ダンジョンの後始末
深い山中。
人の手も入らない深い深い山岳地帯で、不自然に山肌が剥がれ、破壊されていた。
まるで複数の自然災害が同時に起きたような、そんな光景。
「まったく……幾つの遺物を消費させれば気が済むのだ」
ガラリと真新しいガレキを手で持ち上げながら、スーツをパツパツに盛り上げる筋肉の塊のような男が姿を現す。
表情の乏しい無骨な顔で軽くため息を吐く『総ダン長』だ。
その総ダン長の目の前で、丘ほどもある岩山が砕け、瘴気でも噴き出すように縄が噴出した……。
そして砕けた岩山から現れたのは、紫色の袴のような服を着た教会の女……『祈りの巫女』。
辺り一面に多大な破壊痕を残した両者は、お互いに視線を逸らさず睨み合う。
しかしその静寂は、二人とは別のところで崩れた。
森の木々が風で揺れる。
その風の出所に視線だけを向ければ、山の向こう側からピンク色の飛行船が飛び立とうとしているところだった。
造船所勢力のメガロ級護送艦……特徴的なピンク色の船体に流線型の飛行船は、山のように大きく、空を飛ぶ巨大魚のようにも見える。
それを見て総ダン長は、軽くため息を吐いた。
護送艦が離陸しているということは、もしかしたら小悪魔の子供達を確保したのかもしれない……。
偶然が重なり勢力となってしまった哀れな子供達。大人達の都合に付き合わされ、危険な身の上になってしまった少女達に気が重くなる。
だがまぁ……目の前の祈りの巫女に任せるより、造船所勢力に連れられていったほうが、まだマシだろう。
祈りの巫女は、どうやら子供といえど容赦はなさそうだからな……。
そんな祈りの巫女は、離陸するピンクの護送艦を見て面倒くさそうに呟いた。
「…………堕とすか……」
容赦が無さすぎる!
総ダン長は、ゴーレムのような無骨な顔を歪めた。
シャン……
巫女が錫杖を突くと、胴体ほどもありそうな太い縄が幾つも現れる。
おそらく、あの山のような大きさの護送艦を縛り上げ、破壊するつもりなのだろう。
「骨が折れる……」
見えている重労働に総ダン長は肩を回した。
しかし、護送艦に縄を伸ばそうとした祈りの巫女は、ピタリと動きを止め口を開く。
『なによ……チッ、分かってるわよ。殺してないわ。…………はいはい大人しく帰還するわよ』
どうやら連絡が入ったようで、何者かと会話をしているようだ。おそらく教会勢力の人員に止められたのだろう。
これは……後日、教会勢力から連絡が来るかもしれんな……。
「……帰るわ。邪魔したわね」
「本当にな」
その言葉に総ダン長はホッと安堵のため息を吐く。
ようやくこの重労働も終わりを告げたようだ。
「巫女よ。思ったより簡単に引くのだな……」
縄を引っ込めた祈りの巫女に、総ダン長は声を掛ける。子供に対してアレほどの殺意を振り撒いていたにしては、アッサリと手を引いたのが気になった。
「はっ、アンタの時間稼ぎでどうせ逃げられたからね。あの飛行船に乗ってるとも限らないし……またマーキングを隠したわね」
「相手はただの子供だろう……偶然が重なり勢力になってしまっただけだ。殺そうとするのはやり過ぎだ……」
「別に殺そうとしてないわよ。殺すなって言われてたし」
「この惨状を見てよく言えたものだ……子供でなくとも巻き込まれて死ねるぞ」
巫女は呆れたような顔をして総ダン長を見る。
「私はアレくらいで死ぬとは思ってないからやったのよ」
「……」
「アンタ見た目に囚われすぎなのよ……まぁいいわ。私もヒマじゃないし、小悪魔ばかりに気を取られていられないもの」
そう言って、散々人工ダンジョンをメチャクチャにした巫女は去っていった。
「見た目に囚われすぎか……」
総ダン長は飛び立つピンク色の護送艦を眺める。
「やはり我にはただの子供にしか見えんよ……」
