温い紅茶
「ふ〜ん、ほんじゃあこの飛行船には、二十人も乗ってないってことッスか? 随分少ないッスねぇ」
「そうなんですよ。これだけ大きな飛行船なのに少ないですよね」
テーブルで紅茶を優雅に飲む……どーも私です!
無個性メイドが淹れてくれた紅茶を、背筋を伸ばして口に運び、お菓子を一口。
うん、たぶん高級な紅茶なんだろうけど、私に紅茶の味は分からん。いやまぁ美味いけどね。
一緒にお菓子食うと合うね。
紅茶って高貴なモン飲んでるっていう優越感が美味しい感じしない?
まぁいいわ、そんなことより……。
「そういや、いつものメイドさんはお休みッスか?」
「ああ、あの人なら用事があるみたいで出てますよ。もうすぐナイン区域に入るから忙しいのかもしれないですね。私で我慢してくださいね」
「うん、分かった〜」
無個性メイドの言葉にニコニコで答える。
どうやらボスメイドはいないようだが、代わりにこの無個性メイドが私のお世話をしてくれるらしい。
うわ〜い、嬉しいなぁ……とはならんやろ!!
こっちは知ってんだぞ! この無個性メイド、無個性どころか本性はピエロみたいな仮面を被った『ザ 怪しいヤツ』なんだから!
監視カメラの能力で見てたから! ガッツリ敵側!
てゆーかなんだよあの怪しいを形にしたような格好!
外で歩いたら秒でダースの警官に職質うけるわ……。
「あ、紅茶のお代わりいれましょうか?」
「たのんます〜」
なんでもこの無個性メイド、どうやらボスメイドが呼び寄せた外部の協力者っぽいんだよね。
目的は私達から情報収集するための協力だって言ってた……。
でもねぇ、コイツ私から情報を抜きとろうとしている感じがねぇんだよね。意味わかんね……。
ただお喋りしてるだけ……なにが目的なのかサッパリ分からん。いや、目的が分かってるから意味が分かんないんだよ……。
お前、ボスメイドから私の情報探ってくるように言われてんじゃないの?
「紅茶をボディーガードに差し入れですか? お優しいですね。入り口の二人には後でお飲み物を差し入れしておきます。ふふふ、長髪様からだって言っておきますね」
逆に私に情報を落としていく始末……。
ふむふむ、入り口の見張りは二人ね。
意味わかんねーでしょ? ボスメイドは会話をしていてもここら辺の情報は漏らさなかったぞ。
う〜ん、外部からの協力者だから意識が違うのか?
まぁどちらにせよ、コイツが私にとって信用ならないのは確かだ。このまま情報を与えずに、ソッチの情報を掠め取るのが正解だね。
そう思いながら、紅茶を口に含んで高すぎる天井を見上げた。
「……幼女ちゃんはどうしてるかねぇ?」
――――――――――――――――――――――――
「白髪様ぁ、今日は私が、先輩と一緒にお世話させて頂きますねぇ」
「………………きたな」
白髪幼女が豪華な牢屋で紅茶を飲んでいると、ツリ目メイドに連れられて、丸メガネのメイドがニコニコしながら入ってきた。
「あれぇ? 来たって私のこと待ってたんですかぁ?」
「……そういうのいい」
白々しいとばかりに、ため息を吐く白髪幼女の仕草は、丸メガネがボスだと分かっていることを隠す気がない……。
「……ここのボスはお前だ」
「ど、どぉ〜してそうなるんですかぁ!」
断定する白髪幼女の言葉に、ボスメイドは涙目で焦る。あくまで自分はボスではないと主張するつもりのようだ。
「――ちょっといいですか?」
そんな胡散臭い状況を、ツリ目の先輩メイドが手を上げて遮る。
「――彼女は間違いなく私の後輩メイドです。どうして白髪様はその様に思われたのですか?」
ツリ目の言葉に、白髪幼女は不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、椅子から降りる。
「――急な環境の変化で警戒する気持ちは分かります」
無表情でペタペタと二人のメイドに歩を進め、二人の間で立ち止まった……。そして……
「――ですが落ち着いて――――――」
パンッと両手を叩く……その行動でツリ目のメイドの言葉がピタリと止まった……。
そして白髪の幼女は、ジロリと目だけでボスメイドを見上げると口を開いた。
「…………自分の口で言え」
「……」
「……」
静寂が牢屋を支配し、バシャバシャと噴水と滝の水音だけが響く。
「だから言ったじゃない、バレてるって」
静寂を破ったのは、ツリ目のメイドだった。
肩を上げて面倒そうにタメ息を吐くと、許可もないのに勝手に椅子に座って紅茶を飲み始めた。
「……せんぱぁい?」
「悪かったわよ、でも無駄なの分かってるでしょ?」
「え、えぇ〜本当にぃ……」
丸メガネの下にあるニコニコの目が、鷹のように細められ白髪幼女を鋭く射抜いた。
「……厄介な能力だよ」
「……」
正体を表したボスメイドは、丸メガネを取って眉間に皺を寄せる。
「あえて聞かせて貰おうかしら? なぜ私がこの飛行船の代表だと分かった……」
「……あの艦長とか言ってた男……アレに指示を出していたのはお前だ」
