9話「死んだ人からの相談」
私は、何度もその手紙を読み返した。
『私は、本当に病気で死んだと思うか?』
何度読んでも、意味は変わらない。
アルの字だ。
間違いない。
けれど、アルは死んでいる。
「……どういうこと?」
私は椅子に座ったまま、手紙を見つめた。
誰かがアルの字を真似した?
それとも、死ぬ前に書いていた?
後者なら、なぜこんなことを書いたのだろう。
私はもう一度、最初から読み直した。
けれど、手紙は短かった。
質問は一つだけ。
私は、本当に病気で死んだと思うか。
それだけだった。
「相談……なのかな」
口にしてから、私は少し笑った。
あの人なら、ありそうだった。
いつもそうだった。
答えを押しつけず、私に考えさせる。
今回も同じなのかもしれない。
私は紙の余白を見た。
「……じゃあ、答えればいいのか」
私はペンを取った。
けれど、すぐに手が止まった。
病気で死んだと思うか。
私はアルの死について、何も知らない。
発表されたことなら知っている。
国王は急な病に倒れ、亡くなった。
それだけだ。
だから私は、知っていることと、知らないことを紙に書き出した。
知っていること。
アルは、自分の体の調子がおかしいと言っていた。
医者にも診てもらっていると言っていた。
そして、自分が自分でなくなることを恐れていた。
知らないこと。
何の病気だったのか。
いつから悪くなっていたのか。
死ぬ直前、何があったのか。
私はペンを置いた。
「これじゃ、答えようがない」
私は手紙をもう一度見た。
そこで、ふと気づいた。
この手紙を書いたのは、いつなのだろう。
アルが死ぬ前なら。
あの人は、自分が死ぬことを予想していたことになる。
でも、死んだあとに誰かが書いたのなら。
話はまったく違う。
私は手紙を裏返した。
封筒にも、紙にも、日付はない。
誰が届けたのかも分からない。
私はしばらく考えた。
そして、紙の下に一行だけ書いた。
『病気で死んだと、私は断言できません』
そこまで書いて、手を止める。
続けて書いた。
『でも、病気ではないとも断言できません』
それが今の私に言えることだった。
私はその紙を封筒に戻した。
「これ、どうすればいいんだろう」
返事を出す相手は、もういない。
そう思ったときだった。
店の扉が開いた。
「すみません」
「はい」
若い男が入ってきた。
「こちらに、手紙が届いたと聞いたのですが」
「手紙?」
「国王陛下からのものです」
私は黙った。
「……どうして、それを?」
「陛下から預かっているものを、順番に届けています」
「誰に?」
「それは分かりません」
男は困ったように笑った。
「私は届けるよう命じられただけです」
私は手紙を見た。
アルは、死ぬ前に何かを準備していた。
そう考えるのが一番自然だった。
けれど。
それなら、なぜ私はこの手紙を受け取ったのだろう。
国王としてではなく。
アルとして。
相談相手として。
私は手紙を机の引き出しにしまった。
「分かりました」
男は一礼して、店を出ていった。
私は一人になる。
静かな店の中で、引き出しを見つめた。
死んだ人から相談が届く。
普通なら、ありえない。
でも。
私は知っている。
あの人は、死ぬ前から「死んだあとも相談相手でいてくれ」と言っていた。
なら、私がやることは一つだ。
「……答えればいいんだ」
私は引き出しを開けた。
手紙を取り出す。
そして、その横に新しい紙を置いた。
アルが何を知っていたのか。
なぜ自分の死を予想していたのか。
私は、まだ何も知らない。
だからこそ。
知っていることと、知らないことを、一つずつ分けていく。
それが、あの人との約束だった。
私はペンを握った。
「さて」
死んだ王様。
今日の相談は、ここからだ。




