視界ジャックの能力
「えへへぇ……メイドさ〜ん」
「あらあらぁ……甘えんぼさんですねぇ」
困った顔で掃除をするボスメイド。
そんなボスメイドの背中にオンブされるのは……はい、どーも私です。
ひぇ、鳥肌が立つんだけど!
部屋の床に掃除機のような機械を転がすボスメイドに、ベッドから元気よく飛び乗った私……。『キャッ』という悲鳴を上げながらも、えへえへと無垢な笑みを浮かべる私に、ボスメイドは苦笑して仕事を続ける。
「もぉ、長髪様ったら。掃除中ですからねぇ。危ないから降りてくださいよぉ」
「えへへぇ……もうちょっと」
「仕方ないですねぇ。もうちょっとですよぉ」
「うん、もうちょっと……」
もうちょっとで『制限』クリアするから待ってろ。
いひぃ〜! 気持ち悪りぃ!
あ、よく見たらボスメイドの首筋にも鳥肌立ってんじゃん……。どうやら私達、気持ちは同じようですな。
でも、お前は無理やり引き離すこと出来ねぇよなぁ? 一応私に本性を隠してるつもりだからね。
5 4 3 2…………オッケークリア!
私はボスメイドの背中から飛び降りて床に着地すると、ベッドに飛び乗って寝転んだ。
「あらぁ〜、もういいんですか長髪様」
「うん、これ以上お仕事の邪魔しちゃいけないかな〜って思ったんスよぉ。……飽きたし」
「……偉いですねぇ」
お、今イラっとしたか?
「お掃除終わりましたぁ。私はこれからちょっと忙しいので、ご用のときは別のメイドがお相手しますねぇ」
「うぃ〜ッス、お仕事お疲れ様です」
ほう……忙しいねぇ?
そう言ってボスメイドは牢屋から出て行った。その際に、さりげなく壁の透過を消して外を見えなくする。
うん? なんか外を見せたくねぇのか?
「……」
ボスメイドの出て行った牢屋内で、私はベッドに横になりながら目をつぶる。
「さて、そんじゃ試してみましょうかね……『視界ジャック!』」
目を閉じた視界に赤い絨毯の敷かれた廊下が映る。
「よしよし、成功のようだね……」
分かると思うけど、この視界は先ほどまでいた『ボスメイド』の視界だ。
『視界ジャックの能力』……つまりこの能力は、対象の視界を覗き見ることのできる能力だね。
「これで外の情報が、限定的だけど得られるわ……」
カエリミチのゲームであった能力だから分かりやすいでしょ? でもね、この能力ってゲーム通りの性能にすると、だいぶゲームリソースが足りなかったんだ。
だから、かなりキツイ『制限』を設けることになっちゃった。
【制限】 視界ジャックを行う対象に『五分間』接触し続ける必要がある。
はいこれ、私がボスメイドの背中に引っ付いてオンブされてたのはこのためだね。戯れるフリして五分の制限をクリアしたんだよ。
連続で五分間だから大変だったよ。途中で離れちゃうと最初からだからね。
もちろんボスメイドも、私の行動に警戒はしていたんだろうし、嫌悪感を感じて鳥肌が立っていたことも知っている。
「でもお前は、無理にその行動を止めることができない……」
なぜならお前は、私がボスだと気づいていないと思っているから。だから、お前は受け入れなくちゃいけなかった。
優しいドジっ子メイドを演じなきゃいけねぇんだもんなぁ?
仕事中だからって振り解こうとしていたけど……そうは行くかよ。こっちだって嫌なのにお前に引っ付いていたんだからな!
嫌ならなんでそんな制限にしたん? って話だけど……
「ま、フィーリングだね……」
ゲーム能力に付ける制限ってさ、私が自分で考えて設ける場合と、なんとなく浮かんだ制限があるんだよ。
「今回のひっつき虫みてぇなのは後者だね」
やりたくないけど、こんな制限なら効率のいい制限になると感じたからだよ。じゃなきゃこんなキモい制限なんて付けんわ……。
「あとは有効射程……」
【制限】 視界ジャックの対象となった場合、二日ほどで効果が切れる。永遠にジャックし放題だったら完全にリソース不足だ。だから二日ってところ。
【制限】 対象が離れすぎると視界ジャックが不可能。
ま、ここら辺は当たり前だね。
【制限】 視界ジャック中は動けない。
「制限キッつい!」
……この能力、妙に制限キツイと思わない?