笑顔を消して本性を見せたボスメイドは、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「本当に……『解の巫女』とはふざけた力ね……私の異能のラインを解いてしまえるなんて……」
「……お前は近くの人間に口をつかわず言葉を伝えることができる……」
「そうよ、あの男を艦長に仕立てて、私はメイドのフリをしていた。でも、あんなに焦ったのは久しぶりよ。まさか指示していたテレパスを解かれて、指示が出来なくするなんて……」
「……なんでメイドのフリをしていた」
「答える必要はあるか? 決まっているでしょう、小悪魔の油断を誘い、情報を得るためよ」
白髪幼女は滑稽とばかりに鼻からため息を吐く。
「……子供相手にたいそうなことだね」
「大層かどうかは私が決めるわ……そして、答えは変わらない……『小悪魔に油断をしてはいけない』」
「……ゆだんしろよ……大人げない。メイドのフリしてまでして恥ずかしくないのか」
「駄目よ、メイドのフリをしようがアナタ達には情報を与えてはいけない。何をされるか分からないから……情報は武器よ」
「……だからオバケ姉ちゃんと引き離した?」
「そう、もともと共謀を避けるためにそのつもりだったけど正解だった。私の正体に気づいたアナタに知らされると厄介だからね。おかげで長髪の方は私を警戒はしてても正体には気づいていない……」
「……」
「情報は武器……解の巫女であるアナタから情報を得るのは危ないことが分かった。だから、長髪の方から情報を得る」
「……それで? なにか分かった?」
挑発的な白髪幼女の言葉に、ボスメイドは僅かに微笑む。
「少しは……ね。それに『解の巫女』について考察も出来る」
白髪幼女の瞳が細められる……。
「やっぱり異常と言っていいほどの力ね。子供とはいえ油断をしたらとんでもないことになる。魔力的事象を解くから解の巫女……でも、必然的にもう一つの能力がある」
「……」
ボスメイドは少し誇らしげに、自分の目を指差す……。
「それは、その『目』。魔力の流れを見ることができる力……解くのだから当たり前よね? 見えるから私のテレパスを消してしまえる。解く力だけに注目してしまいそうだけど、厄介なのはその目も一緒」
「……よくわかってるね」
「だから……アナタはここから抜け出さない……」
白髪幼女は観念したように両手を上げて、部屋の中を見渡した。
「……この飛行船なに? 完全に解の巫女がいるとわかって作られてる」
白髪幼女の口ぶりは、少し感心しているようにも聞こえた。
「……この飛行船……繋がってない。魔力を辿っても、この部屋だけで完結している。だから他へ干渉できない……よくできてる」
ボスメイドはお見事とばかりに、そして少し嬉しそうに拍手する。
「流石は解の巫女……お答えするわ。そのとおり、このメガロ級護送艦は『幾つもの飛行船の集合体』で出来ている」
「……だから解いても意味がない。一つを壊しても、他の飛行船が生きているから」
「解の巫女を護送するなんて、機器にどんな影響があるか分からないからね」
だから白髪幼女は大人しくしている。最初にこの飛行船を見た時から、身動きが取れなくなることを意識していた。解の巫女を完全にメタった作りをしているから。
「……こんなに解の巫女に対して作られた飛行船……いつ作ったの?」
「決まってるわ……ブリガンドから『小悪魔』の捕獲を聞いた時からよ」
「……はやくない?」
「それが造船所が持つ技術力。三日でメガロ級護送艦を建造してしまえる勢力よ」
「……」
「造船所勢力にとっては、飛行船に艦長が着くのではない……艦長に飛行船が着く。この飛行船は空創である私が設計建造した護送艦……『群体型護送艦ガヘラーバブル』。泡を一つ潰したところで飛び続ける護送艦よ」
ここまで話して、ボスメイドはハッと口を結ぶ。
話し過ぎた……小悪魔相手にこれ以上情報を与えたくない……。
そして、ツリ目のメイドに向き直ったとき、その顔にはドジっ子メイドの顔が張り付いていた……。
「……せんぱぁい……私はしばらく長髪様の方に着きますぅ。白髪様のお世話はお任せしますねぇ……」
「ええ、分かったわ」
ツリ目のメイドは興味ないように、カップを上げて答えた。
「それじゃあ失礼しますねぇ」
出て行こうとするボスメイドに白髪幼女が声をかける。
「……オバケ姉ちゃんによろしく。あとお前、私達を必要以上に大きく見過ぎだとおもうよ……」
「えへへぇ、そんなことないですよぉ。これでも警戒が足りないくらいですぅ。なんたって小悪魔は『化け物』ですからぁ」
「……いもしない化け物に食われないといいね」
「そのための警戒ですよぉ。警戒はし過ぎるということはないですぅ。……特にアナタ達小悪魔にはね」
捨て台詞のような言葉を吐いた白髪幼女に気にすることなく、ボスメイドは牢屋を後にした。
白髪幼女はため息を吐いて、少しぬるくなった紅茶を飲む。
その光景を見てツリ目のメイドは、軽く苦笑を浮かべていた。
「大変ねえ……紅茶のお代わりいりますか?」
「……いる」




