12話「息子は何を知っている?」
アルベルト国王の死について調べ始めてから、数日が経った。
けれど、私には何も分からなかった。
王宮のことは、私のような町の人間には遠すぎる。
誰がいつ陛下の部屋に入ったのか。
誰が食事を運んだのか。
誰が最後に話をしたのか。
聞きたいことはいくらでもある。
でも、私が王宮に行けば、すぐに誰かが警戒する。
そんなときだった。
店の扉が叩かれた。
「相談屋さん」
聞き覚えのある声だった。
私は扉を開けた。
「……レオン王太子殿下」
「その呼び方はやめてくれ」
「でも」
「人に聞かれたら困る」
レオンは周囲を確認してから店の中へ入った。
以前、王宮で会ったときとは違う。
今日は一人だった。
「どうしたんですか?」
「父のことを調べているんだろう?」
「はい」
「なら、俺のことも調べるんだろうな」
少しだけ笑った。
けれど、その笑顔はすぐに消えた。
「俺は父を殺していない」
「……はい」
「信じるのか?」
「分かりません」
「即答か」
「分からないことを、分かったとは言えません」
レオンは苦笑した。
「相変わらずだな」
そう言って、椅子に座る。
「父と俺は、仲が悪かった」
「聞きました」
「誰から?」
「あなたからです」
「……そうだったな」
レオンは視線を落とした。
「最後に父と話したのは、死ぬ二日前だ」
「何を話したんですか?」
「国のことだ」
「喧嘩を?」
「まあな」
短く答えた。
「父は俺に王としての判断を求めた。俺は、まだ王じゃないと言った」
「それで?」
「父は怒った」
レオンはしばらく黙っていた。
「俺も怒った」
私は何も言わずに聞いた。
「そのまま部屋を出た。それが最後だ」
「……それを後悔していますか?」
「している」
答えは早かった。
「だからといって、父を殺したことにはならない」
「はい」
「なのに、王宮では俺を疑っている人間もいる」
「どうしてですか?」
「王位を継ぐのが俺だからだ」
私は黙った。
確かに。
王が死ねば、次の王が得をする。
それだけを理由にするなら、レオンは疑う対象になってしまう。
「それに」
レオンが続けた。
「父と俺の関係を知っている人間は多い」
「なるほど……」
「だから聞きたい」
レオンが私を見る。
「父は、俺のことを何か言っていなかったか?」
私は一瞬、答えに迷った。
「……相談の内容については、話せません」
「そう言うと思った」
レオンは怒らなかった。
「だが、一つだけ教えてくれ」
「何でしょう?」
「父は、俺をどう思っていた?」
私は答えられなかった。
それは相談の内容そのものだった。
けれど、アルベルトが私に話した言葉を思い出す。
『息子と、うまく話せない』
『それができない立場なんだ』
私は言葉を選んだ。
「陛下は、あなたのことを気にしていました」
レオンが顔を上げた。
「それだけか?」
「それ以上は言えません」
「……そうか」
レオンは俯いた。
「父は、俺を嫌っていたと思っていた」
「そうなんですか?」
「ああ」
しばらく沈黙が続いた。
「だから、父が俺のことを気にしていたと聞けただけでも……少し違うな」
レオンは立ち上がった。
「今日は、それだけだ」
「待ってください」
「何だ?」
「一つ、私から聞いてもいいですか?」
「答えられることなら」
「陛下が亡くなった日のことです」
レオンの表情が変わった。
「あなたは、その日どこにいましたか?」
「王宮にいた」
「ずっと?」
「いや」
レオンは少し考えた。
「午前中は執務室にいた。その後、昼過ぎに王宮を出ている」
「どこへ?」
「街へ行った」
「一人で?」
「護衛はいた」
「陛下が亡くなったと知ったのは?」
「夕方だ」
私は頷いた。
「分かりました」
「それだけか?」
「はい」
レオンは扉へ向かった。
そして、そこで立ち止まった。
「……なあ」
「はい?」
「父は、本当に俺を気にしていたのか?」
私は少し考えた。
「少なくとも、どうでもいいと思っていた人の話し方ではありませんでした」
レオンは何も言わなかった。
ただ、小さく頷いた。
扉が閉まる。
私は一人になった。
そして、机の上に置いていたアルベルトの手紙を見た。
私はまだ、何も話せない。
でも、調べることはできる。
レオンが王になるから得をする。
父親と仲が悪かった。
最後の会話も喧嘩だった。
それだけなら、確かに疑う理由にはなる。
けれど。
「……それだけじゃない」
私は呟いた。
アルベルトは、最後まで息子のことを相談していた。
それが何を意味するのか。
私は、まだ知らなかった。




