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Fランク《波魔法》を授かった俺、前世知識で世界最強へ ~最弱魔法を研究していたら、落ちこぼれ研究室まで最強になった~  作者: 秋葉 詩


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第4話 「もう一度やって」

実戦試験が終わったあとも、俺はしばらく訓練場に残っていた。


「二回目、やっぱり下にずれたな……」


 ノアへ当てた時のことを思い返す。


 狙ったのは脇腹。


 実際に当たったのは腰の辺り。


 一回反射ならそれなりに狙えるようになったが、二回になると誤差が大きい。


「角度の問題か。それとも反射するたびに波が広がってる?」


 どちらもありそうだ。


 今すぐ壁に撃って確かめたい。


 ただ、さすがに試験終了直後の訓練場で勝手に魔法を撃つのは怒られそうだった。


「明日また――」


「もう一度やって」


「え?」


 背後から声がした。


 振り返る。


 そこにいたのは、試験中に俺を見ていた銀髪の少女だった。


 近くで見ると、かなり整った顔をしている。


 淡い銀髪を肩の辺りで揃え、青い瞳がまっすぐこちらを見ていた。


 胸元には上位クラスの徽章。


「もう一度、さっきのをやって」


「……告白にしては変わってるな」


「どうしてそうなるの?」


「いや、急に女の子から呼び止められたから」


「私はあなたの魔法の話をしてるのだけど」


「ですよね」


 かなり冷静に返された。


 少女は訓練場の壁へ視線を向ける。


「最後の攻撃。二回壁に当てたでしょう?」


「見えてた?」


「見ていれば分かるわ」


 即答だった。


 周囲の生徒は、俺が何か変な攻撃をしたくらいにしか理解していなかった。


 教師ですら、壁を何度も確認していた。


 なのに、この子は一度見ただけで二回反射まで数えている。


「一回目の反射と二回目で、軌道がずれていた」


「……そこまで?」


「ええ。狙った場所にも当たっていなかったでしょう」


 俺は少し驚いた。


「実は、それを今考えてた」


「やっぱり」


「やっぱり?」


「外したことに気づいている顔だったから」


 何だその見分け方。


「あなた、名前は?」


「レイン・アークライト」


「知ってる。試験で呼ばれていたから」


「じゃあ聞かなくてもよかったんじゃ」


「本人から聞くのは別でしょう」


 そういうものらしい。


「私はセリア・ルーヴェル」


「セリアね」


「……ルーヴェルを知らないの?」


「知ってた方がいい?」


 一瞬、セリアが黙った。


「別にいいわ」


 少しだけ機嫌が良くなったように見えた。


 たぶん気のせいだ。


「それで、もう一度って?」


「反射を見たいの。できれば同じ条件で」


「いいけど、先生に怒られない?」


「許可なら取ったわ」


「早いな」


「あなたがずっと壁を見ていたから、どうせ残ると思ったの」


 読まれていた。


 セリアに案内され、訓練場の端にある実験区画へ移動する。


 人型の標的と、簡単な防壁が置かれた場所だった。


「ここなら魔法を使っていいそうよ」


「助かる」


「さっきと同じことをして」


「分かった」


 標的までの距離を確認する。


 壁は一枚。


 まずは普通の反射。


 俺は波を集束させ、斜めに撃った。


 バシッ!


 壁に当たった波が跳ね、標的の肩に当たる。


「こんな感じ」


「もう一度」


「はい」


 二発目。


 今度は少し左へずれた。


「もう一度」


 三発目。


「もう一度」


「……セリア?」


「何?」


「何回やる予定?」


「傾向が分かるまで」


「俺の魔力がなくなるまでじゃなくて?」


「そこは自分で申告して」


 真顔だった。


 この子、見た目よりだいぶ怖いかもしれない。


 五回ほど繰り返したところで、セリアが壁の前へ歩いた。


「次は材質だけ変えるわ」


 手をかざす。


 冷気が広がり、石壁とほぼ同じ角度、同じ位置に透明な氷の板が立ち上がった。


「おお」


「距離も角度も変えないで。まずは石から氷へ変えた時だけを見る」


「なるほど」


「一度に条件をいくつも変えたら、何が原因か分からなくなるでしょう」


「……すごく研究っぽい」


「今までどうやって試してたの?」


「思いついた順に」


「でしょうね」


 少し呆れられた。


 俺はさっきと同じ位置に立つ。


 同じくらいの魔力。


 同じ角度。


 集束。


 発射。


 波が氷壁へ当たり、跳ね返る。


 バシッ!


