第98話 四十三箇所、同時
準備に与えられた時間は三十七分。
四十三現場へ人員を置く。
全部に十分な戦力はない。
前のトンネル事件は、偽表示を消し、残った一つの出口を閉じた。今回は抑制を切る瞬間、四十三地点に実際の危険が戻る。冬真が次の根を切るまで、各現場の人間がその時間を引き受ける。
冬真は逆照で優先度をつけた。
「ここ、ここ、ここ。七か所は即危険。残りは二分以上持つ」
月島が国の指揮系統へ流す。
由奈が地図を更新する。
「主任、東京湾側一件、情報欠けてます」
「捨てない。保留で赤」
「了解」
新田から電話。
『会社の人間二十人出す。労務は後だ』
「珍しい」
『今それ言うな』
御厨の班が最危険地点へ入る。
冬真は会社の会議室に設けた臨時制御卓に残った。
本当は現場へ行きたい。
でも今は、自分がここにいる方が強い。
四十三地点から伸びる残因を、ここなら同時に見られる。
三十七分で四十三地点へ人を置く作業は、綺麗には進まなかった。一班が渋滞で遅れ、一地点は鍵が開かない。別の現場では消防と施設管理が入口で揉めた。
「鍵壊して」と冬真。
『また?』新田の声。
「また」
『今月、修繕費いくらだと思ってる』
「国家級に請求して」
『もうしてる』
こんな時でも新田は金を回収する。妙に安心した。
東京湾側の一件だけ、由奈がデータを埋められず焦っている。冬真は「分からないなら赤のまま」と言った。以前なら自分で答えを出そうとしただろう。分からない場所を分からないまま扱うことも、今は強さの一部だ。
「あと五分」
月島が残り時間を告げた。
「怖い?」
冬真が聞く。
「はい」
「俺も」
「なら正常です」
四十三地点、配置完了。
冬真は手を制御盤へ置いた。
残り一分。
御厨から《最危険地点の退避路確保》の短いメッセージ。
冬真は手袋を外した。自分の指で切るために。
四十三地点の一覧に、由奈は担当者の名前まで入れた。単なる地点番号だと冬真が“全部自分の画面の中”だと思い込みやすいからだ。
「ここ、佐藤班。こっちは御厨班。千葉は飯田さん」
「名前いる?」
「主任が無茶する時にいる」
冬真は言い返せなかった。
画面の向こうには四十三組の人間がいる。自分が切れば、その人たちの足元で何かが開く。
「全員、聞こえてます?」
回線へ声を出す。
次々に返事。
冬真は一度だけ息を整えた。
「三十秒後、転嫁を切ります。現象が戻る。予定通り動いてください。俺が根を閉じるまで、持たせて」
『了解』
御厨の声が最後に入った。
『お前は外すな』
「それ言う?」
『言う』
冬真は笑った。
「了解」




