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Fランク《波魔法》を授かった俺、前世知識で世界最強へ ~最弱魔法を研究していたら、落ちこぼれ研究室まで最強になった~  作者: 秋葉 詩


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第6話 波って、重なると強くなったよな?

カイルとの模擬戦から一日。


 俺は実験区画の机に並べた木の板を見ながら、昨日の戦いを思い返していた。


「……やっぱり火力が足りない」


「今さら?」


 隣で記録用紙を広げていたセリアが顔を上げる。


「昨日、身をもって理解した」


「《炎槍》を正面から消そうとしていたものね」


「あれは無理だった」


「見れば分かるわ」


 容赦がない。


 でも事実だ。


 集束すれば《波魔法》の威力はかなり上がる。


 木板くらいなら割れる。


 反射を使えば、正面以外からも攻撃できる。


 それでもAランクの《炎槍》と真正面からぶつければ、俺の波は簡単に吹き飛ばされた。


「もっと集めれば強くなるかな」


「できるの?」


「昨日より細く集めれば」


「それで制御を失って外したら?」


「……要検証?」


「便利な言葉として使わないで」


 怒られた。


 俺は木板へ向かって波を撃つ。


 バンッ!


 板が大きく揺れた。


「今のでいつも通り?」


「たぶん」


「魔力量は?」


「昨日と同じくらい」


「数値で」


「……努力します」


 セリアがため息をつく。


 これ以上集束を強めるのも、一つの方法ではある。


 ただ、今でも距離が伸びると精度は落ちる。


 細くすればするほど狙いも難しい。


「他の方法……」


 机の端に置いてあった水の入ったコップへ目を向ける。


 水面がわずかに揺れていた。


 昨日のカイル戦。


 一発の威力では勝てなかった。


 だったら、一発じゃなければ?


「波って……重なると強くなったよな?」


 口から出た。


 セリアのペンが止まる。


「何?」


「いや、前世で習った気がするんだよ」


「またその曖昧な知識?」


「今回はわりと自信ある」


「その言葉、前にも聞いた気がするわ」


 俺はコップでは狭いと思い、近くにあった浅い水桶を持ってきた。


 両側から指先で水面を軽く叩く。


 二つの波紋が広がる。


 やがて中央で重なった。


「あ」


 一瞬だけ、水面が大きく盛り上がる。


 けれど別の場所では、逆に波が小さくなったようにも見えた。


「今の見た?」


「見たわ」


「重なったところ、大きくなったよな」


「場所によっては小さくなっていたけれど」


「……そうなんだよな」


 記憶を探る。


 高校の授業。


 波。


 二つを重ねる。


 強め合う。


 弱め合う。


「確か……タイミングが合うと強くなって、ずれると消し合う?」


「疑問形なの?」


「名前とか式は忘れた」


「いつものね」


 重要なのは覚えている。


 二つの波が重なった時、必ず強くなるわけじゃない。


 重なり方によって結果が変わる。


「試そう」


「どうやって?」


 そこで困った。


 俺の《波魔法》は連続して撃てる。


 でも、二発をまったく同時に同じ場所へ撃つのは難しい。


 右手と左手から一発ずつ――というのも試したことがない。


「……道のりを変えればいいか」


「道のり?」


 標的の木板と壁を見る。


 一発目は壁で反射させて遠回り。


 二発目は直接。


 撃つ時間をずらして、同じ瞬間に標的へ届かせる。


「できる?」


「分からない」


「でしょうね」


「だからやるんだろ」


 セリアが一瞬黙ったあと、少しだけ笑った。


「それもそうね」


 まず、それぞれ単独で試す。


 弱めの波を直接撃つ。


 机の上に置いた木製のコップが少し動いた。


 次に壁で一回反射。


 こちらも少し動く。


 どちらも壊れるほどではない。


「じゃあ、重ねる」


 俺は壁へ向かって一発目を撃つ。


 少し遅れて二発目。


 二つの波がコップへ到達する。


 ――何も起こらなかった。


「……あれ?」


 さっきまで一発でも動いていたコップが、ほとんど揺れていない。


 セリアがすぐ記録用紙へ何かを書き込む。


「今の、弱くなった?」


「たぶん」


「たぶん禁止」


「かなり弱くなった」


 面白い。


「つまり、重ねれば絶対強くなるわけじゃない」


「最初に自分でそう言ったでしょう」


「実際に消えると面白いな」


「失敗して喜ぶ人、初めて見たわ」


「失敗じゃない。弱くなる条件が一個分かった」


 セリアが俺を見る。


 少しだけ呆れた顔をしたあと、


「……それはそうね」


 と頷いた。


 そこからはひたすら時間をずらした。


 反射させる一発目。


 直接撃つ二発目。


 間隔を少しずつ変える。


 遅すぎる。


 早すぎる。


 また弱くなる。


「今の間隔、記録した?」


「したわ」


「さすが」


「あなたがしないからでしょう」


 七回目。


 二つの波が重なる。


 ガタンッ!


 コップが大きく跳ねた。


「今の!」


「さっきまでより明らかに強い」


 もう一度。


 同じくらいの時間差。


 同じ場所。


 同じくらいの魔力。


 俺は二発の波を放つ。


 パキンッ!


「……あ」


 木製のコップに亀裂が入った。


 二人で黙って見る。


「割れたな」


「割れたわね」


 単独では、どちらもコップを少し動かす程度だった。


 でも重なった瞬間だけ、結果が変わった。


「二つ分の魔力を使っただけだから、力が勝手に増えたわけじゃない」


「ええ。同じ場所へ、同じ瞬間に集められたという方が近そうね」


「なるほど……」


 集束が、空間的に散らさない方法なら。


 これは、時間まで合わせて一か所へ重ねる方法なのかもしれない。


「もう一回やろう」


「待って」


「何?」


「コップがないわ」


 机を見る。


 実験用に持ってきた木製のコップは、今ので最後だった。


「……じゃあ何か別の」


「嫌な予感しかしない」


「皿とか」


「駄目」


「板」


「許可を取ってから」


「石」


「飛び散るでしょう」


 全部却下された。


 その時、実験区画の入口から声がした。


「お前たちは朝から何をしている?」


 振り返る。


 カイルだった。


「コップを割ってる」


「何でだ?」


「研究」


「……俺との再戦は?」


「そのうち」


「そのうち!?」


 カイルが目を見開いた。


「俺は昨日からずっと次の戦い方を考えていたんだぞ!」


「俺も考えてるよ」


「コップを割る方法をか?」


「カイルを倒す方法にもなるかもしれない」


「何?」


 食いついた。


 単純だ。


「一発で足りないなら、同じ場所に二発重ねればいい」


 俺が説明すると、カイルは割れたコップを見る。


「それで本当に俺の《炎槍》に勝てるのか?」


「まだ分からない」


「分からないのか」


「だから調べてる」


 カイルはしばらく黙っていた。


 やがて腕を組む。


「なら早く完成させろ」


「何で?」


「完成したら俺が潰す」


「研究相手が増えた」


「そういう意味じゃない!」


 セリアが小さく笑った。


 俺は割れたコップを拾う。


 二つの波。


 タイミング次第では弱くなる。


 逆に、ぴったり重なれば一発より強くなる。


 まだ精度は低い。


 距離が変われば到達時間も変わる。


 動く相手なら、もっと難しい。


 それでも。


「一発で足りないなら……重ねればいいのか」


 やれることが、また増えた。


 しかも今度の発見は、攻撃を強くするだけじゃない。


 弱め合うこともできる。


 その意味に、この時の俺はまだ気づいていなかった。

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