第80話 一本だけ残す
四十二本の偽出口を一度に消す。
ただし本物の出口は残す。
冬真は神奈川の壁へ手を置いた。
逆照。
偽物だけを一本ずつ区別する。
そして共有された転嫁関係を掴む。
「先に偽物」
断因。
全国四十二本のトンネルで、百メートル早い出口表示が消えた。
神奈川だけ残る。
壁が、ゆっくり奥へ沈む。
本当に出口が現れた。
トンネルの空気に潮の匂いが混じり、図面にはない海辺の夜景が向こう側に開く。
工事図面にない、海沿いの空間。
「出た」
月島が息を呑む。
冬真は白い一点を見る。
今度は綺麗すぎない。
歪んで、汚れて、現場の全部を引き受けている。
本物だ。
「見切った」
御厨が一歩下がる。
冬真は壁の奥へ手を伸ばした。
「ここで終わりだ」
断因。
出口が消える。
全国四十三本のトンネルが同時に通常表示へ戻った。
月島の携帯が鳴る。
確認を一件ずつ読み上げる彼女を横に、冬真は壁へ背中をつけた。
「疲れた」
「国家級ですから」
「手当も国家級でお願いします」
「新田さんに言ってください」
「もう送った」
全国復旧の確認が終わるまで十八分かかった。その間、冬真はトンネル入口の地面に座り、紙コップの味噌汁を飲んだ。工事会社の人がくれたものだ。
「国家級の締めが味噌汁」
月島が言う。
「温かいから正解」
御厨はもう二杯目だった。
四十三本を閉じた直後でも、腹は減る。身体は普通の二十四歳のままだ。その普通さが冬真は嫌いではなかった。
月島の端末に最後の《正常》が入る。
「全四十三、復旧確認」
冬真は紙コップを持ち上げた。
「じゃあ乾杯」
「味噌汁で?」
「何でもいい」
御厨だけが無言で紙コップをぶつけてきた。月島は一秒迷ってから真似した。
三つの紙コップが小さく鳴った。




