エンタメ気分で開会式
飛行船のコクピットのような拠点で、ピンク船長がモニターを見ながらニヤつく……。
「はっは、小悪魔捕獲の連絡をして十日、随分と待たされたけど、ようやく護送艦が到着しそうだ」
「新たに建設した空港に、メガロ級飛行船受け入れの準備も整っています」
モニターを制御している、ピンクの制服を着た自分の直属の部下の言葉に、ピンク船長は満足そうに頷いた。
「まったくクロックシティー内は制限速度と空路選択がうるさくて敵わんよ。それでいて生身なら速度制限がないのだから笑える。まぁいい、そろそろ小悪魔を迎えに行くとするか……」
このコクピットのような拠点は、元ウルペースダンジョンの拠点を改造したものだ。そしてピンク船長は、その地上部分の山間を買い取り、巨大飛行船が停泊できる空港を作り上げた。
司令塔のような場所に立ち、機械の前に並ぶ自分の部下達を眺める。みんなピンクの制服を着た、造船所からの部下だ。
それを見下ろしながらピンク船長は、クツクツと笑う。
「みんな、だいぶ慣れてきたみたいだな……。このダンジョンの元幹部達から、順調にノウハウを吸収している」
この司令室には後ろに控える若造以外はピンクの制服しかいない。他の幹部……あれは駄目だ。信用できない。
一応自分をダン長として見ているようだが、目から不満が滲み出ている。
「……そんな部下はいらんなあ」
ダンジョンを運営するだけの知識を、自分の部下達に教えたら用無しだ。このダンジョンの長は自分で部下は造船所直属でいい。
大人しく降格を受け入れればヨシ!
文句があれば辞めればいい……止めやしない。
まぁクイック君だけは幹部として残していいだろう。
この子はダンジョンについて詳しい、それに頭が良く機転も利く。真っ先にコッチに着いたのも評価が高い。
今後は相談役として重宝しそうだ。
「はっは……」
ピンク船長は目の前のモニターに映るダンジョン勢力図を見ながら薄く笑う。
二つのダンジョンを吸収した我がダンジョンは、他の人工ダンジョンと比べても広い。
今やこのダンジョンを統べるのはこのキャプテンブリガンドなのだ。
「キャプテン! 通信が入ってます」
オペレーターのピンク制服が振り返って判断を仰ぐ。
「通信……護送艦からか?」
「……いえ、違うようです。繋ぎますか?」
「まぁいいよ。繋げ――あ?」
言葉を終える前に、司令室に緊急アラートが鳴り響く。
「おい、これは何事だ?」
異常事態が視覚的にも分かるような、赤く点滅を繰り返す司令室。ピンク船長は冷静に、そして面白くなさそうに眉間に皺を寄せる。
「ええ〜……たぶんダンジョンが侵略をされてます」
「……」
いまいち自信の無さそうな部下の言葉。まあ飛行船の操舵に慣れていても、ダンジョンの操舵には慣れてないので仕方がない。
「……侵略か。何処からだ!」
ふん、恐らく隣接する人工ダンジョンからだな。
北か? 西か? 東は……ないな。あっちの規模は小さい。
おおかた無理やり侵略したのを脅威に思って、攻められる前に攻め込んできたか……。
モニターを見上げて勢力マップを見上げる。
ピコンと……緑が広がる勢力図に赤のランプが点る。
「中央です!」
「…………はあ?」
侵略され、あまつさえ陣地を奪われたのは、自分のダンジョンの中心……。ダンジョンの規模からするとほんの小さな場所だ。しかし狭いとはいえ、前触れもなく人工ダンジョンが発生したのは解せない。
いくらダンジョンに詳しくなくとも、それはおかしいと分かる。
ザザッと侵略者からの通信が強制的にモニターを開く。
『――――これより此処は我々の陣地です……』
