最初からそう言え!
ギィいやァァアア!!
祈りの巫女さんが来ちゃったーー!!
「おい、なんだよ姉ちゃん。オジサン忙しいんだけど何か用かい?」
突然の乱入巫女さんに、ピンク船長が苛立ちを隠せない表情で詰め寄る。
おい、馬鹿やめろピンク船長。
お前がブチ切れてんのは分かるからソイツを刺激すんじゃねぇよ。目の前で壁ぶち抜いてきた化け物加減が見えてねぇのか。
ピンクの服を真っ赤に染められるぞアンタ。
たぶんピンク船長、壁をぶち抜くという馬鹿げた現象と巫女さんが結びついてねぇんだ……。イラつきによる精神状況もあるだろうけど、まさか自分を超える力を持つヤツが乱入してきたなんて思ってない。
ただ変なコスプレイヤーがやって来て目立ってるくらいにしか感じてなさそう。
「……」
はい、そして巫女さん、ピンク船長をガン無視ですわ……。まさに眼中にないって感じ?
ドームを見渡すように眺めている。
そして私を見つけて、ブワリと圧力を纏う。
「ようやく見つけたわ……」
見つかっちゃった〜……。
「おい、姉ちゃん。俺の声聞こえてねーのかなァ?」
ピンク船長は無視されたことが非常に不満なのか、イライラした口調を投げかける。
コレだ! ピンク船長を囮に逃げるしかねぇ!
私はわずかに腰を落とす……。
たぶんこのままなら、怒ったピンク船長と祈りの巫女さんとの戦いが始まるだろう……。そしてピンク船長は死ぬ! でも時間稼ぎにはなるはずだ……。
二人が争っている間に……。
【シャン……】
「逃がさないわよ」
「おい姉ちゃん! 聞いてん……あ? その服……教会のブルぅァァアアァァア“ア”!!」
逃げるために腰を落とし、一歩踏み出そうとした私の足元に、巫女さんの持つ錫杖から縄が伸びてブッ刺さる。
そしてピンク船長は、錫杖から伸びた縄に巻き込まれて泥団子のように壁に叩きつけられた……。
駄目だぁー!! ピンク船長じゃ時間稼ぎにすらならない。それどころか巫女さんに認識すらされずにやられた!
もうちょっと頑張ってよピンク船長ぉ!
下手したら巫女さん、お前が巻き込まれた事にすら気づいてないからね!
壁から床に落ちたピンク船長の下から、血がドクドクと流れて服のカラーリングを変更する。
「ガッ……グ……カハッ…………」
ドシャ……じゃねぇよ! コミカルなやられ方しといてガチ目の怪我負ってんじゃねぇ!
「……んしょんしょ……ダメか」
そして元凶の白髪幼女! お前なに一人で逃げようとしてんの?
幼女ちゃんは、ピンク船長が空けたガラス窓の穴から脱出しようと壁を登ってる。
けど身長が足りなくて失敗しているようだ。……こいつホンマ……。
お前には世間の厳しさを教えてやるわ!
私は幼女ちゃんに指をさして、巫女さんに向けて大声で叫ぶ。
「巫女さ〜ん! あれ! あの白髪のガキ! アレが本当の小悪魔ッス!」
「……ふぁッ!!」
テメェも道連れだ! 仲良くしようぜ小悪魔ちゃんよぉ!
「お前らが二人組なのは分かっているわ。白髪の方も小悪魔なんでしょ」
「……ば、馬鹿な!」
ザマァァアア!!
「……ち、ちがう! わたしは小悪魔じゃない! 小悪魔はその胡散臭い長髪ぞ!」
「はーい! 巫女さんコイツ嘘つきでぇーす! 妖魔飼ってるのもソイツですよー!」
「……おのれぇ!」
ぬおッ! こいつ掴みかかってきやがった! 元はと言えばオメーが私を売ったのが始まりだろうが!
