↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/24

8話「王の死」

 アルが死んだ。


 その知らせを聞いたのは、朝だった。


「国王陛下が……?」


 店の前で、隣の店の主人が新聞を広げていた。


「今朝、発表されたらしい」


「何で……?」


「急な病気だそうだ」


 私は何も言えなかった。


 つい数日前まで、私の店に来ていた。


 いつもの椅子に座って、いつものように相談していた。


 そして最後に、私に頼んだ。


 ――私が死んだあとも、相談相手でいてくれ。


 まさか、それが本当に最後になるなんて。


「……急な病気って」


 私は呟いた。


 アルは、自分の体がおかしいと言っていた。


 でも、死ぬとは言っていなかった。


 いや。


 言っていたのかもしれない。


 自分が自分でなくなることを恐れていた。


 だから、あんな頼みをした。


 私は店を閉め、王宮のある方向を見た。


 いつもなら遠くに見える王宮の屋根が、今日は妙に近く感じた。


 その日から、街の空気が変わった。


 王が死んだ。


 その事実だけで、人々は不安になる。


 市場では次の王の話が出ていた。


 兵士たちはいつもより忙しそうに歩いていた。


 店に来る客も、王の話をする。


「まだ若い王太子が継ぐんだろう?」


「国は大丈夫なのかね」


「陛下は本当に病気だったのか?」


「余計なことを言うなよ」


 私は黙って聞いていた。


 誰も、本当のことを知らない。


 私も知らない。


 ただ一つだけ、知っていることがある。


 アルは、自分の死を予想していた。


 だから、あの相談をした。


 それが頭から離れなかった。


 数日が過ぎた。


 店を開けても、客が来ない時間が増えた。


 私は何度も、王宮のほうを見た。


 それでも何も起こらない。


 アルはもういない。


 そう思い始めたころだった。


 店の扉が叩かれた。


「はい」


 開けると、見知らぬ男が立っていた。


「こちらに、リゼさんはいらっしゃいますか?」


「私ですけど」


 男は一通の封筒を差し出した。


「これを」


「私に?」


「はい」


 受け取った封筒には、私の名前だけが書かれていた。


 差出人の名前はない。


 私は封筒を裏返した。


 何もない。


「誰からですか?」


「分かりません」


「分からない?」


「私も届けるよう頼まれただけです」


 男はそれだけ言うと、帰っていった。


 私は扉を閉めた。


 嫌な予感がした。


 封筒を机の上に置く。


 しばらく開けられなかった。


 けれど。


 これを私に送る人間を、私は一人しか知らない。


 私は封を切った。


 一枚の紙が入っていた。


 そこには、見慣れた字が並んでいた。


 私は息を止めた。


 アルの字だった。


 そして、その一行目を読んだ。


『私は、本当に病気で死んだと思うか?』


 手が止まった。


「……何これ」


 私は紙を見つめた。


 王は死んだ。


 その死因は病気だと発表された。


 なのに。


 死んだはずのアルが、私に問いかけている。


 私はもう一度、その文章を読んだ。


『私は、本当に病気で死んだと思うか?』


 胸の奥が、嫌な音を立てた。


 あの日の言葉が蘇る。


 ――私が死んだあとも、相談相手でいてくれ。


 私は手紙を握りしめた。


 アルは、死ぬ前から何かを知っていたのだろうか。


 それとも。


 ただの相談だったのだろうか。


 答えは、まだ分からない。


 でも、一つだけ確かなことがあった。


 私はもう、アルの相談相手ではないと思っていた。


 王は死んだ。


 だから、終わったのだと思っていた。


 けれど。


 死んだ王から、次の相談が届いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。