私には分からない心理戦が行われているらしい……
な〜んか幼女ちゃんが焦ってる気がするんだよねぇ……。
いや、分かりづらいけどコイツらに対して警戒度が高いような……。
私に天然コアを渡してきたけど、ムリやり隙を作って押し付けてきたのも違和感あるよね。
持ち物検査のためだってのは分かってるんだよ。
でもさ、私達パッと見……手ぶらだよ? そんなガキの所持品を確認するかねぇ。
出てくるもんなんてお菓子の包み紙くらいにしか思えんだろ。
でも幼女ちゃんは、持ち物検査があるって判断したんだ。もしかして、造船所は天然コアを狙ってんのか?
う〜ん、分からんね。解の巫女の存在を知っていたことにも関係あるかな。
「――よし、待たせたね」
「あいえ、お気にせず」
「――え〜まず、白髪のキミにはこれだ」
そういってメイドさんが、再度幼女ちゃんに手枷を嵌める。
「……」
幼女ちゃんは手枷をジーっと見つめた後、興味をなくしたように視線を逸らした。
その光景を見てジェスチャー紳士はホッとしたような顔をする。
「――念の為に魔力を介さない手枷を用意しておいて良かったよ」
ふむ……。
やっぱおかしいな。
「――あとはこれもだね」
「わお、久しぶりの首輪だね」
そう言って私と幼女ちゃんの首に、チョーカーのような首輪を付けられる。
あー、これはアレだ。マフィアに捕まった時の魔力を乱す首輪。
でも既に幼女ちゃんはコレ系のヤツ、対策済みっぽいんだよね。これは幼女ちゃんには無意味かな?
やっぱりおかしいね。
対策が的確過ぎる……。
ジェスチャー紳士は幼女ちゃんの手枷が外れた事にワタワタと焦って部下に相談するようなヤツだよ。
……にしては解の巫女に対しての対策が早過ぎない?
たぶん街中にばら撒いた町長自白映像を見て、幼女ちゃんの白髪から解の巫女だと辿ったんだろうけど。
小悪魔の正体は解の巫女だってね。
敵さんとしては初めてのアプローチだわ。
「……」
幼女ちゃんは相変わらず、何を考えているか分からない無表情でボーっとしている。まるで自分の役目は終わったかのように。
う〜ん、ジェスチャー紳士と幼女ちゃんとの間で、私には分からない心理戦が行われていたっぽい……。
私だけ蚊帳の外になってる!?
いやいや、何が起きてんの?
まぁ落ち着いたら、幼女ちゃんにそれとなく聞いてみるか。
「――小悪魔殿にそんな物を付けさせて悪いね。でも分かって欲しい……キミ達は油断ならないんだ」
「またまたぁ、子供相手に大袈裟ッスねぇ」
幼女ちゃんは散々場を荒らしたくせに、一言も喋らなくなったので受け答えは私がします。
オメーいい身分だな!
「――牢屋に入ったら手枷は取るから安心して欲しい。この艦でキミ達に不便は掛けさせないと約束しよう」
あ、牢屋では手枷取ってくれるんだ。
「――それでは牢屋に案内させる。よきフライトを……」
――――――――――――――――――――――――――
そうやって部屋から連れ出された私達は、赤い絨毯が敷かれた通路を進む。
なんかオシャレ感ある通路だね。
こう、高級ホテルの通路みたい。
私達の前を歩くのは二人のメイドさん。
そして後ろに屈強な監視員……てかボディーガードみたいで、私達のお嬢様感に拍車を掛けております。
「なんか悪くないね幼女ちゃん! 上流階級になったみたいで!」
「……」
横を歩く幼女ちゃんに話しかければ、彼女はツーンとした表情で無視する。
機嫌が悪いんじゃねぇんだろうけど……。
う〜ん、私の分からないところで何が起きてんの?
やがて扉の前で立ち止まったメイドさんが振り返り、頭を下げる。
「小悪魔様……失礼かと存じますが、ここで手荷物の確認をさせて頂きます」
ツリ目のメイドさんが、無感情にそう口を開く。
うお……本当に手荷物検査あるじゃん……。
幼女ちゃんの予想が当たってるっぽいな。
もう一人の丸メガネを掛けたドン臭そうなメイドが、扉横の機械にパイプ端末を近づける。
幼女ちゃんが壁に寄りかかるように、僅かに横にズレた。どした? 歩き疲れたん?
