子供がグレるのってこういうところから
どーも私です。
大変豪華なお部屋で非常に快適なのですが……そろそろ本格的にお暇を頂こうと考えております。
と言うのもですねぇ……
「見てください長髪様。ナイン区域に入りましたよ」
無個性メイドが壁を透過させ外を見せてくる。
ついに別区域までやってきちゃったからですねぇ!
ナイン区域かぁ……。
オクトー区域、セッテ区域を経て、三つ目のナイン区域だねぇ。クロックシティーという大きな街を、遊び尽くす勢いだよ……。
んで問題のナイン区域だよ。
「海……ッスねぇ」
「ふふ、違いますよ。これは『湖』です」
え? マジ?
透過された壁から見えるのは、一面に広がる水平線……。
「見間違えるのも無理ありませんね。ここはクロックシティー最大の湖『龍の胃袋』です。大昔に邪悪な龍が大地を一飲みにして出来上がったと言われている湖ですね」
無個性メイドはツアーガイドのように説明をしてくる。
……時間があまりねぇな。
少し強引だが、無個性メイドから情報をむしり取るか。ボスメイドと違って、この無個性メイドは情報をくれるからな。
「ちなみに、今から連行される『造船所』とやらは湖の畔にあるんスかね?」
「あはは、違いますよ。造船所があるのは岸ではありません。湖の中央ですよ」
「ん〜……船みたいになってると?」
「船というより『島』ですね。浮遊島といった感じです」
おぅ、浮遊島なんてファンタジーぽいもん出てくるじゃん。ダンジョンの時点で今更か!
ちょっと楽しみではあるけど、流石に指を咥えて待つ気はねぇな。
「それは……楽しみッスねぇ。どのくらいで到着しますか?」
「う〜ん、私にはちょっと分からないですね。あ、でも途中で一度着陸して荷物を積む予定があるそうなので、真っ直ぐに向かうワケではないようですよ」
ほう? 一度着陸すんのか。
ワンチャンここで逃げられ……いや、流石に時間がないか? ここら辺でなにか手を考えないとな。
「そうですかぁ……それじゃあ造船所までヨロシクお願いしますね!」
「……」
私の言葉に無個性メイドが薄く目を開いて、少し『笑った』気がした……。おっと、コイツ普通に喋るから忘れがちだけど、中身はピエロの仮面を被った敵側だからな。
やがて無個性メイドは、少しだけ見せた本性を仕舞い込むと頭を下げる。
「ふふ、残念ですが。私が長髪様のお世話をするのは、最後でしょうね?」
「……それってどういうこってす?」
『アナタはここで死ぬのですから』とでも言いそうなんだけど。違うよね?
「それでハ……」
無個性メイドは私の問いに答えずに、部屋を出ていく。そして最後に目線だけを私に向けて、隠しきれなくなった本性をニチャリと顔に浮かべた。
「よい旅路ヲ……」
「……」
私は無個性メイドが消えて行った扉を眺めながら、ため息をついてベッドに飛び込む。
「新しいゲームを探します!」
分かった! 時間が本当にねぇです!
