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終わったはずの事故を、俺だけがまだ見ている  作者: YunCang


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94/112

第94話 水無月の外

研究棟を出たところで、冬真は駐車場の自販機へ向かった。


「帰るぞ」


 御厨が後ろから言う。


「二分だけ」


「二分な」


 水のボタンを押す。


 ペットボトルを取ろうとした手が、少し震えていた。


「人だったかもしれない」


「そうだな」


「八年前、誰かが俺を選んだ」


「かもしれない」


「なんで」


「知らねえ」


 御厨は即答した。


 冬真はキャップを開ける。


「もうちょっと何かない?」


「今分からんもんを今答えにするな」


「新田課長みたい」


「最悪だな」


「本人に言います」


「やめろ」


 少し笑えた。


 駐車場のアスファルトは昼の熱をまだ持っている。水無月ホテルを思い出す時はいつも寒いのに、今日は靴底から熱が上がってきた。


 ここは八年前ではない。


「もし、その人が生きてたら」


 冬真は水を飲んだ。


「会いたいのか、自分でも分かんない」


「会ってから決めろ」


「生きてるかも分からない」


「それも調べろ」


「今日ほんと雑だな」


「答えのないことに上手いこと言う趣味ねえんだよ」


 御厨は腕時計を見る。


「あと三十秒」


「数えてる?」


「お前が二分って言った」


 冬真は空のボトルをゴミ箱へ投げた。今度はちゃんと入る。


「行きます」


「二分ちょうど」


 車へ戻ってから、冬真は母とのトーク画面を開いた。


 水無月ホテルの話を、家ではほとんどしない。


 事故のあと、母は病院と警察と学校を何度も往復した。冬真が覚えていない時間まで、母は生きている。


 電話ボタンに指を置く。


 やめた。


 代わりに打つ。


《今度の日曜、飯行く?》


 返事はすぐだった。


《珍しい。何かあった?》


《別に》


《怪しい》


 冬真は笑う。


 御厨が助手席から画面を覗きかけた。


「彼女?」


「母親」


「つまんねえ」


「何期待してんですか」


 冬真はスマホを伏せた。


 八年前の答えは欲しい。


 でも、今日の生活まで八年前へ持っていかれる気はなかった。


 車が研究棟を出る。


 バックミラーの中で、建物が小さくなっていった。


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