警戒の鎖
「幼女ちゃん! ここ! この扉オープンぷりーず!」
廊下を猛ダッシュ! からの急ブレーキで厳重そうな扉をバンバン叩いて幼女ちゃんに開門を促す。
「……ぬ。脱出経路はこっち?」
「そそそ、荷物を積み入れる格納庫みたいなところから脱出するよ」
すかさず幼女ちゃんが扉に手を合わせて魔術施錠を解く……。開いた先にあったのは、ここまでの豪華な廊下と違って……飾り気のない階段だ。
うむ、従業員用通路って感じ!
「……ぬん!」
幼女ちゃんが階段を跳躍。
ビタンと踊り場に着地するとゴロンと転がった。
私は階段の手すりに飛び乗ると、ジェットブーツでシュルシュルとレールのように降る。
何段かソレを繰り返して、私達は金属製の通路を格納庫目掛けてひた走る。
そして……。
「ついたー! 格納庫到着! 娘さんサクッと開けちゃってー」
「……ほいさ」
私の言葉に幼女ちゃんが、扉を開けようと両手をつく。
ま、私のスキマでもいーんだけどね。幼女ちゃんが解く方が早いんだよ。ほれ、スキマはコチコチタイム入るから。
この飛行船、魔術施錠だらけだから幼女ちゃんが適任よ。さすがは囚人の護送艦ってだけあるわ。
不思議エネルギー関連の扉なら、幼女ちゃんからしたらバターの板切れよね!
厳重さが仇となったな。まぁこの世界って、物理の鍵は魔術施錠の劣化扱いだからなぁ〜。
「……………………ぬ? あぶね」
「ん? どったの幼女ちゃん」
幼女ちゃんは扉に手をついたまま、首を捻って目を赤く光らせる。
「……この扉……解の巫女用の罠が仕掛けられてる」
「巫女用の罠? なにそれ?」
「……あのメイドモドキ……解の巫女のこと知ってた。扉の鍵を解くと格納庫の接続が外れる信号が行くようになってる」
「……というと?」
「……解くと、この先の格納庫が分離して……おちる」
「ヤベェ罠張ってんじゃん……どいて、時間かかるけど私がやるわ」
スキマなら鍵とか関係ないから大丈夫やろ。
それにしてもボスメイドめ……私達が逃げ出す経路にここを想定していたな?
「……いいよ、問だいない」
「おん? 開けれるの? これアレでしょ、マミィ〜が人工コアに仕込んでたヤツと一緒じゃないの?」
ほれ、人工ダンジョンで最初に見た大株玉……あれは幼女ちゃんいわく、管理者権限を消すと自壊するようになってたって言ってたよね。だから消せなかったって……。
でも幼女ちゃんは首を横に振る……。
「……ちがう。あれは管理者権限じたいが大株玉の構成要素として食い込んでいた……。この格納庫は扉の鍵を消した時点で接続を切る信号が送られるだけ……」
「……つまり?」
「……信号を送るプログラムを、送らないように書き換えればいい」
「……」
キミは当たり前のようにいうね。
…………そうか、キミは
「ワザと解くところだけを見せたね?」
「……うん、メイドモドキは飛行船を細かく分けて、解の巫女を無力化しようとしてた。アイツは最初から解の巫女のこと知ってたんだよ。だから……勘違いをし続けてもらうために『解く』ところだけをワザとみせた」
プシュ……と扉は開いて格納庫に入れるようになった。もちろんだけど格納庫が落ちる様子はない。
「はい、お見事さん」
「……むぃ」
なんつーかさぁ……『解の巫女』って名称さ。警戒心が強いというか、したたかな名前付けたよね。
と言うのもさ、幼女ちゃんと長いこと過ごしてきて流石に私も分かるよねぇ。『解の巫女』というのは『解く』のが本質じゃないんだよ……。
もちろん『解く』のが一番得意なんだと思う。けどね、それはある能力の一部分に過ぎない。
今思えば、最初に幼女ちゃんを誘拐したハリウッドメガネは正しく解の巫女を理解していたんだろうね。
ハリウッドメガネは解の巫女をこう言ってたんだ。
【他者の魔力に干渉できる能力】
そう、魔力を『解く』とは言ってなかったんだ。
じゃないと幼女ちゃんのやってきたことで『解く』だけじゃ説明できないことが多い。
解の巫女とは不思議エネルギーを解いて破壊するクラッシャーじゃないんだよ。
自分以外の不思議エネルギーに干渉して書き換える……ハッカーなんだ。
だから『解く』というのは一要素。
魔力に干渉して書き換えられるなら、壊すのも容易ってことだ。
『解の巫女』という名称は、名称自体がブラフなんだ。
この本当の能力を隠すためのね……。
「よし、幼女ちゃん。この搬入口を開ければ外だよ。飛んでるけど、外にでちまえばこっちのもんだ」
「……ほいきた」
幼女ちゃんが搬入口の扉を解くと、ゴゥ〜ン……という音を立てて、壁が上から外側に向かって開く。
「それじゃ外にでたら…………」
ガチィィ…………
「「………………は?」」
搬入口の扉は……途中で止まってそこから動かなくなってしまった……。
私と幼女ちゃんは上を見上げる。
「…………やられた」
開こうとしていた搬入口は、『鎖』で開かないようになっていた。
まるで家のドアチェーンのように……。
「おいおい、ボスメイドさんよぉ……あんた用心深過ぎだろ……」
アイツまじか……。魔術施錠をしていた扉に……チェーンという『物理的な鍵』を付けてやがった。
私達が逃げ出すことを想定して、そして多分ここ以外の外に繋がる出入り口『全部』に物理的な鍵をつけてたんだろ。
あの鎖、とても子供の力じゃ外せねぇぞ。
……ナメてたわ。
認める。
ボスメイドは私達に対して『化け物』として扱っていたんだ。ナメてたのはボスメイドじゃない……私達だ。
「幼女ちゃん退いて!! 私がスキマを作る!」
幼女ちゃんを押し退けて、少しだけ開いたスキマに手を当てる。
コチコチコチコチ……コチコチコチコチ……
スキマを生成しようと、光る時計が秒針をゆっくりと刻む。クソッ! 時計の進みが遅い。スキマの判定が怪しいんだ!
