狡猾な敵
どーも私です。
え〜、上流階級のお部屋に入れられてご満悦です。
なんとメイドさん付きの牢屋ですよ。すごいでしょ。
「長髪様〜、パンケーキにアイス落としますかぁ?」
「お、いいッスね! 暖かいパンケーキに冷たいアイスは至高ッスわ! ジャンジャン乗っけちゃってメイドさ〜ん!」
メイドさんはニコニコしながら『ホットチョコレートも掛けましょうね〜』と甘やかしてくる。
丸メガネにドン臭そうなメイドさんだけど、人の良さそうな雰囲気が伝わってくるね。
でもこのメイドさん……ここのボス疑惑あるんだよねぇ……。
あっはっは、怖ぁ。
いや、疑惑なんだけどね。
幼女ちゃんのメッセージではメイドがボスってことなんだけど、関わりのある、あの場にいたメイドさんは二人。
この丸メガネで素朴そうな後輩メイドと、ツリ目でサバサバしてそうな先輩メイド。
おそらく幼女ちゃんがメッセージを仕込んだのは、私に天然コアを投げ渡してきた時だろうから、どちらかがボスなんだろうねぇ。
まぁ幼女ちゃんの勘違いじゃなければの話なんだけど……。
そもそも幼女ちゃんは何でメイドさんが、この飛行船のボスだと思ったんだ? たぶん、なんか解の巫女の力で見たんだろうけど……。
必然、私たちに艦長だと名乗ったジェスチャー紳士は偽物ってことになるよね? まさか艦長とボスが別ってこたぁねぇでしょ。
なんで偽物を用意した?
「…………油断させるためか」
「長髪さまぁ、なにかおっしゃいましたかぁ?」
「いや〜、美味しいなって」
「うふふ、よかったです。何かあれば仰ってくださいね」
…………ナメてた。
コイツらガチだ。
本気で私達のこと『勢力』として警戒してやがる。
そしてたぶん、私達の弱点だったり何か情報を探ってるんだ。
油断のカケラもないどころか、逆に私達の油断をこれでもかと誘って来やがる。やり辛れぇ……。
本来ソレは私達『小悪魔』の領分だ。
油断させて、弱みや情報を得るのは力無い私達の数少ない武器なんだよ。
それを逆にやられている……。
「隣で待機してますので、ご用がありましたら呼んでくださいねぇ」
「はいは〜い」
後輩メイドはそう言って牢屋を出ていく……。
「……幼女ちゃんは、もしかしたら身動きが取れないのかもしれんね」
アイツら『解の巫女』を知っていた。
もし解の巫女に向けた対策がされていた場合、幼女ちゃんはただの幼女と化す。
たぶん幼女ちゃんは気づいたんだろうね。自分が無力化されることに……。だから私にここのボスの情報を渡して来たワケか。
「私の方で動けってことか」
とは言ってもどーするよ……。相手は私達を完全に警戒しているヤツらだ。
「しばらくは様子見して情報を集めるしかねぇかな」
私はこの豪華な部屋に唯一存在する扉に目を向ける。
ふむん……扉の形状としては部屋の装飾に似合わない無骨な感じ。まぁ一応牢屋だからね。
よし、誰もいねぇな? ベッドを飛び降りて扉にダッシュ!
ペタペタペタペタ……
この肉厚そうな扉に耳を当ててみますと〜。
「なにも聞こえませんな……」
当たり前だわね。牢屋なんだから壁は厚いだろうし、扉は言わずもがな……。ふ、防音がシッカリしてるお部屋だぜぇ……。
だが甘めぇ! 私にはスキマの能力があるのだ。
はい、コチコチコチコチ……チーン!
ニュルっとな。
扉に作ったスキマから向こう側を覗く。
まぁ来た時に通って来たから、どんな部屋なのか知ってはいるんだけどね。
扉の向こうは小さな小部屋……本来だったら囚人を入れる前の取調室みたいなもんなんだろう。
でも今は、椅子やらテーブルなんかが持ち込まれていて、メイドさんの休憩室みたいになってる。
「メイドさんは二人……ね」
椅子に座ってテーブルで書き物をしている、先ほどの丸メガネ後輩メイド。そして反対側でお茶を飲んでいる別のメイド。
こっちは知らんけど、たぶん交代する時のメイドさんなんじゃねぇかな?
