↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/30

13話「王のそばにいた人間」

 翌朝。


 私は、いつものように店の掃除をしていた。


 床を掃いて、棚を拭く。


 何も変わらない朝だった。


 けれど、机の上には一通の手紙がある。


 アルベルトからの手紙。


 もちろん、本人が今ここにいるわけではない。


 死ぬ前に書かれ、誰かに託されたものだ。


 私は封を切った。


 短い文章だった。


『もし、王のそばにいた人間が王を殺そうとしたのなら、何を聞く?』


「……また、それですか」


 私は思わず呟いた。


 前の手紙もそうだった。


 答えを直接書かない。


 私に質問をする。


 まるで、生きているときと同じだった。


 私は椅子に座った。


「王のそばにいた人間……」


 まず思いつくのは、王妃。


 王太子。


 侍従。


 医師。


 宰相。


 護衛。


 他にもいる。


 王宮には、私が名前すら知らない人間が大勢いる。


 私は紙を一枚取り出した。


 そこに、思いつくまま書いていく。


 王妃。


 王太子。


 医師。


 侍従。


 宰相。


 護衛。


 書き終えてから、私は首を傾げた。


「これじゃ、誰でも怪しいじゃない」


 王のそばにいた。


 それだけで疑うなら、王宮にいる人間は全員疑わしくなってしまう。


 私は紙に書いた名前を一つずつ消していった。


 王妃。


 殺す理由があるかどうか、私には分からない。


 王太子。


 王位を継ぐ立場だから、疑う理由はある。


 医師。


 毒を使える可能性がある。


 宰相。


 国の命令に関わる立場だ。


 護衛。


 王に近づくことができる。


 結局、消せない。


「……だから、何を聞けばいいのよ」


 私はため息をついた。


 そのとき、店の扉が開いた。


「相談屋さん」


 レオンだった。


「またですか?」


「悪いか?」


「いえ」


 私は椅子を勧めた。


 レオンは座るなり、机の上の紙を見た。


「これは?」


「陛下からの手紙です」


「父から?」


「はい」


 レオンの顔が強張る。


「何と?」


 私は少し迷った。


 秘密にする必要はない。


 けれど、内容をそのまま渡す必要もない。


「王のそばにいた人間が、王を殺そうとしたのなら、何を聞くか、と」


 レオンが黙った。


「……父は、自分が殺されると思っていたのか?」


「分かりません」


「また、それか」


「本当に分からないんです」


 レオンは手紙を見つめた。


「誰かを疑っていたんだろうか」


「それも分かりません」


「父は、俺にも何も言わなかった」


「陛下は、誰かに相談することで考えを整理する人でした」


「……父らしいな」


 レオンは苦笑した。


 そして、紙に書かれた名前を見る。


「この中なら、誰を疑う?」


「私は誰も疑いません」


「どうして?」


「理由がないからです」


 レオンが私を見る。


「医師は毒を扱えるかもしれない。宰相は国政に関わる。護衛は陛下の近くにいた。あなたは王位を継ぐ」


「つまり、全員怪しい」


「いいえ」


 私は首を振った。


「全員、怪しく見えるだけです」


「同じじゃないのか?」


「違います」


 私は紙を指で叩いた。


「怪しいことと、悪いことをしたことは別です」


 レオンは黙った。


「だから、まず聞くべきなのは、その人が何をしたかです」


「何をしたか……」


「いつ陛下と会ったのか。何を話したのか。何を知っているのか」


 私はそこまで言って、手を止めた。


「それと」


「それと?」


「陛下が亡くなったことで、何が変わったのか」


 レオンの表情が変わった。


「何が変わったか?」


「はい」


 私は頷いた。


「人が死んだことで得をする人がいるなら、その人については少し詳しく調べてもいいと思います」


「なるほどな」


 レオンは立ち上がった。


「分かった。調べてみる」


「ただし」


「まだあるのか?」


「調べた結果を、最初から犯人だと思って見ないでください」


「……難しい注文だな」


「私も苦手です」


 レオンが少し笑った。


 そして、店を出ていった。


 私は一人になった。


 机の上には、アルベルトの手紙。


 私はもう一度、その一文を読む。


『もし、王のそばにいた人間が王を殺そうとしたのなら、何を聞く?』


「何を知っていたのか、か……」


 その言葉が妙に引っかかった。


 王のそばにいた人間。


 王の死を知っていた人間。


 王の死で何かが変わった人間。


 私は紙に、もう一つだけ書き足した。


 ――誰が、得をした?


 書いた瞬間。


 外から、馬車の音が聞こえた。


 王宮からの使いだった。


 その手には、一枚の書類が握られていた。


「相談屋のリゼさんですね?」


「はい」


「王宮からです」


 私は書類を受け取った。


 そこには、アルベルト国王の名が記されていた。


 命令書だった。


 ただし。


 その命令が出されたのは、陛下が亡くなった翌日だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。