ヤベェ……これは時間が掛かる。
「…………きた」
幼女ちゃんの短い言葉に後ろを振り向けば、通路から複数の足音がパタパタと聞こえてくる。
追ってきやがった。
どうする? 隠れる?
それともスキマの生成を続ける?
たぶんスキマが間に合わない…………。
「………………」
「………………」
はぁ〜仕方ない。
私は幼女ちゃんを見てニッコリと笑う。
「……え、なに? こわいんだけど」
「んふふ、幼女ちゃんキミさぁ〜」
オメーいつも私にやってんだから、偶にはオメーもやるべきだよな?
「スキマを作り終わるまで『囮』になってこい……」
――――――――――――――――――――――――
「この先だ! 全力で走れ! ……やっぱり全力はやめろ……振動で吐く……」
ボディーガードに建材のように担がれたボスメイドが格納庫へ続く通路で運ばれる。
まだ体は思うように動かない。
こうしている間にも小悪魔の二人は脱出しているかもしれない。
いくつか用意していた罠に掛かっているといいが……。
やがて格納庫の扉が見えた時……。
「いました! 小悪魔の白髪です!」
白髪の解の巫女が、今まさに背後の扉を閉めているところだった。
「ッ! 降ろせ!」
「……きたか」
ボスメイドは白髪の小悪魔と相対する。
「どうやって格納庫の扉を開けた……開けたら格納庫が分離するようにしていたはずだ」
「……」
「まぁいい、大人しく捕ま……」
近寄ろうとしてステーンと前に転ぶボスメイド……。
「……な、なにしてんの?」
「〜〜! キサマの相方のせいだろ!」
エプロンを床に叩きつけ、立ちあがろうとしてまた倒れるボスメイド……。
「……オバケ姉ちゃんになにされたんだよ……」
「ッ! お前ら! 解の巫女を捕まえろ!」
大男二人が白髪幼女に手を伸ばす……。
「さあ化け物め! 今度はどんな手を使って逃げる! いくら逃げても罠は張り巡らせているぞ!」
「捕まえました!」
「……つかまった」
あっさり捕まった白髪幼女に、ボスメイドはおぼつかない足で項垂れた……。なぜ、これだけ逃げ回って抵抗しないのだ……。
「もういや……」
それでも足に力を入れて、格納庫を開く。
格納庫には既に誰もいなかった……。
「解の巫女……長髪小悪魔はどうした?」
「……オバケ姉ちゃんなら、わたしをオトリに先に逃げたよ……はやくヤツの首をとってこい……応援する」
「牢屋から不自然に脱出する長髪小悪魔ならありうるか……本命の解の巫女を逃さなかっただけマシかしら?」
「……」
長髪小悪魔を見逃す呟きをした後、ボスメイドはピタリと動きを止め、ゆっくりと白髪幼女へと向き直った。
「と、言うとでも思ったか?」
「…………おもったけど?」
「私はお前たち小悪魔を見くびらない……長髪は『逃げていない』」
「……」
「逃げたふりをして、この飛行船内に潜伏している……。隙を伺って白髪を取り戻す算段を立てている可能性がある……」
「……おまえスゴイね。本当にわたし達をナメてない……」
ボスメイドはボディーガードに指示を出す。
「解の巫女は牢屋に戻さなくていい! コクピットに連れて行く。船員を全員集めろ。どうせ造船所までは後少しだ。それまで白髪は全員で監視する」
「……おまえ、わたし達に対して過剰に警戒しすぎだよ……」
白髪幼女の言葉に、ボスメイドは目を血走らせて呟いた。
「強制的にジャングルに放り込んで、顔が空から降ってくるような化け物だぞ……何をすれば警戒しないで済むんだ……化け物どもめ……」
「……おまえ割とマジで何されたんだよ……」