「後輩メイド一人だったら対応できない時間もあるからシフト制なんだろうね」
たぶん、基本的に私に対応するのは後輩メイドなんだろ。
メイド部屋と化した取調室の向こう側には、やはりセキュリティのシッカリしてそうな扉が一つ……。
私は知っている……来た時に見たからね。あの扉の向こう側は真っ直ぐな通路になっていて、ガードマンが立っているんだよ。
チッ……厄介な作りだよ。
結局抜け出すには、このメイド部屋を抜けなきゃいけない。ここしか外に通じる道はないからね。
そしてメイド部屋には常にメイドさんが常駐していて、それを掻い潜っても外の通路には見張りのガードマンと……。
「……厳重過ぎる」
ハッキリ言って、今のところ私の持ち得る能力で抜け出すのは不可能だわ。
新しい能力を開発すべきなんだろうけど、この監獄を掻い潜れる能力なんて作れるか?
……マジで困ったわ。
最近ヌルい環境だったから危機感が抜けてたのは否定できないね……。
「……焦るな。しばらくは情報収集に努めよう」
私はメイド部屋を観察する。
『う〜ん、報告書完成しましたぁ』
後輩メイドが伸びをしながら、椅子の背もたれにのし掛かる。
『お疲れ様、アンタもうすぐ上がりでしょ。後は私が小悪魔様に対応するわ』
『あぁ、違うんですよ。急にコロコロとメイドが変わると小悪魔様が不安になるだろうからって、今日の夜勤までは私が対応するそうです』
『そうなの? まぁ小悪魔と言っても子供だもんね』
なるほど、もう一人は代わりなんだろうけど、今夜までは後輩メイドが私の専属として対応してくれると。
「……まぁボス候補はこの後輩メイドであって、もう一人は違うだろうがね」
たぶん幼女ちゃんの方は、同じ対応をツリ目先輩メイドが行なっていると思われる。
『まぁ頑張りなさいな。初めての専属なんでしょ?』
『えへへぇ、そうなんですよ。バッチリお持てなししちゃいますよぉ。白髪様と長髪様のお二方を交互に見るらしいんですけどね』
『張り切りすぎて無理しないようにね。小悪魔様が眠ってる間の夜は他のメイドが変わってあげるから』
ふむ、至って普通のメイドの光景にしか見えない。
これで幼女ちゃんのメッセージがなかったら完全にただのメイドだと思ってたね。
いかんいかん、気をつけんと……。
今のところコイツらに対して私が持つ唯一のアドバンテージはメイドがボスという事だけなんだ。
今思うと幼女ちゃんのファインプレーだね。
しかし……。
「この後輩メイドがボスの可能性ってマジかな?」
いや、のほほんとしたメイドにしか見えないんだけど……。
「……ッ!」
と思った瞬間……後輩メイドの首がコチラにグリンと向いた。
スッ……と予備動作すらなく立ち上がった後輩メイドは、まったく上半身のブレないその歩きで音もなく扉に歩いてくる。
その表情は明かりが反射した丸メガネで分からないが、酷く不気味に見えた……。
「ヤベッ!」
私は慌ててスキマから牢屋側に弾き出されるように飛び出す。ゴロゴロと床を転がった頭上で、ピピッと扉が音を立てる。
「あれぇ〜……小悪魔様。床に寝転がってどうされたんですか?」
プシュと扉が開いた先で、後輩メイドが首を捻る。
「あ、あはは……いぃ床だなと……思いまして……ね?」
「あははぁ……そうですかぁ。ダメですよぉ」
後輩メイドは、床に転がる私を両手で立ち上がらせると、顔を近づけて笑った……。
「心配しちゃいますからねぇ……」
光の反射する丸メガネの奥からは、探るような怪しい目が私を観察していた……。
「に、にゅふふ。気をつけまぁ〜す……」
分かった。うん、コイツだ。
これでもかと私達を警戒し、逆に私達の油断を最大限に誘おうとしている凶悪な敵。
抜けているように見せて、その実……狡猾で油断がない……。
何が目的か知らないが、本気で私達を騙そうとしているんだ……。
この飛行船のボスは……この後輩メイドだ。




