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手洗いはしっかりしよう!


「う〜む、眠っちゃいそうなんだけど……」


 いやね、視界ジャックの能力って動けないからさぁ、ベッドで横になって目を瞑りながら使用してるんだけどね。この体勢って気を抜くと眠りそうだわ……。


 いかんいかん、今は情報収集中なんだから寝たら台無しだよね。


「流石に二度目はねぇだろうからなぁ……」


 なにせボスメイドの警戒加減が跳ね上がってる。よほど私に、子泣きジジイならぬ子泣き幼女されたのが不気味だったらしい。


「まぁその予想は正しいんだけどさ」


 明確に私は『視界ジャック』という能力を仕込んだワケだしな。


 ボスメイドは検査で、私からの呪いや干渉がなかったことに安心はしてないっぽい。検査で出てなくとも私が何かをしたと疑ってるんだ。

 大した警戒心だね。しかもちゃんと正しいときた。


 そもそも私の能力って、この世界由来じゃないから普通は引っ掛かるわけねぇんだよ。魔力を調べるとかだったら、魔力なんて使ってねぇから反応はねぇはずだし。


 それでも警戒してるんだから大したもんだ。


 

 カツカツと赤い絨毯の廊下を歩く映像が、目を閉じた視界に映し出される。おっと移動だね。

 今度は何処かなぁ〜?


 あ、ちょっと待ってエレベーターを使うのはやめて下さい! 道順が分からなくなるから!

 よぉ〜しよぉ〜しいいぞぉ、階段を使ってくれたね。


 エレベーターの階数を覚えれば良いだろって? 無理だよ私、数字も読めんし。


 ん〜、豪華だけど作り自体は単純だな。船内は広いけど直線が多い。エレベーターさえ使わなければ通路を覚えるのは難しくないだろ。


「それにしても……人がいねぇな……」


 ボスメイドの視界を覗いてるけど、誰ともすれ違わない。

 無個性メイドの話を信じるなら、この飛行船には20人位しか乗ってないらしい。

 けどこのピンクの飛行船ってそんな規模じゃねぇのよ。


 ぱっと見、飛行船ってより空飛ぶ施設といった方がいいくらいの大きさなんだ。全長は数百メートルくらいあんのかな? これ元の世界じゃ完全に不可能な技術でできてるよ。

 そりゃ人とすれ違わないのも不思議じゃないね。

 

 メイドさんにコックさんを除くと、乗組員は数名ってことになる。数人でこの大きさの飛行船を運行できるんだったらビックリだね。

 なんなら無駄に大きくない? それをガキ二人の護送に使うんだから『造船所勢力』の規模がヤバい。


「おっと、ボスメイドの目的地はここかな?」


 やがてボスメイドは格納庫のような場所に到着していた。そして、ボスメイドの操作で格納庫の壁が開く……。


「なるほど……ボスメイドが牢屋の壁を消したワケだよ……」


 いつの間にか飛行船は着陸していたらしい。

 トラックで外から格納庫に、荷物が運び込まれている。

 壁を消して外を見えなくしたのは、着陸してたのを私達に知られて行動を起こされるのを恐れたんだね。


「そういや無個性メイドが言ってたっけな? 造船所に向かう前に一度着陸するって」

 

 まぁ、地面に着いていたところで、脱出の目処は立ってないから動けないんだけどね。

 ボスメイドからしたら知ったこっちゃないか……。脱走の危険を少しでも下げたかったってところだろ。


「でもこの格納庫の情報は使えるねぇ」


 明確に外に繋がってる場所だ。

 脱出する場合はココから出るのが良いかもね。


『本当にここで降りるのか?』


 視界の先のボスメイドがそう呟いて振り返る。


「あれ? 無個性メイドじゃん。なんか様子がおかしいね」


 無個性メイドは、顔色悪く自分の爪を噛んで、背中を丸めている……。


『……』

『だんまりか……もう一度聞くが、何があった? お前は解の巫女の牢屋で何を見た』


『ッ……』


 ボスメイドの質問に、ガタガタと体を震わせうつむく無個性メイド。いや、もうメイド服は脱いでんだけどね。


『……もういい。ボクはここで降りる……小悪魔からは手を引かせてもらうヨ』

『……』


 挙動不審な無個性メイドは、ボスメイドから目を逸らしながら格納庫から歩み去っていく。


『……違約金は払ウ……すまないネ』

『道化師……お前は解の巫女に何をされた……』


 えらい無個性メイドの様子がおかしくなってんね……。不気味な登場したクセに、今は見る影もなくヤツれてんですけど。

 幼女ちゃんいったい何したん?


