縄張り争いは、複合型体感ゲーム
「さて解説役の幼女さん、この第一回人工ダンジョン戦争の見所を教えてください!」
「……しらねぇよ。人工ダンジョンの縄張り争いの解説とかできない」
マジかよ、私こういうの解説ないとよく分かんなくて楽しめないんだけど……。
まぁしゃーないといえばしゃーないんだけどね。
人工ダンジョンの縄張り争いとか幼女ちゃんに分かるワケねぇよな。
「う〜ん、元ダン長達は……あ、ダメそうね。解説とかしてる場合じゃなさそう」
なんかね、大株玉に手をかざして色々やってるっぽい。浮かべてる沢山のモニターは、それぞれが操作してるんだろうね。指を頻りに動かしたり、指で弾いたりしてる。
う〜ん、たぶん……。
「ゲームで言うところの、各種情報が書かれたモニターってところかな?」
HUDとかUIとかマップとか表示してんじゃね?
ふふふ、HUDとかUIの説明いる?
あ、今は関係ないからいいッスか……。
う、うん。最近覚えた言葉だから使ってみたくて……。ま、簡単に言うとゲーム内情報を表示したものだよ。
RPGだったらHPバーとか、経営系のゲームだったら、財産を確認したり色々な情報が書かれている項目あるでしょ? あれ。
まぁ元ダン長ズはそのモニターを忙しなく動かしてるってこった。
縄張り争いは様々な項目を確認しながら行う必要があるってことかな?
「大株玉なら管理者権限の書き換えは出来ませんわよ」
「真っ当な縄張り争いに付き合ってもらいます」
元ダン長ズが宣言する。
なるほどね。普通の縄張り争いなら元ダン長達に有利だろうよ。なにせ経験値が違う。
でも……
『あーもう面倒臭えな……そんな複雑なことどうだっていいんだよ。エネルギーさえ有ればいいんだろ?』
モニターのピンク船長が、小指で耳を描きながらヤル気がなさそうに手をヒラヒラとしていた。
『お前らの株玉も取り込んだこと忘れてねえか?』
活用できるエネルギーの総量が違う。経験なんて意味をなさないほどの明確な差があるんだろうね。
「ッ!! キーポイントA 7、G 6、……F 2! 攻めてきますよ! モニター写します!」
キツネ顔の叫びと同時に複数の新しいモニターが起動する。
それはどうやらキーポイントと呼ばれる場所の映像のようで、ドームの中央に光る玉が浮いている映像だ。
うむ、見たことあるね。
恐らくだけど、あの光る玉を占領されたら、領地を取られるって感じかな?
「なんかアレだね……私達がやったことのあるゲームに似てんね」
「……うん、領地占領ゲーム 【Vertex】 バーテックスだね」
そうだ、ストラテジーゲームのアレに似てるわ。
『はっは、じゃあ幹部のみんな。頑張ってくれよな!』
ピンク船長の言葉に、向こうのピンク制服たちが忙しなく機械の操作を始める。
するとモニターに映されていたドームの壁が光り、モンスターが雪崩れ込んできた。
「なんで壁からモンスター生えてきてんの!?」
「……たぶん人工ダンジョンの縄張り争い専用の機能かな? 直通でモンスターを送り込めるんじゃない? コレってたぶん本体の『天然コア』からあらかじめ設定された機能かもね」
「ほう! 面白いね幼女ちゃん! たぶんあのモンスターに中央の玉が占拠されたら、あの区画が乗っ取られるんだよ!」
「……にしてもモンスターの数が違いすぎる。たぶんバカにみたいにエネルギー突っ込んでるんだよ」
玉を守る元ダン長ズのモンスターと比べると、攻め込んできたピンク船長側のモンスターは多いし、なんか強そう……。そして今なおドンドン追加さてれいる。
「フィールド起動!」
キツネ顔の宣言に、ドームの地面が隆起し簡易的な岩場を作り上げた。
「オホホ! ナイスです! 鮮やかな構成ですわ!」
むむむ、なるほど岩場を作って地形を利用することで数の差を埋めようとしてるのか。
陣取りゲームにタワーディフェンスの要素、そしてエネルギーをヤリクリする経営ゲームの要素も混ざってるね。
「……エネルギーと出力の差を経験でおぎなってる。でもピンク野郎の領地が広いから、エネルギーの供給が多いんだ」
隣接する領地が多いほど有利っぽいんだよね。それもバーテックスに似てるわ。
そして岩場を抜けてきたピンク側モンスターと元ダン長モンスターが接敵する。う〜ん、どーみてもピンク側のモンスター……エネルギー注ぎ込んでんね。
体格が違いすぎるわ。
しかし……。
「行きますわよ! マニュアル操作!」
意外にもモンスター同士の戦いは接戦している。
「というか押してるね」
次々と弱そうなモンスターが、強そうなモンスターを倒している。これは……なんというか動きが上手い?
味方のモンスター同士が連携してたりもするね。
「キシシ! 流石ベアリングさんです! 羨ましいほどのセンスですよ!」
相変わらずコイツらお互いを褒めるね!
でも分かった。モンスターを操作してるのは高飛車女か。AIじみた敵のモンスターの動きに比べて、モンスターの動きが段違いだ。
つかこれ、実はコイツら、本当にダンジョンにおいては才能あるんじゃね?
明らかに向こうはエネルギーをジャブジャブ投入してんのに戦えてる。
それに向こうは数十人のピンク制服が、忙しそうに操作してんだよ。
「コイツら二人で処理してんのヤバくね?」
「……たぶん色んな情報も確認しながら、他の作業も並行して行ってる」
それで拮抗してんだから、マミィ〜がこの二人を後釜にしたのは間違いじゃなかったんだね。
ごめん、私ちょっとお前らのこと、虚勢張ってるだけの口だけダン長だと思ってたわ。
「というか人工ダンジョンの縄張り争いって……ちょっと面白そうじゃね?」
さっきも言った通り、色んな要素が混ざったゲームみたいだ。しかも接敵したら高飛車女みたいにマニュアル操作するってアクション要素も追加されたわ!
