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Fランク《波魔法》を授かった俺、前世知識で世界最強へ ~最弱魔法を研究していたら、落ちこぼれ研究室まで最強になった~  作者: 秋葉 詩


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第5話 Aランク《炎槍》

セリアと実験を始めて三日目。


「レイン」


「何?」


「昨日の記録」


「……部屋」


「取りに行って」


「今から?」


「今から」


 逃げられなかった。


 研究仲間というより監督役が増えた気がする。


 そんなことを考えながら訓練場へ戻ると、入口付近が妙に騒がしかった。


「何かあった?」


「上位クラスの実戦訓練よ」


 セリアが視線を向ける。


 訓練場の中央に、一人の赤髪の少年が立っていた。


 その正面には三つの標的。


 教師が合図する。


「始め!」


 少年が片手を前へ出した。


「《炎槍》」


 炎が集まり、一本の槍になる。


 次の瞬間。


 ドンッ!


「速っ」


 炎の槍が標的を貫いた。


 一つ目だけじゃない。


 後ろにあった二つ目まで焼き抜き、三つ目の表面を黒く焦がしている。


「Aランク《炎槍》。カイル・レーヴェンよ」


「Aランク……」


 覚醒の日に測定器へ表示された、自分の威力2を思い出す。


 差がありすぎる。


「すごいな」


「怖くないの?」


「何が?」


「自分との差」


「あるなとは思う」


 でも、それより気になることがあった。


 炎槍が出る直前。


 カイルの周囲の魔力が、一瞬だけ大きく動いたように見えた。


「……今の」


「何?」


「いや、もう一回見たい」


 ちょうど二発目。


 カイルが構える。


 魔力が集まる。


 その直前、空気というより――何か別のものが揺れた。


 炎槍が飛ぶ。


「やっぱり」


「何が?」


「撃つ前に、魔力が動いてる」


 セリアが俺を見る。


「魔法を使うなら当然でしょう」


「そうじゃなくて……」


 説明が難しい。


 《波魔法》を使うようになってから、俺は自分の魔力がどう広がるかを意識するようになった。


 集める時。


 広げる時。


 壁へ当てる時。


 その違いをずっと観察してきた。


 だからなのかもしれない。


「発動する直前だけ、揺れ方が変わる」


「揺れ方?」


「たぶん」


「また『たぶん』」


「まだ二回見ただけだから」


 その時、カイルがこちらを見た。


「お前がレイン・アークライトか?」


「そうだけど」


 まっすぐ歩いてくる。


 近くで見ると、俺より少し背が高い。


「Fランクの《波魔法》で実戦試験に勝ったと聞いた」


「一応」


「壁を使って妙な撃ち方をしたらしいな」


「妙なって」


「褒めている」


「そう聞こえないな」


 カイルは俺をじっと見る。


「一度やってみたい」


「何を?」


「模擬戦だ」


 横でセリアが小さく息を吐いた。


「カイル、あなたまた」


「何だ」


「気になった相手を見るとすぐ戦おうとするの、やめた方がいいわよ」


「魔法使いなら実際に撃ち合った方が早い」


「脳まで炎でできているの?」


「お前にだけは言われたくない」


 知り合いらしい。


 教師へ確認すると、正式な訓練として許可が出た。


「制限時間は三分。時間内にどちらかが戦闘不能、あるいは降参すれば決着。決まらなければ規定上は引き分けとする」


「三分あれば十分だ」


 カイルが即答する。


「自信あるな」


「当然だ」


 俺としても断る理由はなかった。


 さっき見えた魔力の揺れ。


 近くで確かめたい。


「始め!」


 開始と同時にカイルが構える。


 来る。


「《炎槍》!」


 速い。


「うわっ!」


 横へ飛ぶ。


 炎槍がすぐ横を通過し、背後の壁へ炸裂した。


 熱風だけで頬が熱い。


「これ、反射とか考えてる暇ないだろ……!」


 Dランクの《風弾》とは明らかに違う。


 火力も速さも桁違い。


「どうした!」


 二発目。


 俺は壁へ波を撃つ。


 反射。


 しかしカイルは避けもしない。


「《炎槍》!」


 炎が俺の波を正面から吹き飛ばした。


「嘘だろ」


「その程度か?」


「火力で消すの反則じゃない?」


「魔法で勝負しているんだ。当然だろう」


「正論だな!」


 三発目が来る。


 避ける。


 四発目。


 また避ける。


 攻撃する余裕がない。


 真正面では勝てない。


 反射も炎槍で潰される。


「レイン!」


 セリアの声。


「あと二分!」


「もう一分経ったのか!」


 このままなら何もできずに終わる。


