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お代は頂いている



 どーも私です。

 凍った果物って食べた事あります? 私は今食べてます。わりとシャリシャリして美味いッスわ。こうクセになる感じ。


「暑い時とか良さそうよね」

「……地上は雪ふってるくらい寒いけどね」


 幼女ちゃんと二人で凍った果物をシャクシャクシャクシャク齧ってると、リスにでもなった気分になるね。


 この冷凍フルーツってあれよ……若造兄ちゃんの賄賂フルーツ盛り合わせを冷凍スキマで凍らせたヤツ。

 結局食いきれなくてさ、それ以外の料理も大量に残ったから凍らせてるわ。


「お二人さんも食べるッスか?」


 私は凍った果物を手に取って、壁際のカビでも生えてきそうな湿気を振り撒いている元ダン長達に向ける。


「…………結構です」

「……」


 キツネ顔は壁際に座りながら、魂の抜けたような顔で僅かに呟く。高飛車女に至っては布団にこもって返事すらしねぇよ。

 コイツらメシ食わねぇんだけど……。


 い、陰気くせぇ……。

 ダンジョンを奪われて、若造兄ちゃんに裏切られたのが相当に応えているらしいね。

 まぁ若造は裏切ったわけじゃねぇんだろうけど、それを私達が伝えたところでねぇ?

 結局は自分の気の持ちようだからね。私達が言ったところで聞きゃしねぇだろうし、拗ねてる大人を慰める義理はないよ。


「そっすか」


 私は二人に差し出していた冷凍フルーツを、興味をなくしたようにポイっと放り投げる。


「……かぽ」

「ナイスキャッチ」


 それを幼女ちゃんは口でキャッチして、モッモッと口を動かした。

 ほれ、この子くらい太々しくねぇとダメよ。

 メシを抜いて状況がよくなるなんてねぇんだからさ。

 幼女ちゃんは捕まろうが食える時に食うくらいの逞しさがあると言うのに、お前らときたら……。


「さて、どうしたもんかねぇ……」


 と言うのも実は私達、行動に困ってます。……身動きが取れないとかじゃなく、行動指針的に何をするかってこと。


 本当なら今頃、ダンジョンの休憩室に向かって幼女ショップを開店するところなんだけどさ。ぶっちゃけあんまり行く必要がなくなった……というかさ。


 無理にお金稼ぎをする必要がなくなったんだよね。


 若造兄ちゃんからの賄賂の『噴水フルーツ盛り合わせ』の下から出てきたお金が、わりと多かったらしくてね。幼女ちゃん的には目標金額を大幅に超えたらしいのよ。


 まぁお金なんて、あればある程いいに決まってんだけど、幼女ショップだって危険があるから無理にやりたいもんでもないわけでぇ……。

 だからお金に余裕がある今、ダンジョンの情勢が不安定だし無理に出歩く必要はないんだよね。


「結局、若造兄ちゃんの賄賂ってどーするよ……」

「……もらっとけ」


 ま、そうよね。

 つかね……若造兄ちゃんってこのお金で、私達に何を期待してんのかってところだよね。

 

 まず間違いないのは、別に若造は『ダンジョンを乗っ取られたこの状況をなんとかして欲しい』なんて私達に求めてないんだよね。


「というか求められても困る」


 私達に出来ることなんてないんだからね。そんなもん私達に関係ねぇし、お前達の問題だろ。

 もし求めてるとしても、そんな商品なんて用意出来ねぇからつっ返すよ。

 まぁ若造的にはこの二人を、上手いこと保護よろしくお願いしますってところだよね。


「その報酬がこれってことなんだろうけど……」


 いや、勝手に報酬送りつけてくんなよ……特殊詐欺の一種か?