「あーそういうこと……面倒くさいわ。だからさっさと処分したかったんだよ……」
モニターに映る二人の人物に、アチャーとばかりに目元を押さえて俯く。
『ワタクシ達は貴方に戦争を申し込みますわ……この――』
『『新生フリカッセ人工ダンジョンが』』
「……チッ」
モニターに映る二人の元ダン長に、ピンク船長は舌打ちをした。
『フリカッセダンジョン』……前回侵略を失敗した苦い記憶のあるダンジョンの名前だ。
こちらは大株玉を使用して、圧倒的エネルギーで塗り替えてしまうはずだったダンジョン。
しかし、それは先代の技量の高さに失敗に終わり、侵略していたダンジョンは一気にひっくり返された。
さしもの大株玉でもエネルギーは尽き、しかも大株玉の不具合によりダンジョンを維持することすら出来なくなった。
「あの不気味な女め……どこまで俺の邪魔をすればいい」
追い詰められようが、最後まで余裕そうな顔で笑っていた先代の顔がチラつく……。
本当に忌々しい女だ。
キャプテンブリガンドは怒りに、目の前のコクピットに拳を振り下ろす。
あくまで軽くだ……自分の力で思い切り殴ると壊れるでは済まない。
むしろそれがストレスを溜めてしまう……。
ピンク船長は、怒りを排出するように大きくため息を吐くと、獰猛に笑みを作った。
どーでもいい……自分はダンジョンのこととかよくわからないが……結局は力で押し潰せばいい。
「いいよ。そう来なくちゃなあ……その戦争受けて立つ……。お陰で総ダン長にも言い訳ができるわな。『反抗されて致し方なく殺した』ってよ……」
モニターに映る二人は睨みつけるようにコチラを真っ直ぐに見つめている。
そして、その後ろでは大株玉が光り、その後ろの壁際では『小悪魔』の二人がお菓子やジュースを並べてニヤニヤしていた。
まるでこの『戦争』を、余興か映画鑑賞の娯楽のように見ているようだ。
――――……クス。
「ねえ〜〜え、クイック君?」
ギロリと……ピンク船長が顔を押さえながら、後ろに立つ若造へと目を向ける……。
その目は暗く、それでいて冷静そうに若造を射抜く……。その瞳にゾッと血の気が引いた。
「きみ……裏切ってないよねえ?」
「……」
「……なあ〜んでキミは大株玉が向こうにあると思う? ……オジサンに教えてくれよ」
「……」
「お前が何かしたんじゃねぇのか?」
気安く手の乗せられた肩が、ミシリと軋む……。
若造は背中にかく冷や汗を隠しながら、澄ました顔をした。
「先代が隠しておいたんでしょう。まさか大株玉とは思いませんでしたが……。あの人、そういうところありましたから。安心してください。コチラの大株玉の方が規模は上ですよ」
「……」
「それに私が裏切ったと? そもそも私はほとんど貴方と共にいて、離れるときは見張りを付けられてませんでしたか? 悲しいですね。まだ信頼してもらえないとは……」
「…………………………冗談だよ」
ピンク船長はニッカリ笑って、友達のように若造と肩を組むと、爽やかに笑った。
「悪い悪い! ナーバスになっちゃってさ!」
笑いならポンポンと肩を叩いてくるピンク船長に、若造は内心汗を掻きながら、氷の貴公子の顔に愛想笑いを浮かべた……。
――――――――――――――――――――――――
どーも私です。
とうとうダンジョンの戦争が始まったようですね。
元ダン長達は大株玉の力で、極々小さな場所を占領。そして通信でピンク船長と顔合わせをしたようです。
あ、ピンク船長笑ってるけど、内心ブチ切れてんなぁ。分かるよ〜? そういうの。
私達?
「うぇ〜い、カンパーイ!」
「……うぇい」
そんな二人の後ろの壁を背に、お菓子を広げてジュースで乾杯してますけど? いえ〜いピンク船長見てる?
