停止する世界
「まぁ、こんなもんかなぁ?」
ボスメイドを視界ジャックして、一応の目的は達したと言ってもいいんじゃないかな?
「脱出経路に、幼女ちゃんの居場所……うむ、この情報はデカいぞ!」
幼女ちゃんと合流して一応の逃げ出す道筋が出来た。
まぁ具体的な方法はボチボチ考えるとして、一歩前進ってところかな?
そろそろ視界ジャックを切ろう……。
「おっと、まだ何かある?」
幼女ちゃんの牢屋を後にしたボスメイドは、すぐ近くの扉をくぐる。
扉の先は、なにやら様子がおかしい……。
「なにこれ? ……地下牢?」
いきなり石造りの階段が現れ、ボスメイドはそれを降る。う〜ん、豪華なフロアとは一転、わざとらしい地下階段だ。
「いや、わざとらしいってか、ワザと作ってんだろうけど……」
なんかエンタメじみた雰囲気だね。
アミューズメントパークのアトラクションかよ。
カツカツと降りた先は、やはりというか粗末な鉄格子の続くザ地下牢だ。
おい……豪華な牢屋の先から、これ見よがしな牢屋が現れやがったぞ。白々しい牢屋とでも言うか……。わざわざ古臭く作ってんのが遊びを感じる。
やがて牢屋の先には、鎖に繋がれた男が座っていた。
『……いい姿ね』
男に向かってボスメイドが冷たく言い放つ……。
おっとぉ……お前いたんだ? まぁ確かに居てもおかしくはないか。
男はボスメイドの言葉にゆっくりと顔を上げると、ニッカリと笑って元気に答える。
『はっは! ヴィジーちゃん、なんでオジサン繋がれてんの?』
『聞きたい? 単純に嫌いだからだよブリガンド』
お前『ピンク船長』じゃん。
人工ダンジョンでは、散々引っ掻き回して乗っ取りを企てたピンクの制服を着たオッサンだね。
「結局巫女さんの攻撃に巻き込まれて、ボロ雑巾になってたけど、この飛行船に回収されてたんだ」
『はっは、若い子から嫌われるのはオジサンとしては傷つくね〜』
『感謝してほしいわね。わざわざ連れてきてやったんだから……』
『あ〜はいはい、感謝してるしてる』
ふむ、ボスメイドとはどういった関係なのかね?
どっちが上司とかあんのかね? 会話的には同僚って感じだけど。
『というかさヴィジーちゃん、お前なにそのイカれた格好……なんでメイド服なんて着てんのさ?』
『……』
ピンクのイカれた制服着たヤツがなんか言ってる。
『はっは、相変わらずチマチマ小賢しいことやってんでしょ。ビビりだねえ〜』
立場は同じくらいって感じ?
『あんたが『小悪魔勢力』を捕獲したって言ったから、わざわざ護送艦を持ってきたのに言うわね』
『はっは、そうだっけ? 空創様に悪いことしちゃったねえ』
空創? 確かピンク船長は空帝候補だったよね。
似たようなもんか?
『ブリガンド……アンタ小悪魔捕獲の功績で空創の立場も狙ってたわね? 相変わらず脳筋のクセして野心家ね』
『まあね〜……小悪魔を捕獲すればイケるかな〜ってオジサン思ったワケよ』
『まぁクロックシティーの守神、亀様とイタチ様の依頼だからね。功績で立場を貰えるかもね』
……はい〜、サラッと重要情報出てきましたわ。
亀様にイタチ様ね……。
それが私達を探してるヤツらってことなんだろうけど……。
「聞いたことあるねぇ……」
一回だけ会ったことあるわ。
ソレってアレだろ……ハイテンション町長といた『爺さん』と『ヒョロ長女』。
この世界には化け物みたいな強さを持った人間が居るけどさ……完全に人間じゃない化け物もいるよね。
遊園地のドレス女と亀とイタチ……。
コイツらは化け物が人間のフリをしてるって感じだよね。
そして亀とイタチとやらは、ドレス女を『ヘビ』と呼んで嫌っているらしい……。
「そして私達のこともなんか嫌いらしいよ」
なんでも幼女ちゃんがヘビ臭いんだって。
まぁドレス女の事だろうよ。
動物って鼻が良さそうだもんね。畜生コンビと呼んでやろう。
「私達を探してんのってアイツらかぁ」
もしかして町長の敵討ちかな?