――――――――――――――――――――――――
「うふふフ……」
無個性メイドは、赤い絨毯の敷いてある豪華な廊下を歩きながら笑う。
やがて、ある扉の前までやってきた。
扉の前には二人のボディーガードが立っている。
……ここは、解の巫女である『白髪』が収容されている牢屋だ。ボディーガードを通り抜け通路を進む。
「……どうしましたぁ? アナタは長髪の方の担当でしたよねぇ?」
メイド部屋に入ってきた無個性メイドに、部屋の中にいたボスメイドが首を傾げる。
「いえいエ、準備が整ったのでネ」
無個性メイドは、特徴のない顔に不気味な笑みを浮かべる。その言葉にボスメイドの目が細められ、雰囲気が鋭いものへと変わった。
「道化師……お前に依頼したのは小悪魔に対する情報収集だったわよね? キサマ最初から解の巫女の方を狙っていたな……」
「うふフ……そうですヨ。情報を得られるなラ、『長髪』だろうが『白髪』だろうが変わらないでしょウ?」
「……わざわざ面倒な方を選択するなんて、理解できないわね」
「興味があったのですヨォ……果たしテ、『解の巫女』と『道化師』……どちらの異能が上なのカ」
ボスメイドは呆れたような顔をして立ち上がる。
その顔は、いつものドジっ子の表情に戻っていた。
「それじゃあ私はお部屋を出ておきますねぇ」
「感謝しまス」
ボスメイドはメイド部屋から出ていき、部屋には無個性メイドだけが取り残された……。
「ふふ、数日練り上げた異能の出番ですネ。短時間ですが……それだけあればタヤスイ……」
グニャリと無個性メイドの輪郭が歪む……。
『道化師』……外部から雇われたこの人物には、ある希少な異能を高レベルで行使できる技術があった。
バサリと髪が伸びる……。
無個性メイドの輪郭が徐々に縮小していく……。
やがて……『子供』ほどに縮んだソレは……ニィイイと笑みを浮かべた……。
「うひひ、こんなもんッスかねぇ?」
小さく縮んだ両手をニギニギと握りしめ、長髪に変わった髪の毛をバサリと翻す。
無個性メイドは……『長髪の幼女』へと姿を変えていた。
「いやぁ〜、こんだけ体積が小さいと変貌も大変ッスわ! 短時間で終わらせないといけないからね!」
『変貌』……道化師が終わらぬ恐怖とまで言われた異能の正体。
『他者に擬態する能力』だ。
他者を騙し身内のフリをする恐ろしい異能。
数日かけ体内で術式を練り短時間の変装を可能するこの能力は、体の体積すら誤魔化す。
道化師は、最初から情報を得るのは解の巫女の方に絞っていた。長髪のほうに着いて会話をしていたのは、長髪の会話のクセや喋り方を知るためである。
だから長髪の方からは情報を引き出す会話をしなかったのだ……。
「さぁ、覚悟はいいかな? ……幼女ちゃん」
ニィイイと笑って牢屋の扉を開く。シュっと開いた扉を潜って牢屋を見渡すと……いた。
椅子に座って暇つぶしの本を読んでいる解の巫女だ。
「いや〜大変だったよ! 今日からこっちに入れってさ!」
道化師は元気よく長髪を演じる。
「……」
椅子に座った解の巫女は、目線だけをわずかに向けると興味をなくしたように本へと視線を戻した。
意外に淡白な反応だが、これが本来の二人の関係なのかもしれない。
それとも……『解の巫女』とは変貌すらも見破れる異能なのか? ……だったら興味深い。
「これから何処に連れてかれるんだろうねぇ? 幼女ちゃんなんか聞いてる?」
道化師はベッドに飛び乗って横になると、肘をついて解の巫女へと向き直った。
白髪幼女はチラリとまた目線をやると、口を開く。
「……造船所でしょ。何言ってんの?」
「ありゃ、そっちももう聞いてたか。どんくらい掛かるんだろうねぇ?」
なるべく性格や喋り方を長髪へと似せる。
どうだ? 解の巫女は自分の変貌を見破ることができるか?
「ねぇ幼女ちゃん、アレもう見つかった? 『天然コア』」
「……」
白髪幼女の顔が、ベッドに寝ている自分に向けられる。眉間に皺を寄せ、なんとも言いづらそうな顔で口を開く……。
「……もしかしてソレ……オバケ姉ちゃんのつもり?」
「……………………すばらしイ……」
自然と口が笑みの形を取ってしまう……。
これほど簡単に見破られたのは初めてだ……。
「素晴らしいよ幼女ちゃん! 教えてくれないかな!?」
上体を起こし、ベットにアグラを組むと興味を抑えきれずに白髪幼女へと疑問を投げかける。
「なんで分かったんだい? 喋り方? それとも解の巫女の『目』かな?」
「……」
