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若造のモノローグ

 


「手を引けい! 祈りの巫女!」

「はっ……あんたアレがただの子供に見えてるんならメデタイわね」


 総ダン長と祈りの巫女は、険呑な雰囲気でお互い睨み合う。

 吐き気を催すような視線の交わりは、ビリビリと空気を振るわせ、両者の間の空間が歪んでいるように見えた。


「祈りの巫女よ……お前程の者が、なにゆえそこまで小悪魔を敵視する」

「あえて言うなら勘……ね」


「ただの勘で子供を殺そうというのかッ!」

「アンタがどう思おうがアレは邪悪よ。私の勘が滅っするべきと言ってるのよ」


 巫女の言葉に総ダン長は、歯茎が見えそうなほど歯を食いしばり睨みつけた。


「なんだと? どこが邪悪というのだ。我には無力な子供にしか見えんわ!」

「……はぁ」


 巫女は心底呆れたようなため息を吐いて、ドームの壁際にいる二人の幼女に視線を移した。


 

「殺せぇええぇえ!! 殺し合えッ!! 共倒れしろぉおおッ!! なんかいい感じに有耶無耶になれ!!」

「……いいぞ! そのまま化け物どうしで潰しあえ……混乱するがいい!」


 そこには地面を叩いて囃(はや)し立てる二人の幼女が、目を血走らせて狂った鳥のように叫んでいた……。


「……あんたアレが純粋に見えんの?」

「………………………………むぅ」


「反論できないじゃない」



――――――――――――――――――――――――――



 どーも私です。

 

 やっべ総ダン長の視線が冷たくなってる気がする!

 つか今どんな状況だ?

 

 え〜っと、総ダン長の言い分から考えるに、祈りの巫女から『そっちに小悪魔いっから、今から行くわ』と連絡があって、慌ててやって来た。

 そしてやってきたら本当におるやん……ってなって、子供に手を出すとは何事だってなってんのよね。


 そんで巫女と総ダン長が一触即発。怪獣対決が始まろうとしてる……と。


 ん〜、ハッキリ言って総ダン長の言葉を鵜呑みには出来ないね。仮に子供に優しい総ダン長だとしても、このオッサンの言うことが全部本心だとは限らない。

 少なくとも、ピンク船長のことから考えても、清濁合わせ呑むタイプだとは思う。


 まぁ全部が全部疑っててもキリがないけどね。


 けど間違いなく……


「チャンスではある……」

「……そうだね」


 あのまま巫女さん総ダン長の二人から襲われるよりマシだ。私達の最良は二匹の化け物が潰し合うことだろう。

 ま、今のところ総ダン長を応援しとこうかな?

 戦況が傾くまで大人しく状況を見守るか……。

 この二人、どっちが強いんだろうね。


「とにかく……子供に手を出すというなら容赦はせぬ」

「……なによ、やろうっての?」


 二人の圧力がふつかり、ガラガラと脆くなった天井が落ちる。

 おわ、おわわわ。睨み合いだけで壊すのやめて。

 お前ら当たり前にやってるけど、人体に影響ないだろうなコレ……。


 落ちて来たガレキを避けている私達をチラリと見た総ダン長は、パツパツのスーツから玉を取り出すと握り潰す。


「お、ガレキが浮かんでるッスね……」

「……壁を補修した?」


 なるほど、たぶん一時的にこの場を小さな人工ダンジョンにして崩壊を防いだのか……。

 それと同時に自分の有利なフィールドに変えたってところかな?

