、えぇ……そう言えば君は小悪魔の二人と懇意でしたね」
「あぁ、ならウィンテッドさんは心配ですわねぇ。あの子達あの飛行船に連れられて行かれたらしいですもの」
痛ましげにする高飛車女の言葉に、若造は口を引き攣らせる……。いや……それって……。
「安心してくださいクイック君。幸い乗組員に怪我人は出なかったようですよ」
…………それ、実は二人ほど足りないんじゃないですか?
「良かったですわね。なら、あの子達も無事ですわよ」
両手を合わせて、まるで自分を励ますようなベアリング班ダン長のセリフに、若造は口を噤んでしまった……。
そして、二人に聞こえないようにボソっと呟いた。
いや、それ……
「墜落させたの『小悪魔』だと思いますよ……」
どうやらメガロ級飛行船は、造船所まで持たなかったらしい……。
そしてダン長達は、未だに小悪魔をただの子供と思っているようだった……。
――――――――――――――――――――――――
どーも私です。
えー普通『造船所』って聞いてどんな所を思い浮かべますか?
こう、港にある工場みたいな物を想像しません?
「私もそうです」
んでですねぇ……いま、『造船所』にいるんですよ。
あぁ、飛行船から脱出したのに、なんで造船所にいるのかって事でしょ?
プロペラ自転車がたどり着いたのが造船所だったんだからしょうがないでしょ!
話戻すよ。
んで想像の造船所と違ったって話なんだよね。
いや、なんとなく造船所が普通の場所じゃないって話は飛行船の中で聞いてたんだけどね。
『浮遊島』……そう、浮いてる島だって聞いてたんだ。
でも実際はちょっと違った……。
プロペラ自転車で空を飛んでいた私たちは、暗くなった前方の水平線に『薄焼き煎餅』みたいなモンを発見したんだ。
そして近づくにつれ、それが地平線へと変わっていった。うん、浮遊島ってより『浮遊大陸』だったわ……。
でけぇの!
そして、ようやくその浮遊大陸についたらさ……。
「思ったより自然がいっぱい……」
造船所なんだからスチームパンクみたいな場所かと思ったらファンタジーだったよ。
『造船所勢力』思ったより規模がでかい!
プロペラ自転車で大陸に乗りつけた場所は、サスペンスラストで犯人が立ってそうな崖だったんだよ。
まぁ整備された公園って感じだったんだけどね。
この時点で、造船所って思ってなかったよね。
そして歩いて『街』までやってきた。
そこでようやく、私達のいる浮遊大陸が『造船所』だって分かったワケだ。
しばらくは、この街で情報収集かなぁ?
どっちに行けば造船所から逃げられるか分からんし……。ほら、私ら造船所勢力の飛行船を墜落させちゃったからさぁ。
「指名手配されてるかもしれん……」
まぁそんなこんなで、夜の街のベンチで座ってんのよね。
「あ〜、足いてぇ」
「……ここが造船所なのはまちがいなさそう……」
「あ、やっぱそうだよねぇ……」
幼女ちゃんが『駅』の看板を見てそう判断する。
まさか造船所とか言っときながら、街を内包した浮遊大陸だとは……。
街なんだから当然、人が住んでるし駅なんていう交通機関もある。
「はぁ、早いところこの浮遊大陸から脱出しようぜ」
「……いまは情報がたりない。さすがにプロペラ自転車で陸地まで飛べないでしょ」
「そーなんだよねぇ〜。今日の寝床どうする?」
「……ん〜」
ずっと自転車漕いでたから、私も幼女ちゃんもお疲れだよ。
「……」
「……」
ベンチに座って二人で無言……もうちっと休憩するかぁ。煌びやかな街の灯りをボーと眺める。
「……」
「……」
「……」
「………………あれ……」
どれだけ夜の街を眺めていたか……唐突に幼女ちゃんが向かいのベンチを指さす。
「ん? どったの?」
「……なんかある」
幼女ちゃんの言葉に、目を凝らして駅前のベンチの下を見ると『バッグ』が置いてあった。
「ん〜……忘れもんかねぇ?」
「……数時間置きっ放し……」
ふ〜ん、辺りをキョロキョロ見渡す。
人通りはあるけど……誰もバッグを気にした様子はない。
しばらくして幼女ちゃんがベンチから立ち上がる。
「見てくんの?」
「……きになる。ちょっと確認してくる」
交番に届けないようですな!
まぁね。私ら警察はマズいから仕方ない仕方ない。
ヤベェ奴らに狙われまくっとりますから、警察も息が掛かってる可能性高いのよ。
幼女ちゃんはトコトコベンチまで歩いて、下のバッグを開けた……。
「……」
「……いいもん入ってた?」
「……」
「……」
ん? どうした?
爆弾でも入ってたとか言わんよな?
幼女ちゃんはバッグを開けたままの姿勢で、ピタリと止まっていた……。
え? 本当に爆弾でも入ってたんじゃねぇだろうな?
やがて幼女ちゃんは、そのままの姿勢で顔だけ私に向けてきた……。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
何その顔……。
完全な『無』の顔してるけど……。
完全な無表情なのに、目だけはギンギンに見開かれている……。
「……」
幼女ちゃんのこんな顔みるの初めてだわ。
え、こわい。
ジィィイイイ…………
ゆっくりとバッグを閉めた彼女は……フラフラと戻ってくると、横に座って無言になる。
「……」
「……」
「………………ねぇ、キミ……何を見た?」
「……………………なにも」
「…………なんかあったよね?」
「……なにも……なかっ……………………」
ここまで言って幼女ちゃんは、まるで机の角に指をぶつけたような顔をして『……あった』と呟く。
「………………」
「………………」
ふぅ〜〜〜〜〜………………。
なんか、あったんだって……。
これ、確認しなきゃダメ?
マジで起動寸前の爆弾だったりする?
私はペタペタ歩いてバッグの前に立つ……。
チラリと振り返れば、幼女ちゃんは明後日の方向を向きながら顔を隠していた。
やっべ、なんかドキドキする……。
私はゆっくりとバッグを開いた。
ジィィイイイ…………
「………………」
………………。
「………………」
………………。
スゥ……スゥ……
「ふぅ〜〜…………」
『赤ちゃん』が入ってる……。
『赤ちゃん』がスゥスゥ寝てる。
「は、はは…………スゥ〜」
おぎゃぁあああああァァアア!!!!
ベェイビー! インッ! ザ! バァーグッ!!