「ふふふフふフ! それともアレかな? 友情の前にニセモノなんて滑稽だったかなぁ?」
「……はぁ」
「まさか一目で見破られるなんてねぇ! 楽しいよ! 『終わらぬ恐怖』と言われた私の異能に対して『変身しているつもりか?』なんて煽ってくる始末!」
「……お前なにいってんの?」
「そう、それだよ! その視線がたまらない! 初めてだよ! 嬉しくすらあるね! 教えてくれないかな? なんでキミはボクの変貌を見破れたんだい!?」
興奮した長髪幼女は、早口で捲し立てる。
しかし、白髪幼女の反応は微妙だ……。
敵意でもなく、ましてや恐怖でもない……。まるで本当にコイツ何言ってんだという口を引き攣らせた表情。
それに少しだけ疑問が浮かんだ……。
やがて白髪幼女は鼻からため息を吐いて、視線を道化師からズラす。それを辿って道化師は後ろを振り向いた……。
「……」
「?」
白髪幼女が目線を向けた先にあったのは『鏡』だ……。
鏡に映った白髪幼女が無表情で……少しだけ困ったような顔をしている。
そして、その手前のベッドに座っている長髪の幼女……。
「………………え?」
鏡に映る長髪幼女に変身した自分の姿……その少女には……
顔が無かった——
「……ねぇ、お前ナニに化けてるつもりだったの?」
白髪幼女の言葉が耳に入らない……。
自分の両手を見る。
子供の小さな手だ……。
その両手を震えながら自分の頬に当てる。
再び鏡を見たら……両頬に手を当てた長髪の輪郭を持つ幼女らしきものがコチラを見ていた……。
不自然に顔に影が掛かっている異質なナニかが……。
「………………ヒッ」
頬に当てた両手の感触が伝えてくる……。
自分はそんな表情なんかしていないのに……
確かにソレは……
「ヒィいぃいイイァァアアあぁあぁアああアァァアアアあぁアアアあぁアアアアぁアアあアァァアアあァァーーーー!!」
ニィイイ……っと笑ったのだ……。
「あぁああァァアア!!」
ベッドから転げ落ちた道化師は、地面にバタバタと転がり自分の顔面をバリバリと引っ掻く……。
「ひ、ヒィ!!」
道化師の輪郭が歪み、カランとピエロの仮面が床に落ちると、個性のない女の顔が恐怖に発狂しながら現れる。
「うわ、うわぁああ!!」
仮面が剥がれても尚、自分の顔をひっかく無個性の女の顔からは血が流れる……。
顔をむしり取るくらいの勢いで……
いったい自分は……ナニに化けていた?
なぜ顔がなかった?
数日間の観察をして長髪幼女の姿形を完璧に真似たはずだった……。
ならなぜ? こんな不可解なことが起きている?
何故なぜ何故何故何故何故何故何故何故……
何故…………彼女の顔を思い出せない……
ケヒヒ……と子供の声が聞こえた気がした……
「あ“あ“あ“ア“ア“ッ!!」
バタバタと何度も足をもつれさせながら……道化師と呼ばれた女は部屋から奇声を上げて飛び出して行った。
「……」
道化師の出て行った部屋で、白髪幼女は椅子から降りると、床に落ちたピエロの仮面を拾う。
「……『終わらぬ恐怖』ね。ほんとうの恐怖に手を出すからだよ……」
シュっと扉が開いて、今度はボスメイドが足早に入室してくる。
「ッ……」
その顔は焦りに目が見開かれ、ジッと仮面を待つ解の巫女へと向けられた。どうやら発狂して走り去って行った道化師に驚き、確認のためにやってきたらしい。
白髪幼女は『返す』とばかりに仮面をボスメイドへと差し出すと、彼女は獣のように飛び退いて壁を背にする。
「……なんだ。はやくうけとれ」
「ッ!! くるな!!」
「……はぁ?」
「まさか、ここまで得体が知れないとは思わなかったわ……道化師に何をした……」
汗を流したボスメイドは怯えたように白髪幼女を睨みつける。
「警戒してもしたりない……ッ化け物め……」
「……まて、おまえなにを勘違いしている」
「長髪が大人しかったから油断していた……お前の方に向かった途端、道化師がコレか……」
「………………え、冤罪がすぎる」
道化師の自爆とも呼べる結果は、ぜんぶ白髪幼女のせいにされたらしい……。
「……きけ、わたしじゃない」
「ッ……そして飽きずに分かりきった嘘を並べて挑発するか……。これが……小悪魔……」
そして何を言っても信じてもらえない。
白髪幼女は眉間を摘んで天井を向いた。
まさか化け物冤罪を向けられるとは思っていなかった。
「私は油断しない!」
そう宣言してボスメイドは逃げるように出て行く。
白髪幼女は呆然としながら口を開いた。
「……子供がグレるのって……こういう冤罪からだとおもう……」