 でも、同じ《炎槍》を何度も近くで見たおかげで、一つだけ分かってきた。


 炎槍が出る前。


 カイルの右腕へ魔力が集まる。


 そして発射のほんの少し前に、その流れが鋭く変わる。


 毎回ほとんど同じだ。


 目で炎を見るより早い。


「……これなら」


 カイルが構えた。


 魔力が揺れる。


 今。


 俺は炎槍が出る前に横へ動いた。


「《炎――」


 放たれた時には、もう射線から外れている。


「何?」


 カイルの表情が変わった。


「やっぱり!」


 見える。


 正確には、炎槍そのものが見えているわけじゃない。


 同じ魔法を何度も見たから、その直前の癖を少し掴めただけだ。


 初めて見る魔法でも同じように分かるのか。


 違う魔法を続けて使われたらどうなるのか。


 そこまでは分からない。


 今読めているのは、目の前のカイルが繰り返している《炎槍》だけだ。


 次。


 右。


 避ける。


 次は少し遅い。


 後ろへ。


「お前……」


 カイルが眉をひそめる。


「俺の《炎槍》を見てから避けてないな?」


「たぶんね」


「たぶんで避けるな!」


 初めてカイルの声が乱れた。


 でも回避できるだけじゃ勝てない。


「あと一分!」


 教師の声。


 俺は壁へ走った。


「また反射か!」


 カイルが構える。


 俺は左の壁へ波を撃った。


 カイルはその反射先を見る。


 当然、炎槍で潰すつもりだ。


 でも今回の目的は命中じゃない。


 反射した波がカイルへ迫る。


 カイルの魔力が動く。


 右腕へ集まる。


 発射直前の揺れ。


「今だ」


 その瞬間、俺は二発目の波を放った。


 狙ったのはカイルではない。


 足元の壁。


 低い位置で反射させる。


「二方向――!」


 カイルが最初の波へ炎槍を放った。


 俺の波が消える。


 でもその一瞬、視線と右腕が上へ向いた。


 二発目が下から跳ね返る。


「くっ!」


 カイルが横へ避ける。


 速い。


 完全には当たらない。


 それでも波の端が制服の脇腹を叩いた。


 バシッ!


「……!」


 カイルが一歩よろめく。


 同時に教師が腕を上げた。


「そこまで! 時間切れ!」


 訓練場に静寂が落ちた。


 俺は大きく息を吐いた。


「……疲れた」


 結局、まともに入ったのは最後の一発だけ。


 しかも直撃とは言えない。


 火力差は圧倒的だった。


 もし時間制限がなければ、たぶん先に俺の方が魔力か体力を切らしていた。


「判定は――規定上、引き分け」


 教師が告げる。


 周囲がざわついた。


 俺より、カイルの方が驚いた顔をしていた。


「引き分け?」


「三分間で決定打なし。レインは被弾なし。カイルは一撃を受けたが、戦闘継続に支障なし。規定上は引き分けだ」


 教師はそこで一度言葉を切った。


「ただし、実力が互角という意味ではない。火力、速度、継戦能力ではカイルが大きく上だ。レインはその差を三分間、判断と技術で埋めた。それが今回の評価になる」


「……そうか」


 カイルは自分の制服についた跡を見る。


 そこだけ少し埃がついていた。


 やがて顔を上げる。


「おい」


「何?」


「本当にFランクなのか?」


「そうだけど」


「嘘つけ」


「測定器に言ってくれ」


 カイルはしばらく俺を睨んでいたが、やがて口元を上げた。


「次は時間切れまで逃がさない」


「次?」


「当然だろ。引き分けのままで終われるか」


「俺は別に終わっても」


「終わらん」


 面倒な相手に目をつけられた気がする。


 でも。


 俺はさっきの感覚を思い返していた。


 炎槍そのものじゃない。


 魔法が発動する、その前。


 魔力の揺れ。


「……セリア」


「何?」


「あれ、記録できるかな」


「何を?」


「魔法を撃つ前の、魔力の動き」


 セリアの目が細くなる。


「あなた、もう次の実験を考えてるの?」


「だって気になるだろ」


 彼女は一瞬黙ったあと、小さくため息をついた。


「……分かった。付き合う」


 少し離れた場所で、カイルがそれを聞いていた。


「おい。俺との再戦より先に実験する気か?」


「うん」


「即答するな!」


 Aランク《炎槍》との初戦は、規定上の引き分け。


 だけど俺にとって一番大きかったのは、勝敗じゃなかった。


 《波魔法》は、自分が出す波だけを見る魔法じゃないのかもしれない。


 もし他人の魔力まで“波”として観察できるなら。


 もちろん今できたのは、同じ《炎槍》を何度も見て、その癖を少し掴んだだけだ。


 それでも。


 試したいことが、また一つ増えた。

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