「あの子、わりと容赦ねぇからなぁ……」


 まず間違いなく幼女ちゃんに何かされて、無個性メイドの心を折っちゃったんだろうね。


『……お前モ、『小悪魔』から手を引くことをオススメするヨ。あれハ、手を出していい存在じゃなイ……』

『……』


 そう言って無個性メイドは、飛行船から去っていった。

 その背中をボスメイドは見送る。


「いや、ゴクリ……じゃねぇよ。無駄に緊張感出してんじゃねぇし……。知らんところでボスメイドの警戒心が上がってんじゃねぇか」


 やがてボスメイドは格納庫を後にして、また通路を足早に進む。


「おっと、私の牢屋があるフロアに戻ってきたようだね」


 無駄に豪華な通路フロアだ。

 けど、ボスメイドの進行方向は私の牢屋の方じゃないね。

 やがて、二人のボディーガードが立っている扉にたどり着いた。


「お、ここはもしや……幼女ちゃんの収容されている牢屋か?」


 ラッキー! 遂に幼女ちゃんの居場所を見つけたぞ!


 離れてるけど、私の牢屋とは地続きで一直線の場所だね。分かりやすくて助かる。

 おそらく、この豪華なフロア自体がVIP牢屋のフロアなんだろうね。


「なんにせよ、幼女ちゃんの場所が分かったのはデカい。あとは抜け出した後、合流して飛行船から脱出するのみだね」


 そんな事を思いながら、視界ジャックの映像を見続けると、ボスメイドは幼女ちゃんの牢屋へと入室する。

 牢屋の中の幼女ちゃんは、椅子に座って紅茶を飲みながら本を優雅に読んでいた。


「コイツだいぶ太々しいな……自分の状況分かってんのか?」


 お前一応、牢屋に入れられた囚人だからね?

 いやまぁ、今更幼女ちゃんが牢屋に入れられたくらいでワタワタするような精神はしてねぇか……。

 でも、もうちょっと不安そうにしてる方が可愛げあると思うよ私。

 言われたくないだろうけど、だいぶ可愛くないよキミ。


『先ほど道化師が船を降りた……』

『…………そぅ』


 ボスメイドの一言に、幼女ちゃんは興味も無さそうに本から目を離さずに答える。

 というかボスメイド、幼女ちゃんには猫被ってないんだね……。

 すでに幼女ちゃんに看破された後の状態なワケね。


『道化師と何があった? 何をしたら道化師をアレほど怯えさせる……』

『……本当になにもしてないよ……わたしはね……』


 嘘つけ……じゃなきゃ無個性メイドがあんなに怯えるワケねぇだろ……怖いわぁこの子。

 

 このやりとりは何度もやったことなのだろう。幼女ちゃんの言葉にボスメイドは黙り込む。

 ふむ、ボスメイドは随分と幼女ちゃんに緊張してるようだね。無駄に警戒させんなよ。やり辛くなるから。


『やはり、答える気はないか……』

『……なんども答えてるよ。わたしは何もしていない……お前はわたしを大きくみすぎてる』


 幼女ちゃんの言葉に、ボスメイドの顔が歪むのが分かった。


『ッ……大きく見過ぎ? ふざけるな……どれほど警戒しても足りないわ』

『……もぅかってにすれば? こっちは無力な子供だよ』


 そうそう、幼女ちゃんはよく分かってるね。私達は無力なんだから警戒心は持たなきゃね。

 逆にボスメイドは警戒心を捨ててくれや。


『今更ね……知っているわよ。あなた達小悪魔は、解の巫女の能力以外に……別の異能を隠している……』

『……』


 ボスメイドの言葉に興味をもったのか、幼女ちゃんが視線を向けてきた。

 ほう? 解の巫女以外に何か能力を持ってると……私も気になるねぇ。なんでそう思ったんだい?


『それは……『物を隠す異能』』

『……』


『お前か長髪の方かは知らないけどね。間違いなくその異能を隠しているはず……』

『……』


 おっと、これはもしかして……私の『スキマの能力』を言っているのかな? 確かにアレは物を隠す能力といってもいいかもね。


『持っているはずなのよ……だってお前達は『天然コア』を所持しているはずだから……』


 なるほどね。私達が天然コアを持っているはずなのに、持ち物検査で出てこなかったから『隠す能力』だと思ってるんだ。

 ここは正解と言っていいね。


『もしくは、物を隠す『遺物』を持っているとかね……どうかしら?』

『……』


 ボスメイドの視線が幼女ちゃんの首に向かう。

 そしてカツカツと幼女ちゃんに歩み寄ると、手を伸ばしてソレを掴んだ。


『怪しいのはコレね』

『……』


 ソレは、幼女ちゃんが身につけているネックレス。


『不自然なほど持ち物を持っていない小悪魔の中でも、一際違和感のある持ち物よね?』

『……どうだろうね?』


 あちゃ〜……残念!