 標的へ命中した。


「……石よりずれが少ない?」


「私もそう見えた。でも一回じゃ分からない」


「もう一回」


「ええ」


 今度は俺から言った。


 セリアの眉がわずかに上がる。


 二回。


 三回。


 五回。


 結果を見比べてから、ようやく次へ進む。


「次は角度だけ変えるわ」


「厚さは?」


「その後」


「表面の滑らかさは?」


「その後」


「水は?」


「もっと後」


「先が長いな」


「だから研究なんでしょう」


 正論だった。


 それでも、面白い。


 一人でやっていた時は、思いつくたびに条件を変えていた。


 今は違う。


 一つずつ変えると、何が影響しているのか少しずつ見えてくる。


「表面が平らな方が安定するのかな」


「可能性はあるわ。でも、まだ材質しか比べていない」


「じゃあ次は表面?」


「その前に再現回数を増やす」


「厳しいな」


「あなたが雑すぎるのよ」


 否定できない。


 気づけば俺たちは試験のことなんて完全に忘れていた。


「……セリアってこういうの好きなの?」


「好きというか、気になるだけよ」


「それを好きって言うんじゃ」


「あなたに言われたくない」


 それも否定できない。


 セリアは氷壁を消すと、ふと思い出したように聞いてきた。


「ところで、今までの結果はどこに記録しているの?」


「結果?」


「距離、角度、使った魔力量、命中位置。最低限それくらいは残しているでしょう?」


「……」


「レイン?」


「頭の中?」


 セリアが固まった。


「……嘘でしょう」


「いや、大体覚えてるよ」


「大体では意味がないでしょう」


「でも同じことやれば――」


「昨日と今日で完全に同じ魔力量を出せるの?」


「たぶん」


「角度は?」


「たぶん」


「距離は?」


「……歩数なら」


「記録して」


 強い声だった。


「はい」


 反射的に返事をしてしまった。


「せっかく面白い現象を見つけているのに、条件が分からなければ比較できないじゃない」


「確かに」


「気づいてなかったの?」


「実験する方が楽しくて」


 セリアは額を押さえた。


「あなた、研究に向いているのか向いていないのか分からないわね」


「俺も今ちょっと思った」


 でも、言われてみればその通りだ。


 成功した。


 失敗した。


 それだけ覚えていても、何が違ったのか正確に比べられなければ意味がない。


「じゃあ次から書く」


「次からじゃなくて、今から」


「紙持ってない」


「私が持ってる」


「準備よすぎない?」


 差し出された紙とペンを受け取る。


 俺は今日分かっていることを書き始めた。


 石壁では少しずれる。


 氷壁では比較的安定。


 角度が大きいほど誤差が増えるような気がする。


「『ような気がする』は禁止」


「厳しいな」


「確認できていないなら『要検証』」


「はい先生」


「誰が先生よ」


 そう言いながら、セリアは俺の横から記録を覗き込んでいる。


 しばらくして、俺はふと気づいた。


「セリア」


「何?」


「これ、明日もやる?」


 彼女は少し考える。


「今日だけで結論を出す方がおかしいでしょう」


「だよな」


 自然と笑ってしまった。


 一人で実験するのも面白かった。


 でも、同じ現象を見て、同じように「なぜ?」と考える相手がいると、もっと面白い。


 セリアはそんな俺を見て、少しだけ首を傾げた。


「何を笑ってるの?」


「いや」


 俺は記録用紙へ視線を戻す。


「実験相手がいるのも悪くないなって」


「……実験相手?」


「違った?」


「せめて研究仲間と言いなさい」


「じゃあ、それで」


 こうして俺は学院に入ってすぐ、一人目の研究仲間を手に入れた。


 ただし彼女が、俺よりずっと記録にうるさいということを、この時の俺はまだ軽く考えていた。

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