「ん〜……もう面倒臭えから金だけ頂いて逃げちまう?」


 横目で聞いてみたら、幼女ちゃんは少し考えた後、口を開いた。


「…………オバケ姉ちゃんにまかせる」


 おっと、まさかのここで私に全判断を委ねるか……。


「……すきにしていいよ。しったことじゃないって報酬もって逃げるもいいし、ぎりで報酬分くらい働くでもいい……まかせる」


 ふむ、そうかい?

 ほんと、どうしたもんかね。

 幼女ちゃんはジーっと私を見て言葉を待ってる。


「はぁ、とりあえず報酬分くらい成り行きを見守るか」

「……わかった」


 押し付けられた報酬とはいえ、流石に敵対してない若造兄ちゃんからの報酬を盗んで逃げるのは寝覚めが悪い。

 だったら報酬だけ置いて逃げてもいいけど……まぁ……そのタイミングじゃねぇな。脱出するだけならいつでも出来るし。


「……」


 とか思ってたら、幼女ちゃんがスクっと立ち上がってペタペタと壁際の二人に近づく。

 お、なんだい? もしかして二人を励ま――


「ぐぇッ!!」


 ………………おい、コイツ高飛車女が寝ている布団に蹴り入れたぞ。え、急なバイオレンスどーした。

 牢屋の先輩である自分に挨拶しなかったから怒ってんのか? 可愛がりってやつか?

 キツネ顔もビックリした顔で目を見開く。


「な、なに!?」


 高飛車女は布団を跳ね上げて、少し痩せた顔を出すと、幼女ちゃんだと分かって睨みつけた。


「なにすんのよ……」

「……メシを食え」


「アンタに関係ないでしょ……放っておいてよ」

「……報酬分ははたらくと決定した。できるだけの品質維持をこころがける」


 備品かな? 人権とか知らない? 知らねぇか!

 幼女だもん、難しいこと習ってないよね!

 今まで会ってきた大人も人権知らなかったし。

 幼女ちゃん的には『お小遣いあげるから、これ出来るだけ壊れないようにしてて』って言われたくらいの気持ちだよね!

 


 ここで会議室の扉が開いた。

 

 牢屋内の視線が集まる。入ってきたのは二人のピンクの制服を着た女だ。

 

「え、誰? もしかしてキツネダン長様、いかがわしいお店でも注文した?」


 キツネ顔は私の言葉に首をブンブン横に振って、何を言い出すんだとばかりに狼狽する。

 ……い、いや。だってピンクの制服とかいかがわしい店のお姉さんに見えてさぁ……。

 

 ピンク制服の女達は、台車を押して食事を持ってきたようだ。牢屋内の私達なんて居ないかのように、黙々と食事を並べて出て行った。


 ん〜……たぶん、ピンク船長の部下だな。ダンジョンの職員というよりは、造船所からやってきた自分の部下ってところだろ。


 こりゃ未だに、元々のダンジョン幹部は若造兄ちゃん以外信用されてないと見たね。だから信用できる造船所側の部下を連れてきたんじゃねぇかな?


 ダンジョン幹部に元ダン長の食事提供係は任せられないわな。


「……食事がきた……くえ」

「……」


 幼女ちゃんはテーブルに並べられた食事を指差す。

 けど高飛車女は無視して布団にくるまった。


「……」


 それを見た幼女ちゃんは表情も変えずに、まるでサッカーボールを蹴り上げるかのような綺麗なフォームで足を上げる。

 なんかこの子、やる気満々なんだけど……。お小遣い貰ったから頑張るいい子なんです!