ゴロゴロと揉み合って転がる私達を見て祈りの巫女が軽くため息を吐く……そして。
「ったく、油断も隙もないわね……」
ズンッと目の前から縄が生えたかと思うと、幼女ちゃんが手を向けている先からバラバラと金属片が空中を舞った……。
チッ……この巫女さん抜け目ねぇな……。
「……やべぇ」
幼女ちゃんは舌打ちして体勢を立て直すと、油断なく祈りの巫女に向き直った。
さっき目の前で砕け散った金属片は『トロッコ』の残骸だ。私達が移動に使っていたトロッコは、ネックレスという形で幼女ちゃんが所持していた……。
私達は揉み合っているフリをしながら合流……そして、ネックレスからトロッコに戻して乗って逃げようとした。
けど巫女さんは、私達の動きを察知して召喚されたばかりのトロッコを破壊したんだ……。
「問答無用で破壊すんの良くないッスよ……。せめて確認してから壊して欲しかったッスね」
「アンタたちは変な異能持ってるからね」
マジぃな……巫女さんに油断がねぇ。
今現在、私がセットしている能力もよくねぇな。
言語理解、スキマ、ライド遊具、ラクガキの四点だ。
うん、唯一巫女さんにスピードで対抗出来そうなジェットブーツを今回セットしてねぇのよ。そして私の領域のクールタイムもまだだから付け替え不可能。
私は幼女ちゃんに目配せをして壁に視線をやる。
「……承知」
「スタート!!」
掛け声で私の足元からドロリと黒い影が蠢く。それと同時に幼女ちゃんが壁へと走った。
私が時間稼ぎしている間に幼女ちゃんが脱出用の穴を開ける作戦だ。
私の黒い影が地面を走り巫女さんに向かう。と言っても、これはただのラクガキだ。なんかビビって警戒しろ!
シャン……
「「うわぁあーーー!!」」
ズドドドドと地面から縄がタケノコのように生える。
ダメだー! 一応ラクガキの影を警戒してくれたみたいだけど、縄で遮られた!
「……ぬおおおお!」
そして幼女ちゃんの行手も縄に遮られる。
「……? 白髪、お前今……縄の軌道をずらしたわね?」
ワタワタと逃げ回る私達を横目に、巫女さんは冷静だ。縄は今もなお生え続けて私達を狙う。
でもそれは私達の行動を制限しているだけで、本格的な攻撃というワケではなさそう。
「「ぎゃああああ!!」」
でも、いつ串刺しにされてもおかしくないね!!
みっともなく逃げ回りながら壁に向かってダッシュする。とにかく逃げないと話にならない!
あ、なんかピンク船長が巻き込まれてスーパーボールみたいに跳ねてる……。
まぁ肉壁にすらならないピンクは放っておけ! 壁に到着したら幼女ちゃんが穴を開けて……。
「ファッツ!?」
とか思ってたら……壁に穴が空いた……。
いや、幼女ちゃんが穴を開けたんじゃなくて、巫女さんがやったように外から破壊されて大穴が空いた。
今度は何事だよ!
ガラリとガレキが落ちる大穴から……ヌゥと大きな手のひらが現れ、穴の縁を握る。
「祈りの巫女よ……止まらぬか」
その後に粉塵を突き抜けてゴーレムのような、無骨で厳つい顔が出てくる……。
「う〜ん、最 悪」
『総ダン長』までやって来ちゃったわ……。
もうメチャクチャだよ。
前門の祈りの巫女に、後門の総ダン長……。
とりあえずお前ら、オハヨウ感覚で建物破壊するのやめなよ。建造物になんの恨みがあんだよ……。
総ダン長と祈りの巫女は、お互いに鋭い目線を交わす。
巫女さんは面倒くさそうに、総ダン長は何処か呆れたように。
「連絡入れたでしょ。伝わってなかった?」
「……聞いたからやって来た。『小悪魔』がいるからなど馬鹿馬鹿しい」
「いたじゃない。ほら」
「なに?」
巫女さんは私達を錫杖で指して、当たり前のような顔をする。ちょっとその棒向けんのやめてよ、怖いから。
「……ぬ?」
総ダン長は錫杖の先を視線で追って私達を視界に入れた……。そして初めて小さな私達の存在に気付いたのか、目を見開いた。
やっべ、幼女ちゃんの頭隠してねぇわ……。
「小悪……魔……」
瞬間……ゴッという圧力と共に総ダン長の立っていた地面にヒビが入る……。
「……こんな……こんな子供が『勢力』だとォ!! 巫山戯るな!!」
ビリビリと震える圧力が、巫女さんの縄によって亀裂の入ったドームの天井から、パラパラと砂塵を落とす。
メッチャ切れとるやん……。
いや、ふざけんなはコッチの台詞だから。勝手に勢力にしといて、勝手にキレんじゃねぇよ。
「本当にただの……子供ではないかァァア! 馬鹿にしておるのか!!」
ブチ切れ総ダン長は、一歩一歩、怒りを振り撒きながら私達に歩み寄る。ウゲー!
頼むから私達を巻き込むな! お願いだから総ダン長と巫女さんで殺し合ってろよ!
――――――――――――――――――――――――
「ぐ……おぉ……いったい、なにが……」
ピンク船長は激痛走る体に意識を取り戻す。
いったい何が起きた? なぜ自分は倒れている?
