10話「王太子」
王から手紙が届いてから、三日後。
私は王宮へ呼び出された。
「……どうして私が?」
目の前に立つ王宮の使者は、何も答えなかった。
「王太子殿下がお待ちです」
それだけだった。
私はため息をついた。
死んだ王の相談相手をしていた。
その息子に呼び出された。
どう考えても、嫌な予感しかしない。
案内された部屋には、一人の青年がいた。
窓際に立ち、外を見ている。
「リゼか」
「はい」
青年が振り返る。
その顔を見た瞬間、私は気づいた。
アルに似ている。
目元が、よく似ていた。
「座ってくれ」
「失礼します」
私は椅子に座った。
青年も向かいに座る。
「私はレオンだ」
「存じています」
「そうか」
短い沈黙。
レオンは私をじっと見ていた。
「父と、よく会っていたそうだな」
「……はい」
「何を話していた?」
私は答えなかった。
レオンの目が細くなる。
「答えられないのか?」
「相談内容は秘密です」
「相手は国王だった」
「それでもです」
「父が死んだ今でも?」
「はい」
レオンは黙った。
怒っているのかもしれない。
でも、私は約束した。
アルが死んだあとも、相談相手でいる。
相談相手は、聞いたことを勝手に話す人ではない。
「父は、何か言っていなかったか?」
「何についてですか?」
「私についてだ」
私は少し考えた。
「息子さんのことを心配していました」
レオンの表情がわずかに動いた。
「それだけか?」
「それ以上は言えません」
「父は、私をどう思っていた?」
「それも、私からは言えません」
「なぜだ」
「本人に聞いてください」
「もう死んでいる」
「……そうですね」
レオンは拳を握った。
「父は、最後まで私に何も話さなかった」
私は黙って聞いた。
「国のことも、王宮のことも。私には何も言わなかった」
「そうだったんですか」
「なのに、君には話していた」
「話していたこともあります」
「だったら教えてくれ」
「できません」
レオンは私を睨んだ。
「父が何を考えていたのか、私は知る必要がある」
「そう思うなら、知ろうとするのはいいと思います」
「どうやって?」
「自分で考えてください」
「……君は」
レオンは苛立ったように息を吐いた。
「父にも、そんなことを言っていたのか?」
「はい」
「王相手に?」
「王相手でも、相談者ですから」
レオンはしばらく黙っていた。
やがて、少しだけ視線を落とした。
「父は、君に何を相談していた?」
私は答えなかった。
代わりに、別のことを言った。
「一つだけ言えます」
「何だ?」
「アルさんは、あなたのことを気にしていました」
「……」
「それだけです」
レオンは顔を上げた。
「私を?」
「はい」
「何を?」
「そこから先は、秘密です」
レオンは目を閉じた。
長い沈黙のあと、低い声で言った。
「分かった」
「……はい」
「今日は帰っていい」
私は立ち上がった。
部屋を出ようとしたとき、レオンが背後から言った。
「リゼ」
「はい?」
「父は、本当に病気で死んだと思うか?」
私は振り返った。
アルから届いた手紙を思い出す。
『私は、本当に病気で死んだと思うか?』
偶然なのだろうか。
私は少し考えてから答えた。
「分かりません」
「……」
「私は、まだ何も知らないので」
レオンは何も言わなかった。
私は一礼して、部屋を出た。
廊下を歩きながら、私は考えていた。
アルの死。
あの手紙。
そして、息子であるレオンの言葉。
少なくとも一つだけ、分かったことがある。
この人も、父親の死に疑問を持っている。
そして。
王宮の中には、私が知らない何かがある。
私は手紙の入った鞄を、そっと握った。
死んだ王の相談は、まだ終わっていない。