 ボスメイドさん、惜しいです!


 それ『悪魔のネックレス』ですな!

 コインに悪魔の顔がレリーフされている、幼女ちゃんの数少ない持ち物。

 というか私が彼女にプレゼントした物だね。


 いや〜本当に惜しいよボスメイドさん。

 それね、物を隠す能力のあるネックレスじゃなくて、お前が怪しんでいる能力の『合鍵』だ。

 私が居なくても幼女ちゃんがスキマに入れるようにする為のネックレスなんだよ。

 お互いが単独行動をする為に作ったスキマの合鍵なんだね。


『ッ……取り引きをしないかしら? 小悪魔……』


 ボスメイドは弾かれるように、幼女ちゃんからネックレスを毟り取って距離を取る。

 そしてネックレスを見せつけるようにして、取り引きを持ちかけた。


『天然コアを渡す気はないか? 代わりに……お前達を逃してやる』

『……』


『もちろん向こうに引き渡してからだ。その後に逃す手伝いをしてやる……どうだ?』


 話にならんね……。

 それをお前が守る保証がなさ過ぎる。

 なんだよ引き渡した後って……最悪、天然コアを渡して逃がす手伝いもしない可能性があるだろ?


 まぁアレだね。

 ボスメイドは『だから逃げないでくんない?』って言ってんだろうよ。


「ちょっと見えてきた……」


 おそらく、ボスメイドの最優先目標は『私達を誰かに引き渡す事』たぶんこれが譲れない事かね?

 その過程で天然コアも奪えればラッキーと思ってんのかな?


 天然コアが第一目標なら、交渉はこうなるはずだ……『天然コアを渡す代わりに今すぐ逃す』。けどそう言わなかったってことは、やっぱり引き渡すのが目的なんだね。

 ――ォォォ……ォォォオオオオォォォオ……

 後で逃がすと言うことで、少しでも私達が逃げる選択を取らないようにしたかったのか。

 自分が逃したという結果が嫌なんだね。

 つまり、私達を連れていったことによる報酬が目的なんだ。

 ――ウォォォオオオオォォォ……


 う、うん。もういいかな?

 えっとね、なんか悪魔のネックレスがうるさい……。


 悪魔コインにレリーフされた顔が、苦しそうな声で唸り声を上げている。


『………………え?』

『……うわでた』


 苦しみに憎悪のような表情を浮かべた悪魔のコインは、ボスメイドの手のひらで血の涙を流す。


 あ〜これ……アレですねぇ……。

 その悪魔のネックレスってさ、幼女ちゃんから五メートル以上離れると自動消滅するように設定されてんのね。


 んでボスメイドがネックレスを毟り取って距離を取ったから、その範囲外に出ちゃったと……。

 ――ウォォォオオオオォォォ!!


 悪魔のコインは一際唸り声を上げた後に、ドロリと黒いスライムのように溶けてボスメイドの手から溶け落ちた……。

 指の間からポタポタと落ちる黒い液体は、床に落ちる前に粒子となって消え去る……。


『………………』


 うわぁ……キモい……。

 ボスメイド視点だから分からないけど、どんな表情してんだろうね……。


 やがて悪魔のネックレスは手から完全になくなる。

 そして幼女ちゃんは、迷った末にボソリと呟いた……。


『……えと……取ってくれてありがとう?』


 うん、あのキモい消滅演出見たらそう言いたい気持ちは分かるけどね……。

 なんか『呪いを肩代わりしてくれてありがとう』って言ってるみたいだからやめようね。


 その後ボスメイドはメッチャ手を洗ってた……。


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― 新着の感想 ―
警戒レベルは正しいけどベクトルが間違ってるからね〜 まぁ、お化け姉ちゃんを正しく理解しろってのが無理な話しだしね、直接会っても理解出来ないのに伝聞だけじゃ出来る筈もない…
どんどんボスメイドの威厳が低まっていく
ボスメイドからしたら正体不明過ぎて恐怖しかない…。
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