第81話 桐森市再訪
桐森市へ向かう電車の中で、冬真は前回の報告書を読み直した。自分の名前はもう「補助調査」ではなく「主担当」になっている。
由奈に「慣れました?」と聞かれ、冬真は「嬉しいけど、責任も増えた」と答えた。
市役所のエレベーターを降りると、事故ゼロのポスターが目に飛び込んできた。
桐森市は三か月連続で「異常事故ゼロ」を達成していた。
市役所のロビーには、その数字を大きく印刷したポスターまで貼ってある。
「前来た時より自信ついてますね」
由奈が言う。
「数字は人を元気にするからな」
「主任も給与明細で元気になりますもんね」
「悪い?」
「全然」
冬真は笑ってから、ポスターの下にある地域別事故一覧を見た。
中心部、ゼロ。
商業区、ゼロ。
観光区、ゼロ。
旧住宅区だけ、異常関連の急死が十一件。
「ゼロじゃない」
月島が横に立つ。
「市の定義では、旧住宅区は“重点復旧対象外”です」
「言葉変えただけじゃん」
「だから来ました」
市長との面談は午後。午前中は現場を回る時間がある。
冬真は予定表を閉じた。
「先に住宅区見ます」
「また勝手に」
「広域資格、こういう時に使うんでしょ」
月島が一秒だけ黙る。
「……昼までには戻ってください」
「もう一軒くらい寄れる?」
「面談に遅れない範囲で」
「細かいな」
「仕事です」