「幼女ちゃん幼女ちゃん! アレ面白そう! 私もやりたい。キミの天然コアで出来ないの!?」
「…………がまんしなさい……もう、似たゲームイッパイ持ってるでしょ」
「ヤダー狩って狩ってー! アイツらの株玉狩ってよー!」
「……史上さいあくのオネダリ…………ジタバタすんな」
まぁ冗談はさておいて、戦況といえば変わり映えしなくて地味だね。あるところでは敗北してキーポイントが占領され、またある所では防衛成功。
敗北した所を取り返して、逆に攻め込んで占領。
うむ、拮抗しているが故に地味!
いや、映像は派手だし見てて楽しいんだけどね。
それにピンク側が際限のないエネルギーで力押ししてくるのを、元ダン長達が工夫で対抗するのも見どころあっていいね。
でもね……。
『あーもういいわ……オジサン、ちまちましたの苦手なんだよ……』
思いのほか攻めきれない状況に、ピンク船長が不機嫌に呟く。
『……ダンジョンのエネルギーを全部中央に送り込め』
「「ッ!」」
拮抗してるって事は、ちょっとしたことで崩れるってことでもあるんだよね……。
それに戦いが始まって数時間……向こうは何十人ものピンク制服で操作しているのに対して、元ダン長達は二人で全部行ってるんだ。
そのうち集中力が切れる……。
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「ダンジョンのエネルギーを全部集めるですって!?」
「正気ですか!? そんな事したら、ダンジョンに不具合が起きますよ!」
『いいんだよ。もう飽きたからさっさと終わらせようぜ?』
勢力マップの表示が不穏にチラつく。
ダンジョンをよく知らないからこその暴挙なのだろう。ダンジョン全てのエネルギーを中央に集めるというのは、ダンジョンに関わるものとして取らない選択。
土地自体に不具合が生じてしまう。
だが、ピンク船長は知らないからこそ、その選択を取れる。
そしてそれは、後のことを考えなければ、この上なく効果的な選択なのだ。
徐々に徐々に、エネルギーが中央に、この元ダン長達の拠点周りに集まっていくのが、モニターに映るマップから判断できる。
「……」
「……」
元ダン長達は、汗を掻きながら無言で各種モニターを睨みつける。
「ベアリングさん……」
「……なんですの?」
「おそらくココが最後の選択です」
「……」
キツネ顔は静かに目を閉じる。
勢力マップの色が中央に近づくほど、濃くなっていく。色分けされた勢力マップは、中央がドーナツのようになっていた。それはこの広いダンジョンが有するエネルギーが集められ、自分たちを取り囲んでいる証拠だ……。
「今ならまだ、大株玉を使用して逃げることが可能かもしれません……」
「……」
「……そして敗北したら……間違いなく我々は殺されるでしょう」
「……」
この中央に陣取った自陣の範囲は、ダンジョン全体からすると100分の1程度しかない……。それほどまでにアドバンテージがあると言っていいだろう。
その全てが中央に集められる……。
バカみたいな力押しで潰そうとしてくる。
ダンジョン全体のエネルギーが、湖の水が吸い上げられるように集められる。モニターに映るマップの外側は、エネルギーがカラカラになってチカチカと点滅していた……。
外周部は無理に吸い上げられた結果、ダンジョンとしての体をギリギリ保てるか……という状況だ。
おそらくどちらが勝ってもダンジョンにダメージは残るだろう。これはそういう行為なのだ……。
そしてそれを引き換えに、自分たちを押し潰そうとしている。
「……愚問ですわね」
「……」
高飛車女は汗を拭ってキツネ顔に笑みを向けた。
「この戦争を終わらせて、アナタを副ダン長にするのはワタクシですわ!」
「……キシシ、それは……コチラのセリフですよ」
モニターの向こうのピンク船長が、邪悪に笑う……。
『もういいだろう?』
元ダン長達は、モニターの向こうを挑戦的に睨む。
「ええ……いいですわ」
「勝つのは」
数時間にも及ぶダンジョンの縄張り争い……。
『そうだ! 勝つのは!!』
決着をつけるために全員が声を揃えた。
『「「コチラだッ!!」」』
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そんな最終決戦を後ろで見ていた……二人の幼女。
相手に集中してるいる為……誰も気づかなかった。
ピンク船長も、キツネ顔も、高飛車女も……。
座る幼女達の足元がスゥウ……っと薄く滲む。
まるでペンキが洗い流されるように……下から徐々に消えてゆく。
誰も気づかなかった。
いつの間にか……。
壁際に座ってお菓子を食べていたと思っていた彼女達は……『壁に描かれていた絵』とすり替わっていたことに……。
最後に顔が消失する瞬間……壁に描かれた彼女達の口がニィイイ……と歪んだ……。
そして、彼女達がいた場所がペラリと剥がれ落ちる。
『らくがきスケッチブック‼︎』
ラクガキの能力
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ダンジョンの外周部……。
ダンジョン内のエネルギーは全て中央に集められ、逆に外周部はエネルギーが枯渇し、灯りさえまともに機能していない……。
ダンジョンのエネルギーが枯渇した場所。
心許ない……わずかばかりの灯りだけが点る。静かで死んだような暗いスタッフルームの通路が続く……。
そんな誰も居ない……認識すらされない通路にて。
フン……セッ……フン……セッ……フン……セッ……
小悪魔の掛け声が響く……。
フン……セッ……フン……セッ……フン……セッ……