そして幼女ちゃんは、気づかれないように壁に手をつける。
ピピッ……ピー……
「あ、あれぇ? エラーで開きませんね」
小動物のような雰囲気の丸メガネメイドは、困ったように自分のパイプ端末に視線をやる。
あ、幼女ちゃんがなんかやってんな。
「何をやっているのよ」
「先〜輩、だってぇ……」
「お客様の前よ。しっかりしなさい。……あれ、開かないわね」
ピピ……ピー……ピピ……
なんとも開きそうで開かない扉……。
私達の後ろに立っているボディーガードも、不思議そうに顔を見合わせている。
「パスの期限切れかしら? それとも機械の調子が悪いの? すみません、アナタ達のパスはどうですか?」
ボディーガードの一人が前に出てパイプ端末を向ける。
ピピ……ピー……
幼女ちゃんが私に視線を向けてきた。
そして後ろを振り返って、残ったボディーガードに声をかける。なぁ〜るほど。
「……あれは、よくあることなのか?」
「そうですね。艦が古いので読み取りに不備があることがあります」
幼女ちゃんの質問に、お恥ずかしいとばかりにボディーガードは困ったような顔で返す。
私はその隙に、壁の隙間に『スキマ』を作成して天然コアを放り込んだ。
よし、生成時に発生する時計はバレなかったようだね。
ピピ、ピピ!
プシュっと扉が開いた。
よしよし、多分幼女ちゃんの言いたかったことはコレだね。早いところ天然コアを仕舞えってことだ。
持ち物検査で奪われないようにか。
そして部屋の中で手荷物検査。
「お二人とも何も持ってないですねぇ……」
「いやぁ、ダンジョンに全部置いてきちゃいまして」
「ちょ、耳が痛いんですけど……いくら何でも子供をムリやり連行するの心苦しいわね」
まぁとにかく、持ち物検査は直ぐに終わったわ。
部屋を出てボディーガードと合流。
そして動くエスカレーターに乗って移動。
うーむ、デカい飛行船なだけあって広いな。
そして、色々歩いてエレベーターを降りたら……。
「うお! スゲェ! 魚だよ幼女ちゃん!」
「……」
目の前には高級ホテルのロビーのような広い空間。学校の体育館のように広い天井。
壁には埋め込み式の水槽に見栄えの良い魚が泳いでいる。
ロビーの中央には植え込みで曲がりくねった木が堂々と鎮座し、その周りにはゆったりとした椅子が設置してあった。
それでいて人が誰もいなくて静謐な空間だ。
おほ〜……高級!
いいじゃんいいじゃん。
ジェスチャー紳士の言っていた『不便は掛けさせない』って嘘じゃねぇよ。こりゃメシも期待できるな!
「そ、それでは長髪の小悪魔様はコチラへどうぞぉ」
「あれ、アッチは?」
私を案内するのは丸メガネのドン臭メイド。
そして、幼女ちゃんのほうにはツリ目の先輩メイドが当てがわれ、正反対に歩き出した。
「え、えーと、お二人は別々のお部屋があてがわれてますぅ」
申し訳なさそうな後輩メイドに顔を引き攣らせてしまう。あ……これ幼女ちゃんと引き離されるね。
小悪魔二人組を一緒にさせておくのはマズイという判断か……。
ジェスチャー紳士の判断が的確過ぎる……。
幼女ちゃんも妙に警戒してるし、マジで私達をナメてねぇなコイツら……。
下手したら完封されて何も出来んぞ……。
私達をナイン区域に連れて行って誰と会わせたいか知らんけど、出来るなら早く脱出した方がいいかもしれん……。
「いや……ここ空の上なんだけど」
おい、本格的にヤベェかこれ?
ナメてたのは私達の方かもしれん……。
そしてしばらく歩いた後、部屋を幾つか経由して私の入れられる牢屋に到着したらしい……。
鉄格子の様な物はない。
「それどころか噴水が部屋の中にあるんですけど……」
「すごいですよねぇ。私も初めて入りましたぁ」
いや『贅』!
