動きのクドいジェスチャー紳士
「――歓迎するよ。小悪魔殿」
落ち着いた瞳の男……。
背筋の伸びた綺麗な姿勢で男は私達に語りかけてくる。
「――ようこそ護送艦ガヘラーバブルへ。私はこの飛行船の艦長だね」
柔らかく、それでいてシッカリと話す彼の声は非常に聞き取りやすい。
まるでコメンテーターのように、言葉を口から出すたびに手を動かす。おそらく相手に意思を伝えようとするクセだろう。
「どーも艦長さん。お世話になります」
……というか動きがクドいわ。
え〜……どーも私です。
造船所勢力の飛行船に連行されました。
いや〜サクっと捕まっちまったよね。
まぁ体を持たれちゃったら、子供の私達じゃ抜け出せねぇからしょうがねぇわな。
んでピンクの巨大飛行船の中をエッサホイサと運ばれた先がこの部屋。
そしてこのジェスチャー紳士のオッサンがいたってワケね。
話すたびに手を動かす仕草は、カメラに向かって話す評論家みたいに見える。
顔は無表情だけど、目に見えて悪感情を向けてくる感じじゃないね。
私たち子供にも丁寧にシッカリと語りかけてくる。
……なんだけれども、私達の扱いってキミらにとってどーなってんの?
「ところで艦長さん、厳重すぎません?」
「――過ぎないね」
私と幼女ちゃんには手枷が付いていて、凶悪犯罪者の連行中のようである……。
そして私達の左右には、それぞれ屈強な大男が警戒するように陣取り、変な動きをすればすぐさま取り押さえられそう。
かと思えば、私と幼女ちゃんそれぞれの後ろにはメイドさんが立っていて、まるで金持ちのお嬢様のようだ。
なにこの凶悪犯罪者とお嬢様のハイブリッド扱い……。
「――ふむ、ではこれからの行動を教えておこうか」
ジェスチャー紳士は、手の甲を上に向け押さえる仕草をしたあと、人差し指を立てる。
なに? 台本でも読んでんの?
「――私達はキミ達をナイン区域の造船所に連れて行くつもりだね」
「ん〜、ナイン区域ですかぁ〜。ちなみに何でですかね?」
「――それは答えられないね。――キミ達に用がある人物に引き渡す為とだけ言っておこう」
私達に用のある人物ねぇ……あんまり会いたくねぇなぁ。誰か知らんけど、ロクでもなさそうよね。
状況を見て抜け出す算段をたてるか?
「――まあ、この艦内でキミ達に不便は掛けさせないよ。使用人をつけるから何かあれば彼女たちに言ってくれたまえ」
後ろに立つメイドさんを手で示すと、彼女達は私達の前に出て頭を下げると、また後ろに控える。
「こりゃご丁寧に。まるでお姫様ッスね!」
「――ああ、牢屋も最上級の物を用意させてもらうよ」
最上級の牢屋ってなに!?
う、う〜ん。逃がさないという意思だけはヒシヒシと感じますわね。
「不便を掛けさせないって言うんなら、とりあえず手枷取ってもらえません? 鼻の頭が痒いんですよね」
「――それはできないね」
子供相手に少々無骨なデザインのアクセサリーじゃねぇかな?
「――悪いけど、それでも譲歩している方だと思って欲しい。キミ達は油断できないからね。子供だと侮ったブリガンドはあの有様だよ」
チッ、厄介なタイプだ。
若造兄ちゃんの時と同様、私達をナメてねぇな……。
若造と違うところは、明確に敵対してるってところ。
あっちは扱いに困って、基本的に私達に不干渉だったけど……コッチは明確な意思を持って私達を捕らえている。
こういうのは私達特効だったりすんのよね。
「手枷くらい取って貰ってもいいじゃないですかぁ。何も出来ませんよ」
うん、正直手枷って普通に抜け出すの大変なんだよね。それだけで霧化の能力にスロット持ってかれるし……。できるなら外して欲しいんだわ。
「……――出来ない。それでも安心は出来ないんだ」
「またまたぁ。こんな頑丈そうな手枷なんて付けなくても逃げられませんって。取って欲しいなぁ〜」
「――ダメだよ。重くはないだろ?」
まぁね。サイズもピッタリだよ。
付けた瞬間シュっと子供サイズに縮んだし……。
「――まぁやり過ぎなのは認めるけどね」
ゴッ……
そして、白髪幼女の足元にボトリと落ちる手枷……。
「……あヤベ」
彼女はそう呟いてイソイソと手枷を拾うと、再び自分の腕に付け直した……。
「「「「…………」」」」
はえーよ馬鹿……。
バレてんじゃねぇよ。
うん、金属の手枷のサイズが変わるって明らかに不思議エネルギー由来だろうからねぇ……。
解の巫女さんからしたら、何も付けてねぇのと一緒だわね。
「「「……」」」
幼女ちゃんは明後日の方を向きながら、さも何もありませんでしたよという顔してる。
いや、無理よ。
「………………――キミは『解の巫女』だね」
ジェスチャー紳士は幼女ちゃんの白髪を見ながら呟く。
おっとぉ。
ジェスチャー紳士、解の巫女知ってんのか?
ふむ、最初に幼女ちゃんを誘拐したハリウッドメガネ以来だね……。
それ以降、誰も幼女ちゃんのこと解の巫女なんて言い当てたヤツは居なかったから、マイナー巫女なんだと思ってたけどね。ココでそのワードが出てくるか……。
幼女ちゃんは解の巫女を言い当てられて、少し目を細める。そして僅かに目を赤く光らせた。
「…………――」
迷ったようなジェスチャー紳士が、次に口を開こうとした瞬間。
パン……と幼女ちゃんが、虫でもいたかのように手を叩く。
「……」
ん? 幼女ちゃん……今何した?
幼女ちゃんは、空中をキョロキョロ見渡して、また手を叩く。
叩く……
叩く……
叩く……
「……ふむ」
「…………」
たぶん幼女ちゃん、何かを『解』いているね。
何が起きてる? なんでジェスチャー紳士は何も言わなくなった?
「…………」
ジェスチャー紳士は冷静そうに見えるけど、明らかに何か困ってるね。
やがて幼女ちゃんは手を叩くのをやめ、ジェスチャー紳士が口を開く。
「作戦タイムッ!!」
「あ、はい……どーぞ」
敵さんタイムアウト入りました!
本当に何が起きてんの? 幼女ちゃんがなんかやってるのは分かるんだけど……。
「全員集合!!」
ジェスチャー紳士がそう叫ぶと、私達を見張っていた護衛とメイドさんが不思議な顔をしてジェスチャー紳士の元に集まる。
そしてコソコソ話し出した。
えっと、じゃあ待つけどさぁ。
「…………」
視線が外れたのを待っていたのか、幼女ちゃんが視線だけで私を呼ぶ。
私も視線だけで彼女を見ると、幼女ちゃんは懐から『天然コア』を取り出して私に投げ渡してきた。
預かっておけって事か……。
たぶん、持ち物検査された時に奪われないようにか……。私ならスキマに隠せるからね。
でも……持ち物検査を逃れる為とはいえ幼女ちゃんが天然コアを手放すとはね……。
そして幼女ちゃんは、難しそうな顔をしている。
もしかして……私が思ってるよりコイツらって油断できなかったりする?