「……もう、いいんです」


 ボソリと呟いたキツネ顔の言葉に、幼女ちゃんは足を振り上げたままピタリと止まる。


「……私達は負けました。部下にも裏切られた……クイック君が私を見限るのも当然です。私は……ダン長に相応しくない……もう、私達のことは放っておいてください……」


 静かに呟いてキツネ顔は膝に顔を埋めた。


 ……私達が若造兄ちゃんは裏切ってないって言ってもダメなんだろうね。今のこの二人はソレを信用できない。

 若造の信用が足りないんじゃない……私達の信用が足りないんだよ。

 

 もうこの二人の心は折れてる。


 幼女ちゃんは、無言で冷めた目を二人に向ける。

 ん〜、そだね。キミはちょっと引くほど精神が強いからねぇ……。この二人の気持ちは分からんよな。


 幼女ちゃんはテーブルの食事を手に取って、私の元に帰ってきた。オッケーお疲れさん。キミはやれるだけやったよ。

 食べたくないってんならこれ以上は無理じゃんね。


「あの二人も腹が減ったら最低限は食うんじゃない? 今は放っておけばいいッスよ」

「……しまって」


「あん?」


 幼女ちゃんは手に持ったお盆を私に差し出して口を開く。

 仕舞うって……食わねぇのそれ?

 まぁいいけどさ。言われるままに私はお盆を食料スキマに突っ込む。


「ちょ、何してんのキミ……」


 そんな私の食料スキマに幼女ちゃんが上半身を突っ込んでゴソゴソし始めた。えっと、キミにアクセス許可してんのはそのスキマじゃねぇから、あんまりそう言うことして欲しくないんだけど……。


 そして勝手に取り出してきた物をテーブルに置いて、今度は牢屋に作った私達が過ごす用のスキマに消えていった。こっちは幼女ちゃんが悪魔のネックレスでアクセスできる方のスキマだね。


 そして彼女は出てくると、おもむろにテーブルに『卓上コンロ』を設置した。

 あ〜それ、この牢屋で出た小鍋セットに付いていたコンロか……。盗んでたんだね。


 それを二つ並べた幼女ちゃんは、さっき食料スキマから取り出した『冷凍鍋』を掛けて温めはじめる。


「……なるほどね。教えるの?」

「……いや、めんどうくせぇ……食べたければ勝手に食えばいい……」


 やがて冷凍鍋は解凍され、グツグツと音を立てはじめる……。


「……」

「……」


 匂いにモゾリと高飛車女の布団が動く……。

 ピクリと身じろぎしたキツネ顔がゆっくりと顔を上げた。


「寒い時にはこれッスね」

「……うむ」


 やがて鍋は沸騰しパカリと蓋をとった時、テーブルの前には元ダン長ズが表情をなくして突っ立っていた。


 幼女ちゃんは器にソレを注いで無言で差し出す。


 まるでプログラムされたロボットのように元ダン長は座るとゆっくりスプーンで食べはじめた。


 やがてガツガツと食べ始めた二人を他所に、私達はゆっくりと『マミィ〜のシチュー』を食べる。


 なるほどねぇ〜、このシチューは二人にとっても食べ慣れた味だろうよ。先代(マミィ〜)のお手製なんだからね。


「……」

「……グス……グス……」


 キツネ顔は無言で一心不乱にシチューを掻き込み。

 高飛車女はボロボロと顔を涙に濡らしながら、スプーンを動かす。


 あれだけメシを食わなかった二人が単純なもんだね〜。いや、これで二人が元気になるかどうかは分からんけどね。

 

 ……人は幼女ちゃんが思ってるより強くないと思うよ。

 

 でもキミはそう思ってないらしい……。

 私はそう簡単に立ち直るとは思えないね。

 賭けるかい?


 

 

「…………キシシ」

「…………オホホ」


 …………オーケー私の負けだ。

 

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― 新着の感想 ―
マミィ〜のシチューで精神的シチューを文字通りに再現するのはホント草ァ! オバケ姉ちゃんの予想に反して2人が立ち直ったのは、精神的シチューを食って先代ダン長のマミィ〜が生存しているって悟ったからか?
まさかここであのシチューがでてくるとは・・・。
シチューはマミィ〜の味〜♪ シチュー久しぶりに食べて小悪魔がマミィ〜と繋がりが有ると気付いた?
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