 まぁ巫女さんの縄で壁がボロボロになっていたからね。


 シャン……


 巫女さんの錫杖が地面を突く。

 それと同時に、補修したばかりの壁から縄が伸びて総ダン長を襲う。


 総ダン長が更に玉を取り出し潰すと、足元から配管のような管が生えて縄とぶつかった。


「ヌゥ!」


 縄と配管はぶつかり、いつくかは相殺されたようだが縄のほうが強いのか突き抜けて来た。

 総ダン長の指輪が光り、それを縄に向けると極太レーザーが発射され、縄を迎撃する。


 お、あれはマミィ〜がやってたレーザーの強化版って感じ。なるほど人工ダンジョンは便利な魔道具っぽい物が豊富なんだね。


 縄を迎撃した総ダン長は、浮かんでいたガレキを掴むと力一杯振りかぶり巫女に投げつける。

 着弾したガレキは巫女さんの姿を隠し、その場所に向けて極太レーザーを叩き込んでいた。


「まぁ、巫女さんはこれくらいじゃあねぇ……」


 当たり前のように巫女さんは立っている。

 いや、彼女の前方にはバリアみたいな物が貼ってあり、その四隅をお札が浮かんでいた。

 縄以外にも手札はあるらしい…………待ってシャレじゃないよ!


 シャン……


「ッ!!」


 バリアの内側から錫杖を突くと、縄がバリアを透過するように伸びて総ダン長に向かう。不意の縄に総ダン長は目を見開く。


「ヌオオオオ!!」


 そのまま総ダン長は押されて壁にぶつかり、そして大きな振動を起こしながら壁に大穴を開けて、何処かに行ってしまった。


「チッ……」


 巫女さんが面倒くさそうに舌打ちすると、縄が消え大穴から総ダン長が現れる。


「厄介な縄だな……手繰り寄せようとしたが実態がないか……」


 スーツの埃を叩く総ダン長は無傷のようだ。

 う〜ん、化け物の闘いって感じ……。でも二人とも本気って感じじゃねぇんだよな。

 その気になりゃこの辺り更地になるだろうし。というか地下だから生き埋めかな?


 総ダン長が凪のような瞳で静かに語りかける。


「巫女よ……お前は爪の男を覚えているか?」

「はぁ? 誰よそれ……」


「……そうだろうな。昔我はその男に敗れた」

「だから?」


「そしてその男を討伐したのが……当時のお前だ」

「……だからどうしたのよ。時間稼ぎのつもり?」


 総ダン長は無骨な顔に、分かりづらい笑みを浮かべて口を開いた。

 


「…………そうだ」

「あ?」


 瞬間、ドームに巨大な魔法陣が生成され、地面を眩く光らせる。


「油断したな祈りの巫女! 本気も出さずに様子見をしたのが敗因だ!」

「…………これは」


 光はドームを明るく照らしだす。


「これ以上、我とお前がぶつかれば被害は拡大する! だから卑怯な手を使わせて貰うぞ!」


 え? 自爆とか言わんよね?

 巻き込まれるのゴメンなんだけど。


「奇しくも小悪魔がキサマの倒し方を教えてくれた……」

「……」


 知らんけど! コイツ倒せんの!? だったらとっくに私がやってるよ!


