怪しい道化師
足を下ろしてバシャバシャと水を跳ねる。
「部屋の中に噴水って機能性的にはゼロよね」
どーも私です。
部屋の中を調べております。脱出を目指すなら、まずは牢屋のことを調べなきゃね。
昨日は風呂に入って寝ちゃったから、牢屋をよく調べてないんだよね。ベッドがデカくてフカフカなのもよくない。
「脱出するとき、ベッド貰っていきてぇなぁ……」
こんだけフカフカなベッドなら、今後の逃亡生活に彩が出ると思うんだよねぇ。
「まぁ流石にデカすぎてスキマに入らんか……」
ベッドは諦めるしかない。
もっとスキマが大きければ良かったんだけどね。しかし……。
「デケぇ牢屋だ……」
目の前の噴水に向かって足で水を蹴り上げる。
この噴水も大きいぜぇ……なんせ噴水っていうか滝もセットだからね。壁に造られた人工的な岩場から水が出てんの!
金持ちの考えることよく分かんねぇけど、コレでもかと高級感を与えてくれるから、私は好きだよ滝。
てか常に水が吹き出してるけど溢れねぇのかな?
ん〜、ワンチャン何処かに排出されてるなら、能力を開発して逃げられるかと思ったけど……ダメだなこりゃ循環してるっぽい。
そんなこと考えていたら、後ろの扉が開いてメイドが二人入ってきた。
「あぁ〜長髪様ったら水遊びしてるぅ。ダメですよぉ、その噴水は遊び場所じゃないんですからぁ」
ドジっ子ボスメイドだ……。
ボスメイドはパタパタと走ってきて、噴水につけた私の足をタオルで拭く。
「いやぁ、暇だったもんで。噴水にテンションあがっちゃいましたよ」
「あ分かりますぅ〜」
分かっちゃう? 本当に?
「でもダメですよぉ」
プンプンとでも言いそうにボスメイドは私を噴水から立ち上がらせる。
「今日はいいお天気ですから窓を透過させましょうねぇ」
そう言ってボスメイドは、ベッドの近くにあるスイッチを弄ると壁が透明になって外が見えるようになった。
「わぁ〜、お外だぁ〜」
私はなるべく無邪気に見えるように、透過された壁に近づくと外の様子を確認する。
少しでも情報が欲しいからね。どれどれぇ〜。
「うっお、森!」
森だよ森。
飛行船は森の上を飛んでいた。
「あははぁ、メガロ級の飛行船を街中で飛ばすのは許可が要りますからねぇ。ビックリされちゃいますから、なるべく人の少ない航路を選択されているそうですよぉ」
選択してるのアンタとか言わない?
ここのボスだから決定権はボスメイドにありそうなんだけど……。
「でもすごい景色ですよねぇ。長髪様もそう思いませんか?」
外を見ながら壁にくっ付く私の後ろにボスメイドはやってきて、両肩を掴む。うひぃ〜!
「そうっすねぇ! あまりにいい景色なんで暇も忘れてテンション爆上がりッスよ!」
後ろに着かれて恐怖心もアゲアゲだけどね。
「あわわぁ〜、やっぱりお暇ですよね。お友達と離れ離れにされて可哀想ですぅ」
私の肩を掴みながら悲しそうな声でそう嘆くフリをするボスメイド……。
おい、ガラスに反射したボスメイドの顔が無表情なんだけど!? 怖いんですけど!?
「白髪様は解の巫女とか言ってましたけど、長髪様は解の巫女って何か知ってますかぁ?」
「ん? いやぁ〜知らんスね。幼女ちゃんは巫女さんですかぁ?」
そら来た……。
「そうらしぃですよぉ? 私はよく分からないんですけどぉ、艦長が言ってましたぁ。なんでも不思議な力があるとかぁ……」
「へぇ〜」
情報が欲しいのはそちらも一緒のようで……。
「長髪様も何か不思議な力とかあるんですかぁ?」
「舌が鼻の頭に付きまぁす」
「……そうですかぁ。それは凄いですぅ」
なるべくコッチは無力なガキだと思い込ませるのが吉かな……。幼女ちゃんが解の巫女だとバレてるのはしょうがねぇ。
それなら私は幼女ちゃんの傀儡で、なにも出来ないガキだと思い込ませよう。
「ところで、そちらのメイドさんはどちら様ッスか?」
私はボスメイドと一緒に入ってきたメイドに視線をやって問いかける。ツリ目の先輩メイドでもないようだし、ただの交代要員かな?