いやまぁ、コッチも見てるしかねぇし……。
なんか盛り上がってるダンジョンさん達を尻目に、お菓子の包み紙を開けて口に入れる。
「あもあも……お、チョコ味」
「……むちゃむちゃ」
さぁ元ダン長達〜頑張ってダンジョンを取り戻すのよ〜!
「ところで幼女ちゃん。聞いていい?」
「……ものによる」
口の中のお菓子をジュースで流し込んで、幼女ちゃんに視線を送る。
「なんでキミ、あの大株玉を自分の物にしなかったんだい? 欲しがってたし、チャンスならいつでもあっただろ?」
「……んぐんぐ、かんたんだよ。……ムリだったから」
「おん? そなの?」
「……うん、あの人工コア。ロックが掛かってた」
幼女ちゃんの言葉に、私は腕を組んで考える。
う〜ん、ロックねぇ。違和感……というか、そんなのキミなら直ぐに解けそうってのは、幼女ちゃんに対するハードルが高すぎるのかな?
そんな私の態度に、幼女ちゃんは面倒くさそうにため息を吐いた。
「……じっさい、解くだけなら簡単だよ」
「ん〜……」
「……ただ解いた瞬間、壊れるようになってる」
「おっと、そういうもんなんだ……」
だが幼女ちゃんは首を横に振る。
「……これたぶんあの女、母ぁがやったね。管理者権限が本体に食い込んでる……」
「マミィ〜が?」
幼女ちゃんは天然コアを取り出して見せてくる。
「……人工コアじゃなかったらコレを使って演算出来たけど……相性わるいんだよね」
「おっと、今日は情報の大盤振る舞いだね」
「……まえはソッチの情報をさぐったからお返しのつもり。人工コアって、たぶん元は天然コアからできてる。コレとは別の……だから相性わるい……」
よく分からんけど、ゲームのハードで、別会社のハードソフトを動かそうとしてるみたいなもんかな?
んで幼女ちゃん自体の力で解こうとすると壊れちゃうと……。
なるほど幼女ちゃんと相性悪いワケだ。
「んでぇ、あの二人が動かせるってことは……」
「……うん、あの大株玉の管理者がアイツらだから。だから私は二人の持ち物だとおもってた」
「マミィ〜ってたぶん、帰る気なかったよね?」
「……だろうね。母ぁはアイツらが思ってるより腕をかってた」
ちょっと面白いのはマミィ〜もピンク船長も、どっちも自分が負けたと思い込んでることだね。
「自分は一からダンジョンを作ろうとしてたしね。たぶんマミィ〜の誤算は、またピンク船長が攻めてきたことかな? 話を聞く限り、マミィ〜はダンジョンを押し返して終わったと思ったんでしょ。そして自分が追われて身を隠せばいいってね」
「……うまくやりすぎて死んだことになってるけどな」
あの大株玉はマミィ〜の二人に対する餞別だったのかな? 何かがキッカケで開く予定だったんだろ。
幼女ちゃんが無理やり扉を開いたけどね!
「ま、とにかく私らは後ろで鑑賞させてもらいましょ」
「……うん、菓子でもくって見てればいい」
「つーことで2杯目カンパーイ!」
「……かんぱ〜い」
――――――――――――――――――――――――――
これから戦争が始まるというのに、後ろでお菓子パーリーを始めた幼女二人。
沸き立つような闘志を空かされた気分の元ダン長は、モッチャモッチャとお菓子を食う小悪魔に、溜め息を吐いた。
「……今更ですけど」
「ええ、そうですわね」
「私達、完全にあの二人に乗せられてますよね?」
「ワタクシもそう思いますわ……」
「まぁいいんですけどね」
「結局最終的に決めたのはワタクシ達ですわ……」
でも二人は、何故コイツらが『小悪魔』と呼ばれるか、少し分かった気がした……。