似たような能力の『監視カメラの能力』と比べると分かると思うんだけどさ。
制限の割に恩恵が少ないでしょ? ましてや視界ジャックの能力なんてゲームに添った能力なんだからリソースだって余裕があるように見える。
「でもダメなんだよなぁ……」
『視界ジャックの能力』と『監視カメラの能力』……違いは何だと思う? それはね……
「『他者』を介在していること……」
これが引っかかってんだよ。
この視界ジャックの能力は、明確にボスメイドという他者を媒体とした能力だ。
そうなると難易度がグッと高くなるんだよ。
イメージで言うと、ボスメイドの視界を同意なく強制的に覗くというのは、ボスメイドの抵抗が入ると思って貰えばいい。
他者を介在する前提で作った能力は、それだけ制限を付けなければ成立しないっぽいんだよね。
「たぶんこれ……私の『ゲーム能力』の性質な感じがすんな」
私の能力って、実は私一人で完結する能力が多いんだよね。
ほら『ジェットブーツ』や『霧化』『飛ぶ能力』に『髪の毛を操る能力』。自分をどうにかする能力が多いでしょ。
『他者に擬態する能力』ですら、結局は自分が対象だしね。
「領域畑は別っぽいんだけどなぁ……」
おそらく領域畑は『ゲームの能力』と別のエネルギーを使ってるからだと思われる。
強制的に他者をどうこうするのがダメなのか?
「もしかして、私に異常なほど攻撃力がないのって関係あるかな?」
まぁ深く探る気もないからいいけど、そんな感じ。
「さて、どうかな?」
豪奢な廊下を歩くボスメイド……カツカツと歩くその視界が妙に速足になる……。どんどん速くなるその速度はもうダッシュに近い。
え? ゴージャスな通路を爆速するメイドって違和感あんだろ……いったいどうした?
やがてバンと両開きの扉を開けたボスメイド。ここは……
「厨房?」
中で調理をしていたコックさん二人が目を丸くしている。
『め、メイドさん。どうしました? 料理に何か不備でもありましたか?』
ふむ、コックさんはこのメイドがボスだと知らないっぽいね。
『……』
ボスメイドは無言で洗い場までカツカツと歩くと、水道を全開にして…………首を洗い出したっぽい。
「何してんのコイツ……」
そう思ったのは私だけじゃなかったらしい。
『ど、どうしたんですか!? ここは食器の洗い場ですよ!』
『………………失礼しましたぁ。ちょっと汚れが着いちゃいましてぇ』
「私のことか!?」
私のことだろうねぇ! 奇遇だな! 私もバシャバシャ洗いたいもん! 私の前でやらなかったのは褒めてやるけどな! 失礼ではあるからな!
そのままボスメイドは厨房を出て、別の場所へ。
そして着いた場所は、う〜ん……医務室?
『どうした? 怪我か?』
『検査して欲しいのよ』
医者っぽい人に言われてそう答えるボスメイド。
ボスメイドが猫をかぶってないところを見るに、この医者はボスメイドの正体を知ってるのかな?
『小悪魔の一人に……不自然に接触されたわ。呪いか何かを仕込まれた可能性がある……』
ねぇよ……私を何だと思ってんだ……。
『あのゴミガキ共が……悍ましい……』
あ、ゴミだと思ってるらしいです、はい。
だったら早いところゴミ出ししてくれませんかねぇ?
えらい嫌われようだけど、もしかして幼女ちゃん何かした?
『調べてみよう……そこに入れ』
ボスメイドは日焼けマシーンのような機械に入って、検査される。
『ちゃんとした機材を使わないと分からんが、呪いはないようだな』
『……正確なの?』
『少なくとも反応はない……隠蔽できるほどの呪いなら個人ですぐに掛けられる物でもないだろう。接触されただけだろう?』
『…………』
視界ジャックは見破れないようで良かったよ……。
にしても……
『……念の為にもう一回検査してくれない?』
『一緒だよ』
一応ね、言っとくけど……
「お互い様だからな!?」
私のことバイ菌みたいに扱うのやめろよ! 普通に傷つくわ!