ビチャリと自分の血液が広がる地面に手をつき、上体を起こす。内臓を損傷しているのか口に血の味が広がる。
現状を把握する為に、ようやく顔を上げて……そして……。
「ッヒュ……」
そして後悔した……。
凄まじい圧力を放つ『総ダン長』。そして、体にトラウマを植え付けた縄を無数に操る『祈りの巫女』。
そう、あれは教会勢力の最高戦力。祈りの巫女だ。
分かってしまった。これは人がどうにかなる存在ではない……。
勘違いをしていた。
自分の暴力で突き通せないものはない。俺は最強だと。
そのまま突き進み、造船所の空帝候補まで登った。
だが、いつまでたっても空帝にはなれなかった。
その上の空帝になるには、実績と立場が必要なのだと思った。だから総ダン長のスカウトに乗った。
『こんな、こんな子供が!!』
怒りと圧力を撒き散らす総ダン長に、心臓が縮み上がる。その視線の先にいるのは、小悪魔のガキ二人。
総ダン長も祈りの巫女も……小悪魔を睨みつける。
誰も、誰も自分の存在に気づいてすらいない……。
この場にいるのは、総ダン長、祈りの巫女、小悪魔……だけだ……。自分など認識すらされていない。
いつかの小悪魔の声が脳内に響く。
【なんでそのまま『空帝』を目指さなかったんですぅ〜?】
【……決まってる……なれなかったからだよ】
勘違いしていた……空帝になれなかったのは、実績や立場ではない。
俺が……『人間』だからだ。
生まれた時から決まっていたんだ……俺はアレにはなれない……。そして、ソレを自覚したくなかったんだ……。
だからダンジョンの長という、力のいらない立場に逃げた……。
ここでなら俺は『最強』になれると。
気分が良かった。ダンジョンでは俺に敵う存在なんていなかったからだ。
でも……今は、誰からも認識されていない。
ガタガタと体が震える……。
分かってしまった……最強だと思っていた俺は……弱者だったんだ。
相手にすらして貰えない空帝達。当たり前だ。
空帝にとって自分は相手をする価値すらない弱者なのだから……。
自分には暴力しかないのに……。
足りないのは実績でも立場でもない……
純粋な『力』……。
なぜ……なぜ俺はいつの間に最弱の位置に落とされているのだ。ダンジョンで一番の暴力は自分ではなかったのか?
なぜ……なぜ……なぜ!!
【たかが空帝『候補』止まりが……『勢力』そのものに喧嘩を売って……無事で済むと思っているのですか?】
…………あ。
二人の幼女が目に入る……。化け物二人に敵意を向けられる……化け物。
【貴方が敵に回した『勢力』そのものです……】
あぁ、ァァアアァァアアあぁあァァアア!!!!
人外の存在に触れ……ブリガンドの心は……ポッキリと折れた……。
――――――――――――――――――――――――
「こんな弱い子供がぁ!!」
ズシンズシンと足音でも聞こえそうな総ダン長がやってくる。うわーこっち来るなぁー!!
そんな怒れる総ダン長に祈りの巫女が声を掛ける。
「どうでもいいけど、ソイツら私が貰っていくわよ」
「……」
その言葉に総ダン長は足を止め、ジロリと睨みつける……。貰ってく? もしかしてとは思ってたけど、巫女さん私達を殺す気がない?
「ソイツら殺さず連れて来いって言われてんのよね」
「祈りの巫女、誰にだ……」
「アンタも聞いてんでしょ。亀とイタチよ……」
「……」
なんか私達の処遇を巡って色々言われてんすけど……。まぁでも、命は助かりそうな予感……。成り行きを見守るか?
「だからまぁ、しょうがないわよねぇ……」
巫女さんは面倒くさそうに首を振った。
そして……
【シャン】と錫杖を地面に付いた。
「あ、手が滑ったわ……」
「「ッ!!」」
知ってた! アンタそういうヤツだよ!
巫女さんの杖から縄が伸びて、私達を刺し殺そうと迫る。
手が滑ったって、殺す気満々じゃねぇか!!
やべ!! 回避間に合うか!?
「「……はぁ?」」
目の前で縄が停止する……。
間抜けな声が口から出たのは私と……巫女さんだ。
そして巫女さんは目を鋭くして睨みつける。
「アンタ、何やってんの?」
私達に迫り来る縄は素手で止められていた。
「お前こそ何をしている……」
縄を止めていたのは『総ダン長』だった。
は? 意味わからん。
「相手はただの子供だろうが!!」
そうですけどッ!!
「子供を勢力だと!? ふざけるな! いい大人が揃いも揃って子供を追い回すなど!! 子供を何だと思っている!!」
アンタそんな感じ!?
――――――――――――――――――――――――
若造は、縄を止めた総ダン長に目を見開く……。
そしてため息を吐いた後、痛む肩を押さえながら、呆れたように壁に背を預けて天井を仰いだ……。
「……だから、言葉が足りないんですよ……アナタは」