大きく取られた窓ガラスには空を飛ぶ外が見える。
広い室内だけど、他の部屋もあるみたいでホテルってより金持ちの家じゃん。
「えっとぉ、このスイッチで窓ガラスを消したり、モニターを映せるらしいので、好きにしちゃって下さい」
丸メガネの後輩メイドさんや……あんた私よりウキウキしてね? たぶんこのクラスのメイドをしたのが初めてなのかもね。
スゲェ部屋だけど……入り口はたぶん一つか……。
高級でも牢屋ってことか。王様でも連行すんのか?
「わ、私は隣の部屋で待機してるのでご用があれば入り口近くの機械でお呼びください。飲み物や食べ物は冷蔵庫から好きに食べていいようですよ」
マニュアル見ながら言うのやめようねメイドさん。
メイドさんは部屋を出て行った。隣の部屋で待機してくれるらしい。
「ふぅ〜……どうすっかねぇ」
私は子供プールくらいありそうなベッドに飛び込んで横になる。
「情報が足りないね……」
おそらく私達を警戒している相手としては最上級……。幼女ちゃんの様子も少しおかしかった。
「どう動く?」
私は高級そうなベッドボードに手を伸ばして、収納になっている部分にスキマを作る。そして、天然コアを取り出した。
「とりあえず幼女ちゃんにコレを渡すのを目的にするか?」
手で弄びながら天然コアを放り投げてキャッチを繰り返す。すると……。
「……おん?」
天然コアが光って文字を浮かび上がらせた。
文字数的にそんなに長い文章ではなさそう。
もしかして、幼女ちゃんからのメッセージだったりする? たぶん、時限式で表示されるようにしてたんじゃね?
でも……
「私、文字読めないんですけど……」
それは幼女ちゃんも分かってるよね?
覚えろって? 嫌だよめんどくせぇ……。
「とは言っても……コレを見逃すのはねぇな……」
流石に文字が読めない私に幼女ちゃんが託した言葉なんだから大切だろ。
「……まぁ、やりようはあるけどね」
私が本気を出せば、軽い翻訳くらい出来るのは幼女ちゃんも知ってるからね。
あ〜領域エネルギー使うからやりたくねぇんだけどな〜……流石に放っておくワケにもいかねぇよな。
私は領域畑を広げる。
うん、いつものゲームリンクだよ。
領域畑と言語理解の能力をゲームリンクさせて、文字を翻訳させる。
「これ結構消費デカいんだよね……」
ダンジョンを作ってないから回収も出来ないし……。
「……領域畑の『ノリ』が悪いな……」
あれ? 領域畑が薄い……。
あ〜これ、飛行船の中ってのが私の中で引っ掛かってんのか……。
領域って自分の土地って感覚だから、飛行船の中は土地じゃないって感覚が私の中であるらしい。
しかもここは空の上だから、ちょ〜っと判定があやふやになってんだね。
よし、思い込め! ここは地面ここは地面!
うっし、変わらん!
「まぁ、薄くても効率が悪いだけで出来ないワケじゃねぇからいいけど……」
必要な翻訳は天然コアに浮かんだ一言だしね。
ムムムム! それ翻訳!
スゥ〜と天然コアに記された一言が翻訳される。
ポーン……
『はいりま〜す』
「おっと……」
インターホンから聞こえたメイドさんの声に、慌てて天然コアを布団の中に隠す。
危ね危ね。持ち物検査された後にもってたらいけないもんね。
「軽い軽食と時間を潰せる物もってきましたよぉ」
「お、サンキューッス」
気が効くルームサービスだね。
私はカチャカチャとサンドイッチを用意するメイドさんを横目に、布団に隠した天然コアに目をやる……。
想像通りそこには一言、幼女ちゃんからのメッセージが記されていた……。
【ここのボスはメイド】
「……おぅ」
幼女ちゃん渾身のネタバレよ……。
「ここお風呂も広いんですよぉ。後で行きましょうねぇ」
「……うわぁ〜い、楽しみッスねぇ」
アンタこの飛行船のボス?




