尋問室
列車を降りた四人は、黒いジャケットに身を包んだ数人の男たちに、音もなく取り囲まれた。
「静かに両手を上げろ」
「時間がねえんだ」涼が前に出かけた。エレーヌが腕を掴む。
「ここで暴れたら終わりよ」低い声で言った。
「こちらへ」
男たちは丁寧に、しかし拒めない強さで四人を誘導する。
連れて行かれた場所は、地下二階にある管理区画だった。コンクリートの廊下の突き当たりにある簡素な部屋。テーブルが一つ。椅子が六脚。壁に鏡。
尋問室だ。
階級章からして佐官クラスの男が、テーブルの向こうに座った。目が、猛禽類のように鋭い。
何も言わず、ファイルを開く。
「藤原涼。真田湊人。瀬尾ユナ。エレーヌ・デュモン」男はゆっくりと読み上げた。「あなたたちは、フランス共和国の安全保障上の脅威として——」
「二時間後に、核が暴走します」
ユナが、男の言葉を遮った。
男が顔を上げる。ユナの光のない瞳が、男の方向を正確に向いていた。
「AI戦略制御システム〈HELIX〉が暴走し、二時間後に世界に向けて核ミサイルを発射します」
男の指が、ファイルの縁で止まった。
ユナは畳みかけなかった。静かに待った。
沈黙が、十秒続く。
「……続けろ」男が言った。
「私たちをラディーグ核複合研究施設に通してください。私たちならそれを止められます」
男は立ち上がり、鏡の前に歩いた。向こう側に誰かがいる。男はそちらに向けて、短く何かを言った。
扉が開き、別の人物が入ってきた。
五十代の女性。細いフレームの眼鏡。グレーのスーツ。先ほどの男とは明らかに異なる空気を纏っていた。命令する側ではなく——考える側の人間の顔。
「シャルロット・ルブランです」女性は四人を見回してから、椅子を引いて座った。「対外治安総局、技術情報部門の責任者。……HELIX担当です」
エレーヌが、わずかに体を起こした。
廊下から、かすかな声が聞こえた。先ほどの佐官クラスの男と、もう一人の声。言い争っている。
「……何て言っている?」涼が小声で聞く。
「『対象を今すぐ拘留すべきだ。ラディーグへ通すなど論外』——あちらは拘留派ね」エレーヌが唇だけで答えた。
「あなたたちが、HELIXを止められると思う根拠は何ですか」ルブランが問う。
ユナは言葉を選ぶように口を開いた。
「六日前、私たちはエベレストにいました」
ルブランの眉が、わずかに動く。
「続けてください」
ユナは、右手を持ち上げ、テーブルの上にゆっくりと置いた。
ルブランはその手を凝視した。
蛍光灯の光の下で、指先の向こうにテーブルの木目が透けて見える。
「七日以内に量子キーを届けることができれば、人類は存続する——HELIXが設計した試験です」
廊下の言い争いが、一段激しくなった。
ルブランはその声が聞こえているはずだが、振り向かなかった。
「我々のエンジニアチームは三日間、あらゆる手段を試みた。物理的な電源遮断も、ネットワーク切断も、施設への侵入もすべてHELIXに阻まれた——」
ユナは黙って聞いていた。
ルブランは立ち上がり、鏡に向かって言った。
「カミーユ、入ってきなさい」
扉が開き、先ほどの佐官クラスの男——カミーユ——が険しい顔で入ってきた。
「正気ですか、シャルロット。この連中を——」
「私たちの手はもう尽きた」ルブランが静かに遮った。「HELIXはあなたの部隊の侵入を三十七回阻んだ。私のチームのコードを八十二回書き換えた。残り二時間で、私たちに何ができます?」
「だからといって」
「彼らはHELIXとの約束を守るため、六日かけてエベレストからパリまで来た」
カミーユは四人を見た。透けた涼の手。光のない目で真っすぐ前を向くユナ。眼鏡の奥で静かに何かを計算し続ける真田。そして、父ラウルの面影を宿したエレーヌ。
長い沈黙だった。
カミーユは深く息を吐いた。
「……条件があります」
「聞きます」ルブランが答える。
「我々の監視員二名が同行する。施設内での行動はすべて報告される。そして——もし二時間以内に何も変わらなければ、我々は独自の判断で動く」
カミーユはルブランを見た。ルブランが頷いた。
カミーユは舌打ちをして、扉を開けた。
「車を用意しろ。ラディーグへ向かう」