「あぁ、聞いてくださいよぉ。私にも後輩が出来たんです!」
ボスメイドがそう言うと、紹介されたメイドは頭を下げた。ふむ、コレと言った特徴のないメイドだね。
たぶん、この飛行船の人員って二種類いると思うのよ。ボスメイドの存在を、ちゃんとボスと認識しているヤツとそうでないヤツ。
隣のメイド部屋の会話を聞く限り、ボスメイドのことを新人メイドとして扱ってたからね。
知らねえんだろ。
んで、この新しくきた特徴のない無個性メイドはどちらかな?
「初めまして長髪様、先輩がいない間の時間は私が対応させて頂きます。一緒にお話ししましょうね」
「先輩とかいい響きですぅ」
ん〜、分からんけど、たぶんクロ……。
そもそも、私達は自分で言うのもなんだけどVIPだろ。
先輩メイドが複数いるのに、新人メイドばかり当てがわれるのがおかしい気がする。
警戒されてんだ……。
何も知らないメイドから私達に情報が漏れないように、幹部連中で誤魔化してるから新人メイドが多くなる。新人なんだからメイド業務が不慣れでもおかしくないよねって。
それとも別にVIPじゃなかったりして……。
ボスメイドはそう言って出ていくと、無個性メイドが私の話し相手になってくれた……。
「あははは。私の生まれたところでは当たり前でしたよ」
ん〜あれ? おかしいな。
「いま流行ってるのはコスメですね」
コイツ、なんか私から情報を抜きとろうとしてる感じがねぇな……。普通に会話を楽しんでる?
もしかして本当に無個性なだけの新人メイドかも……。
そして、しばらく会話した後、仕事があるからと結局私から情報を抜き取る感覚もなく出て行った。
ん〜はい! 間違えたようだね! シロっぽい。
あの無個性メイド、自分の話しかしやがらねぇ……。むしろ私に少し情報を置いてったまである。
というかあんまり私の話題に触れないようにしてたのかな? 複雑な事情のある子供だと思われたのかもしれん。
まぁあの無個性メイドはいいや。
そろそろ……
「有効な能力でも開発するか……」
今回ちょっと厳しそうなんだよね。どんな能力を得れば脱出できるかプランが見えない……。
ここは情報収集に特化した能力にするべきか……。
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プシュっと扉が開いて無個性メイドがメイド部屋に帰ってくる。
「あ〜、お帰りなさいですぅ。長髪様とお話しはどうでしたかぁ?」
「…………」
無個性メイドはテーブルに座ってお茶を飲んでいるボスメイドに目線をやる。
「ふふ、問題ありませんヨ」
しかし、ニチャリと笑った無個性メイドの口から出たのは甲高く、反響してブレたような声だった。
「相変わらず凄い技術ですねぇ『道化師』さん」
グニャリと無個性メイドの輪郭がブレ形を変える。
「アナタ……その喋り方向いてませんヨ」
無個性メイドの代わりにそこに立っていたのは、ピエロのような仮面をつけた存在だった。
「……」
ボスメイドはニコニコ笑っていたが、不意に表情を消すと鷹のように目を鋭くさせた。
「それで……どうなの。出来そうかしら? 道化師……」
普段のニコニコ顔のドジっ子メイドからは想像も出来ないような喋り方でボスメイドは呟く。
「問題ありませんネ。少し時間を頂けたら短時間なら可能でしょウ」
男とも女ともつかない声でピエロ仮面は笑う。
「そう、アナタを外部から呼んで正解だったわ」
「それにしてモ、話した感覚かラ普通の子供にしか見えませんでしたネ」
ボスメイドは、丸メガネの奥から呆れたような目を向けた。
「アナタですらその評価なのね。あの長髪の子供……恐らくただの子供じゃないわよ。たぶんコチラを油断させる為に演じてる」
「……おヤ、アナタと同じデ?」
「どちらにせよ情報の抜き出しは、道化師のアナタにも協力してもらう」
「うけたまりましタ」
道化師の仮面は怪しく笑った。
「はい、真っ黒ー…………」
そしてその光景をモニターで見ていた長髪の幼女は口を引き攣らせていた……。