「我はあの映像を見た時から対策を講じていた……教会の秘術……町長と同じように『信仰心』を活用しているのならそれを剥がして仕舞えばいい!」

「……」


「多大なエネルギーを消費して遺物を改良した物だが、惜しみはすまい!」

「まさか、信仰心を遮断するつもり?」


「ごく短時間だが! いまお前を退ける位は可能だ!」


 ほぉ〜……なるほどね。

 やるじゃん総ダン長。てっきり教会の悪い噂とか振り撒いて人気を落としたのかと思ったけど。


「退いてもらうぞ祈りの巫女!」


 その言葉を聞いて巫女さんは、ダラリと錫杖を下ろすと……。




「だから?」


 錫杖を総ダン長へと向けた……。

 元気よく錫杖から縄が伸びて総ダン長を襲う。


「ッ! 原理が違ったか! これで信仰心は防げぬというのか!!」

「信仰心を遮断とかよく分かんないけどね……」


「……まさかキサマ」


 当たり前のように縄を操る巫女さんに、総ダン長は驚愕の顔を浮かべる。



「私、最初からそんな物(信仰心)なんて使ってないわよ」


 おわぁ……そうよね。

 この巫女さん、信仰心とか関係なく『強い』んだわ。


 これは総ダン長の推理が外れたね。

 アンタみたいな強いバケモンがいるんなら、相手もそうだと思わなきゃ。


 つかヤバいね。

 ドームがボロボロだ。このままだと巻き込まれちゃう。隙をみて逃げ出そうと思ってんだけど……巫女さん逃してくれるかなぁ〜。


「見通しが甘かったか……仕方ない。付き合って貰うぞ巫女!」


 総ダン長が縄を掴むと力一杯引き寄せて、巫女さんの体が天井近くまで宙を舞う。そして……


『カァアアア!!』


 超振動のエネルギーを口から放つと、巫女さんの背後の天井がウニョンと穴を開けて吹き飛ばした。


 総ダン長はジャンプするようにしゃがむと、その天井の穴目掛けて飛び上がる。


 その際、チラリと私達の方をみて……すぐに目線を逸らした。


「は? なに? 闘いの場所変えた感じ?」

「……なんか遠くでズシンズシンきこえるね」


 え〜、どういうこと?

 急にほったらかしにされた状況に幼女ちゃんと首を捻ってると、後ろから話しかけられた。


「今のうちに逃げろという意味ですよ」

「おや、若造兄さんお久しぶりです」


 若造兄さんは、肩を押さえながら壁にもたれ掛かると、氷の表情に疲れた感情を乗せて座り込んだ。


「おや、怪我してます?」

「ブリガンドに肩を折られました」


「そりゃお大事に……それよりさっきのはどういう意味です?」

「総ダン長は……父はアナタ達に時間を稼ぐから今のうちに逃げろと思っているのでしょう」


「ほ? そりゃ願ってもないッスけど……」


 まぁ、そう言うんなら逃げさせてもらいますか。

 今だに遠くで怪獣の戦っているような音が聞こえる。うへぇ巻き込まれたら堪らん……。


「はは、割と居心地が良かったッスけど、まぁ潮時ッスね」

「後は総ダン長に任せておきましょう。あの人なら討伐ならともかく時間稼ぎくらいできるでしょう」


 本当はもうちっとお世話になってたかったけどね。

 私は座り込む若造を見下ろして苦笑する。


「それにしても若造兄さん、無茶しましたねぇ」

「ええ、しました……」


 若造も私の言葉を聞いて苦笑する……。

 裏切ったフリして単身、ピンク船長へスパイするなんて危険だろうにね。でも若造兄さんの表情を見るに、納得しているようだね。


「聞いていい?」


 私は若造の隣に座ると天井を向いて口を開く。

 まぁこんくらいの時間はあるだろ……。

 

「なんでしょう?」

「なんで若造兄さんは、わざわざこんな危ないマネしたんです?」


 普通に考えてさ、バレたら殺されるよね? それがわかっていたのに、なんでわざわざ危ないマネしたのさ。

 もっと安全なやり方あったんじゃね? 


「そうですねぇ……」


 若造は考えるように、私と同じく天井を向く。

 