私達が町長を失脚させたから怒ってんのかね。
まぁとにかく……。
「ますます引き渡されるワケにはいかんなぁ……」
どう考えても私達に悪感情を持ってる畜生コンビだもんね。しかも間違いなく神様じみた化け物ときた……。
うんうん、早いところ逃げ出そうね。
『安心しなさい。アンタにも小悪魔捕獲の功績はわけてやる。もともと私と共同のつもりだったんでしょ』
『はっは、嬉しいねぇ』
そう言う事かぁ。
ボスメイドの目的は私達小悪魔を捕獲した功績が欲しかったんだね。
意外に情報が集まったぞ。
『でもオジサンはいいや。辞退するわ』
『…………どういうこと?』
ピンク船長が笑って答えると、ボスメイドは怪訝な声を出す。おん? どうした?
『どうもこうもないよ。小悪魔捕獲の功績さ。ヴィジーちゃん一人で捕まえたことにしていいよ』
『……何を考えている。野心家のお前らしくないわね』
あ、コイツ……
『オジサンねえ……小悪魔から手を引くわ』
『……』
『教会の祈りの巫女ってヤベぇわ……あんなもんに認識されてる小悪魔に手を出す気はないね』
巫女さんに認識もされず巻き込まれ事故されて、心が折れてやがる……。
『よく分かったよ……アレらはもう『違う』。野心もへったくれもない。そして『小悪魔』もね』
いや私達も混ぜんなや。お前に何もしてねぇだろ。
『ビビるよね? オジサンのダンジョン、意味不明に奪われちゃったんだよ。意味わからなくない?』
それはゴメン! そうだったわ!
『だからね。小悪魔捕獲はヴィジーちゃんの功績でいいよ』
『……』
『慎重なヴィジーちゃんのことだ。言わなくても分かってるだろうけど小悪魔に気をつけなよ。アレらは俺たちと違う存在だよ』
『…………分かってるつもりよ。私は小悪魔を見くびらないわ』
沈んだ声のピンク船長に、ボスメイドも神妙な声で答えた。いかんなぁ〜、また無駄に警戒心をあげちゃってるよ。
これ以上、脱出の難易度あげんの勘弁してくれ。
『そうかい……あ、造船所に着いたら解放してね。次のレース見に行きたいんだよ!』
『脳筋なんだからギャンブル向いてないわよ……』
気持ちを切り替えるように明るくなるピンク船長に、ボスメイドは呆れたように答えた。
「よし、もういいや。視界ジャック解除」
私はベッドの上で目を開ける。
これだけ情報があれば十分だろ。
「さぁて、あんまり時間もねぇな……」
このクロックシティーの守神とかいう、亀ジジイとイタチ女に引き渡されるワケにはいかん。
ハッキリ言って小細工が通じるとも思えん。
少なくとも、遊園地のドレス女と同じような化け物だろうからね。
私は壁を透過するボタンを押して外を確認する。
どうやらすでに離陸したようで、海に見える湖が広がっている。
このままだと、造船所とやらに連れてかれちゃうな。
浮遊島とかいうのは気になるけど、畜生コンビに捕まりたくねぇしな。
外に見える雄大な湖は、まるで止まっているかのように広大だ。
でも飛行船は刻一刻と間違いなく造船所に向かっているのだろう。タイムリミットが近い……。
「ふふ、外の景色は止まってるみたいに見えるのにね…………というかさ……」
止まってね?
「…………」
私は透明の壁にペチと両手を突いて、外をマジマジと眺める。
うん、飛行船から海のような湖を眺めてると分かりづらいんだけどさ……何も動いてない……。
いや、飛行船が停止してるとかのレベルじゃなくてね……。
「……鳥も止まってる」
雲も止まってる……。
おそらく風も……。
湖の水も……何もかも……。
「時間が止まってる……」
私は一つ深呼吸をして、バッと後ろを振り向いた……。
「…………あ、お久しぶりっス」
「おう」
ヤンキーが立ってた……。
この世界に私を放り込んだ、ヤンキー神ですな。
あ、はい。
こんなことできんのアンタでしょうね。




