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化かし合い


「長髪様〜、空調はどうですかぁ? 寒くありません?」

「ん〜……ちょうどいいッスね!」


 怖ぇ……


「わ、わわ!! えへへ、転んじゃいましたぁ」

「んふふ、メイドさんはおっちょこちょいッスねぇ」


  怖ぇんだよ……


「そうだ、お風呂行きましょうよ。部屋にある客室風呂と大浴場、どっちにしますかぁ?」

「そうッスねぇ……せっかくなら大浴場にしましょうかね!」


 だから怖ぇんだって、このドジっ子風ボスメイドッ!

 コイツ全力じゃん! 全力で私を騙そうとしてんじゃん!


 この丸メガネメイドがこの飛行船のボスだと知っている以上、お前の演技が全部怖いんだよ……。

 

 このボスメイド……たいした擬態だよ。

 ハッキリ言って、幼女ちゃんの情報がなかったら疑問にすら思わなかっただろうね。

 違和感なんて覚えず、ただのこういうメイドだって認識していたさ……。


 でも知っちゃったからには、コイツの行動や言動が全部恐ろしいわ。


「キャッ。ふぇ〜ん、制服に水が掛かっちゃったぁ」


 ほら『ふぇ〜ん』だよ! いい歳こいた大人が『ふぇ〜ん』とか演技でほざいてんだよ!

 その仮面の下で私を油断させるために目を光らせてんのにさッ!


「また先輩に呆れられちゃう〜。ふぇ〜ん、冷たいよぉ」


 ふぇ〜ん……怖いよぉ……。


 はぁ、とにかくこのボスメイドには、私が気づいていることに気づかれないようにしなくちゃね。


 そもそも、なんでこのボスメイドはメイドのフリをしてるんだ? まさか本当にボスとメイドの二足の草鞋じゃないだろうし……。

 言っちゃえば、社長がアルバイトのフリをしているようなもんだよ?


「……あれ、なんかそう思うとありそうになってくる不思議」


 学校の用務員が、実は理事長だったとか物語じゃよくあるもんね。

 いやいやいやいや、そういう問題じゃねぇわ。


 おそらく目的があってメイドのフリをしてるんだよな。そう考えると色々と考えられるね。

 私達の油断を誘って情報を抜き取るとかがパッと思いつく。


 もしくは命を狙われた時の影武者としてジェスチャー紳士が対外的に艦長を名乗ってるとかがありそう。


 まぁこの場合は、私達を油断させて情報を得る方だろう。

 そりゃ艦長と名乗ってるジェスチャー紳士と、何も知らないメイドさんなら後者の方が態度も柔らかくなって口も軽くなるだろう。


「それじゃあ長髪様。お着替えを用意しましたよぉ。サイズはどうですかねぇ〜」


 そういってボスメイドは、私の後ろに回り込んで前から着替えを当ててサイズを測る……。うひぃい! 背中がゾワゾワするぅ〜!


「う、うひひ。お着替えはそれでいいッスよ……」

「良さそうですねぇ。お風呂の後はコレに着替えましょう」


 うぉ〜……見えない位置に陣取るのやめろ!

 

「あれぇぇ〜…………?」

 

 後ろのボスメイドは、私の耳元で疑問の声を上げる。それは私がコイツの正体に気づいているからか、妙に態とらしく聞こえた……。


「荷物なんて何も持ってなかったのに……」

 「なんで……」

  「お洋服が綺麗なんですかねぇ?」


 見ている……


「着替え持ってないですよねぇ?」


 私の後頭部を視線も逸らさず見ている……


「おかしぃなぁ……ねぇ? ……アナタもそう……思いませんかァ?」

 


 スゥ〜〜…………怖い!!

 

 たぶん私が気づいてなかったら、本当に違和感なく受け止めていただろうってのが怖い!

 これ、私が気づいているから分かるレベルの違和感なんだ。


 たぶん、後ろのボスメイド……声色は小動物みたいな雰囲気だけど、振り向いたら無表情で私のこと見て観察してるんだろうなぁ……。


「はっはっは、言ったでしょ? ダンジョンに全部置いてきちゃったんスよ! お気に入りのお洋服もあったのに残念だなぁ〜」

「そうなんですねぇ。それは可哀想ですぅ。ここは気を取り直して、新しいお気に入りを見つけちゃいましょう。いっぱい用意しますからねぇ」


 あくまで私は気づいていない体を貫くしかねぇわ。

 そして、少しでも情報を得ないと身動きが取れん……。

 それでいて私達の情報を渡さない程度に違和感なく会話をしなくちゃいけない。

 ……難しいわ!