――――――――――――――――――――――――
「クイック君!」
「ウィンテッドさん!」
崩壊寸前のドームの壁に座り込んだ若造の耳に、ダン長二人の声が聞こえた。
「あぁ……お二人ともお疲れ様です」
若造は壁に手を付きながら、なんとか立ち上がり二人を迎える。
さて、自分はクビだろうか? 二人から見れば自分は裏切り者だ。
もちろん本当は裏切ってないし、弁明などいくらでもできる……。そして二人はそれを何の疑いもなく信じるだろうという確信もある。
だが……何となく……それをする気にはならなかった。
「なんか格好悪いですしね……ブッ!」
自嘲じみた笑みを浮かべながら、二人に向き直るとバシャリと水をぶっかけられた。
「……」
ポタポタと水を滴らせながら、髪をかき上げる。
「……やっぱり言い訳していいですか?」
水も滴る氷の貴公子は、ちょっと涙目で呟いた……。
いくら何でも、この仕打ちはちょっと堪える……。
「何を言ってますの?」
「ポーションですよ。緊急だと思って頭からいったのがいけなかったですかね?」
シュワシュワと肩の痛みが引いていく。
完全に治るのに時間はかかるかもしれないが、これで動かすのに支障は無さそうだ。
「まぁ流石にこんな状況になれば、クイック君が裏切ってないと分かりますよ」
「そうですわ。突然ブリガンドのダンジョンが消え失せたのは驚きましたけど……」
「何が起きたのか分かりませんが、キミが何かやったのでしょう?」
若造はホッと安心すると共に、やっぱりこの二人は甘いとも思う。小悪魔の二人から言わせると『温い』のだろう。
若造は微笑を浮かべて首を横に振った。
「いいえダン長、私ではありませんよ。『小悪魔』のお二人です」
「小悪魔? そうですわ! あの二人、いつの間にか居なくなって!」
「まさかあの子達が?」
相変わらずこの二人にとって小悪魔はただの子供らしい。さて、どこから説明したものですかね?
小悪魔は勢力なのだからブリガンドごときが敵うはずもなく、捻り潰されたと言うべきか……いや、信用して貰えませんね。
あ、そうですね。
とりあえずコレは説明しておいた方がいいでしょう……。
「先代生きてるみたいですよ?」
私もシチュー食べたかったんですけど……。
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「本当に……こんな事でテレサ達は見つかるのでしょうか?」
庶民が少し背伸びをして行く居酒屋……。
個室になっているその部屋で、白髪幼女の母親メイルンがサラダを突きながら呟いた。
「はん、まだその様な事を言っておるのか。何度も説明したであろうが!」
対面で熟成タレ焼きの鶏肉に齧り付く豚貴族、ガバス アヤブドールが鼻を鳴らして悪そうに返す。
「あの小娘が絡んでいる以上、普通に探しても見つからん可能性が高い……。ならばコチラも普通ではないやり方をするまでだ」
確かに豚貴族の言い分は聞いている。
だが白髪ママには、どうにも今やっている事が娘に繋がるという気がしないのだ……。
「ふん、まぁワシも馬鹿みたいに成り行きに任せるほど楽観的ではないわ。この際、アヤツらの行動を予想も交えて追ってみようではないか」
そう言って豚貴族は酒を煽ると、テーブルの料理を片手で乱暴に退ける。
「あくまで分かっている事実と、予想を混ぜた物だ……今から頭が痛くなりそうだな……」
「……」
まず間違いなく、とんでもない動きをしているであろう幼女二人組に頭痛を覚える。
豚貴族は頭を振って気を取り直し、テーブルに資料を並べ、パイプ端末からモニターを浮かべた。
「では行くぞ。まず最初にヤツらが姿を消したトワイライト遊園地からだ」