「父親への反発心でしょうか?」

「まさかの反抗期!?」


「あの人、優柔不断なんですよ。狡猾であれと皆に言う癖に、変なところで甘かったり……」

「ふぅ〜ん」


「しってます? 先代が亡くなった時、慌ててブリガンドの大株玉を遠隔で故障させたんですよ、あの人」

「おっそ……」


「ですよね。そのクセ……ダンジョンの為に狡猾であろうと、ブリガンドを再び迎え入れようとする……どっちだよってなりません?」

「納得いかなかったんだ?」


「父親にはカッコよくあって欲しいでしょう?」

「あらら、そりゃ反抗期だ」


 そう言って若造は、ドームにベチャリと倒れ込んでいるピンク船長に視線をやる。


「まぁそれもありますが……結局は、アイツが気に食わなかったからですね……」

「ふふ、そっちのほうが分かりやすいッスね。それでわざわざ危険なマネしたんだ」


「勝算はありましたよ」

「ほう?」


「アイツはアナタ達(小悪魔)に喧嘩を売りました。その時点でブリガンドの命運は尽きましたよ」

「……」


 いや、ホンマこいつ……。


「私も覚悟できています。どうぞお好きにしてください」

「だからさぁ、過大評価しすぎだって……」


「ダン長達を同じ牢屋に入れるよう進言したとき、こうなる未来も想定していました。結果として私はアナタ達を利用したのです」

「そんな不確定要素モリモリで利用とか言われてもねぇ。いつまで私達のこと本気出せばダンジョンぶっ壊せるような化け物と同類に思っとんねん……」


 若造は、私の言葉にキョトンとしたあと、クスクス笑って辺りを見渡した。


「壊れてるじゃないですか……ダンジョン」

「私達のせいにしないで貰えます!?」


 祈りの巫女さんと、アンタの親父だろうが!? なにコッチに器物破損の罪を押しつけてんだよこの兄ちゃん!


「いいえ、ダンジョンを壊したのはアナタたちですよ……私の予想……間違ってなかったでしょう?」

「……」


 だぁ〜めだこの兄ちゃん……。

 私は呆れて立ち上がる。そろそろ逃げよ。


「おや、私を見逃してもらえるのですか?」

「どーにも出来ねぇからね!」


 若造は両肩を上げる。『そう言うことにしておきましょう』じゃねぇよ……。


「私も聞いていいですか?」

「なんでしょうかね? 早めにお願いしますよ」


「どうやってダン長達を立ち直らせたんですか?」


 あぁ、若造の想定ではダン長達は立ち直らない考えだったのか……。


「幼女ちゃんがシチュー食わせたら元気になりましたよ」

「シチュー? ……まさか」


 まぁ今までの飯代は払うか……。


「先代は……生きているのですか?」

「先代さんを知らんけど、ダンジョン作ってた主婦に貰いましたよ……まぁ最初からココに帰るつもりはなかったんじゃね?」


 若造は私の言葉を聞いて、大笑いしていた。

 私と幼女ちゃんはそんな若造を置いて、後ろ手に振りながら歩く。


「さぁて幼女ちゃん。ここ出たら何処にいこうかね」

「……む、とりあえずこの区域からでるべき」



 ――――――――――――――――――――――――



 クイック ウィンテッドは去り行く二人の小悪魔を見ながら笑う。

 どうやら自分は見逃して貰えたらしい……。

 いや、本人達はそんな力などないと言っていたが。


 壊れたダンジョンが物語っている。

 これは彼女らが望んだから起こったのだ……。


 彼女らが望んだからブリガンドは破滅した。


 そして自分は、小悪魔の気まぐれに見逃されたに過ぎない。


 彼女らは否定するが、間違いなく彼女達は恐ろしい。


「勢力ですよ……」


 そんな二人は、いま、このダンジョンから出て行こうとしている。

 おそらくまた、自由に何処かへ飛び立つのだろう。


 そんな二人を見送る……。


 そして、そんな二人の前で扉がプシュっと開く。


「「「……え?」」」


「小悪魔発見しました!」


 ピンクの制服を着た造船所の勢力だ。


「これより連行します!」

「「ふぁッ!!」」


 ピンクの制服は驚く小悪魔を両脇に抱える。

 そういえば、ブリガンドがメガロ級護送艦を呼んでましたねぇ……。


「ちょ! 捕まった! ウソやろ! 若造兄さん助けて! 攫われる〜!」

「…………彼女達は自由に何処かへ飛び立つのだろう」



「若造兄さんの変なモノローグが聞こえる!? あんた実は結構いい性格してるよな!?」


 

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

 これで人工ダンジョン編は終わりです。

 

 沢山のマイリスや評価、感想や誤字報告、イイネを頂きました。とても嬉しいです。

 よろしければ、次のお話もお付き合いして頂けると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
らしいと言えばらしい終わり方だね! 若造じゃなくても大半の人は同じ選択をするとお思うけどな〜 一区切りついたなら、久しぶりに首絞めママと首絞められジィジの近況がわかるのかな?
まさかのオチだった…
こいつら攫われてばっかやな・・・w
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