「じゃあさっそく大浴場に向かいましょう! 案内いたしますねぇ」

「うわ〜い、大っきいお風呂楽しみッス〜……」


 部屋を出てメイド部屋を経由し、厳重なロックの掛かった通路を幾つも通り抜ける……。

 大浴場を選んだのは、少しでも周りの作りを把握する為だ。

 

 【立体マップを作る能力】を起動して通った通路を把握。結局自分の通った道しか記されないからイマイチだけど、ないよりマシだ。


 そして大浴場に到着した。

 少なくともこれで、牢屋から大浴場までのマップは出来たね。

 クソ……これで領域畑がまともに作れれば、エネルギーの採算度外視でもっと広い範囲のマップも作れたんだろうけど、今はコレが限界だ。


 広い脱衣所で服をカゴに入れ、大浴場に入る。


「……リゾートかな?」


 ひっろい! そして貸切!

 なんかいっぱい風呂があるんだけど、こんなにいる!?

 いやまぁ貸切なのは当たり前なんだけどね。

 たぶん囚人って私と幼女ちゃんしかいねぇから。


 どれから入るか迷うなぁ……。

 うん、とりあえず体洗って一番近い花の浮かんだ風呂に入るか……。

 

「ふぃ〜……極楽極楽。うん、状況が悪くなければ住みたいくらいの環境ではあるね」


 むしろこの天国みてぇな待遇の良さが逆に不安を煽るけど……。


「……ふぅ。【監視カメラの能力】」


 私の目の前にモニターが浮かび上がる。


「……やっぱりね」


 モニターには脱衣所が映し出されている。

 そしてボスメイドが入ってくると、無表情で私の脱ぎ捨てた衣服をたたむ。なにかを探すように……。


 そしてポケットに手を入れ引き抜くと、手の中にはお菓子が乗っていた。

 それを見たボスメイドの目が鋭く細められる……。

 丸メガネの下のその目はさっきまでの、のほほんとした柔らかい雰囲気ではなく鷹のように鋭い……。


 そのまま大浴場に繋がる扉、つまり私のいる方へ視線をやるボスメイドの顔は、完全に油断のない無表情だった。

 その表情のまま口を開く。


「長髪様ぁ〜! お洋服は洗濯に回しちゃいますねぇ〜!」

「……はぁ〜い!」


 口調だけはドジっ子メイドのままに……顔は獲物を狩るハンターのように……。


「……やっぱり、探してんのは天然コアかね」


 私達が持っている欲しがりそうなもんはアレだろうしな。たぶんマフィアから盗んだのバレてんだろ。

 本当に隠し持ってないか、確認したかったんだろうね。

 となると次は……。


「長髪様の髪を洗う手伝いしますねぇ〜。長いと大変でしょ〜」

「お、助かりますねぇ!」


 風呂に持ち込んでないか確認するよね。私は脱衣所のモニターを消す。

 ガラガラと扉を開けて大浴場に入ってきたボスメイドは私に視線をやると、ニッコリと笑った。


「……それじゃあお手伝いしますぅ」


 残念だったね。何も持ち込んでないよ……。

 湯気で曇った丸メガネの奥がピクリと揺れる。


 はは、疲れるね。お互いにさ……。


 分かったよ……。


 しばらくは『化かし合い』だ……。




 ――――――――――――――――――――――



 コレでもかと豪華な部屋で、白髪の幼女はベッドで大の字になりながら、高い天井をボーっと眺める。


 シュ……と扉が開いてツリ目の先輩メイドが入ってきた。


「お食事を用意しました……」

「……」


 白髪幼女は無言でベッドから飛び降りると、用意されたテーブルに腰掛ける。

 ツリ目の先輩メイドは、一通り料理を並べると口を開く。


「解の巫女であるアナタに、隠せるものではないでしょう……」


 そう言って頭を深々と下げた。

 


「改めまして……メイドのフリをしていますが、私はこの飛行船の『艦長』であり、全決定権をもつ責任者です」

「……」

 

 白髪幼女は白けたような顔をして、肉にフォークをブッ刺して口に運ぶ。

 そして、つまらなさそうに口を開いた。


「……あぐあぐ……お前が艦長かどうかはしらないけど」


 ゴックンと肉を飲み込んでツリ目メイドを横目で見た。


 

「……決定権はウソじゃん」

「……」


「……指示出してたのはもう一人のメイド」

「あ、やっぱりバレてます? 解の巫女ヤバいですね」

 

 

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― 新着の感想 ―
今のところはドジっ子メイド=ボスだと確信を得た主人公と能力が行使されてることに気づいてないドジっ子メイドだから、情報面では優位に立ててるね このままやり過ごせれば警戒は白髪幼女ちゃんに向かって動きやす…
ドジっ子風ボスメイドはホントにボスだったのか! 白髪幼女凄いっ。 正体を表した後に快適な空の旅は続くのかな?
主人公=気づいてないフリを続ける ドジっ子メイド=気付かれてないと思って「ふぇ〜ん」を続ける 幼女ちゃん=気づいてるよって宣言 ツリ目メイド=気付かれてるねって宣言 主人公サイドだけこれから無駄に緊…
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